メディアグランプリ

不思議な高校生女子への提案


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:睦月薫子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
私は一人っ子である。高校生のときに共学の高校に通っており、たまに学校を休むことがあり、教師になって間もない若い男性の先生は、熱心に放課後時間を見つけては、相談に乗ってくれていたのだが、私の悩みは、
「クラスの女子の中で私以外はみんな男子に告白されたことがある」
ということだった。今思えばカワイイ悩みだけど、文化祭の準備のときに放課後女子が集まってそういう話になって、告白されたことがないのは私だけということが発覚した。誰もが、「私もあるよ」と答えたのだ。
その担任の先生は、私の話をきいて、私が女子として魅力がないと思ったのか、
「おまえさんは勉強などするな。人間関係がいちばんだ。それさえうまくいけば勉強など人生にはいらない」と、極論を言った。私にとってそのアドバイスは胡散臭くも感じたが、先生からみて勉強勉強でおいまくられている進学校の生徒は気の毒で、親が高学歴でもなく、素質もあるように見えないのに能力もなく勉強をさせられている私は可哀想で、恋愛でもしてさっさとそのレースから離脱したらよいという言い方だった。とはいっても、いきなり、異性にもてるアドバイスをその先生ができるのなら、その人も、結婚したいと常に言っていたのだからできただろう。魔法のようなアドバイスはなく、先生が言ったのは、
「犬でも飼ってみたら」
ということだった。だが、即告白されそうな即効性のある提案ではなく、なかなかカノジョもできない先生らしい、直接は解決に結びつかないのではと不安になる頼りない提案であった。それとも、犬を飼ったらすぐにモテるというのだろうか。
私は動物が嫌いな母のもとで育ち、母と二人で犬や猫の近くを通るときには、「嫌いだという匂いがどこからかでるから、嫌いと思ったらいかんよ」
と母にいわれるので、心のなかで『犬は嫌いではない、なんともない』と何度も繰り返し唱えた。父は大きな農家の出身だったので、羊や馬や鶏や様々な動物がいる家庭に育ち、動物が大好きだったので、これでやっと動物が飼えると喜んで私をペットショップに連れて行った。私は動物が売っているところの独特のニオイを嗅ぎながら、どうでもいいやと思う気持ちが心の中で膨らむのを感じていた。
「黒かったら汚れが目立たないからこれにしたら」
といって、白いマルチーズと黒茶のヨークシャテリアが並んでいるうちのヨークシャテリアを、まともにそちらに向きもせずに、指さした。本当はどっちでもよかった。犬はその私の手に向かってきゃんきゃん嬉しいのか怖いのかわからないが、興奮して鳴いていた。
早速家に連れて帰ってきたが、私は犬を避けまくり、両親が仕事にいっていない間も自分の部屋に引きこもっていたが、運が悪いことに外から私が帰ってくるときや、部屋から出て手洗いに行くときなどに犬がいるリビングを通らねばならず、何も知らない犬は私にまとわりつくのだった。引きこもりがちな高校生の私と共働きで朝早くでていって夜家に帰ってくる両親。どう考えても犬と接する時間は私が長い。いつもおそるおそる自分の部屋の扉をあけると犬は喜んで走ってきて飛びついた。「きゃ-」と叫ぼうが「やめてよ」と怒鳴ろうが、人なつっこく寄ってきた。父に「いやだから早くペット屋さんに返してきてよ」としばらく毎日のように言っていた。
それが、しばらく一緒に暮らしていると、なぜかとてもかわいくなり、私はその犬と散歩にいったり、お風呂にいれたり、あれこれと世話を焼くようになった。なぜかわからないのだが、面倒をみていると愛着が湧いてくるのである。また向こうもこっちを頼りにしてくれる。信頼関係が芽生えたような気がしてきた。この犬のために私は年老いたら通院が必要になるだろうと、車の免許も取った。大変なかわりようである。
さらに月日が経ち、入った大学も卒業し、私も就職して家を出て、犬は両親のもとに残った。犬も歳をとり、老齢になり、たまに咳をするようになり、もう長くはないと思い始めていたとき、私は、「どうせ死ぬなら私がいないときにそっといなくなってくれたら」などと飼い主として薄情なことも考えたりもした。死ぬのを見たくなかったのだ。ところが、ある日私が家に帰ってきているときに、発作を起こして、15歳で心臓の病気で死んだ。あっけないようだが、一晩中動物病院で処置が行われた。長い夜だった。人生で一番泣いた。私は発作の間ずっと、心の中で「ありがとう、本当にありがとう」と犬に心のなかで語っていた。私はその犬と出会って本当に幸せだったと思うのだ。それまで私は子供として親などの大人たちからいろいろと与えてもらうばかりで、与えてもらうために気を遣ったりして、それは楽でもあり、精神をすり減らす面もあったことに気づいた。しかし、人は愛することによってこんなに満たされた気持ちになるのだということを、その犬は私に教えてくれた気がする。
そして、高校時代からもう30年以上たった。それから我が家には動物がいつもいる。私は動物を飼うようになって、高校時代の先生の予測通り人の気持ちを察したりすることや、世話をすることの喜びも知った。動物を飼うということは、人と関わるトレーニングになると高校時代の先生は言いたかったのだろうかと思うが、そういう理屈を超えた良さが動物を飼うことにはある。もちろんトレーニングにもなるし、心も癒されるし、また自分が成長することもできる。人間はえてして理屈や打算で考えがちなところを、動物はひたむきな目でこちらをみてくれて、それでいて何もかも見透かされているようでもある。
しかし、肝心の人間の異性からの「告白」には結びついてない。それは残念なことである。
先生の悩みに対するアドバイスは悩みの直接解決法としては的確ではなかったかもしれないが、私自身にとっては人間的に成長するきっかけを与えてくれたという意味で、ありがたい提案であった。先生に感謝している。

 
 
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2018-04-21 | Posted in メディアグランプリ, 未分類, 記事

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