メディアグランプリ

妄想のすゝめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:谷中田千恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
大きな声では言えないが、妄想が大好きだ。
 
電車の中や、車の運転中はもちろん、会議中や、家事の合間でさえも妄想の世界に浸っている。
ひどい時にはTVドラマを見ながら、妄想にふけっていたことがあり、フィクションの世界を見ながら、さらにフィクションを妄想するなんて、これは一種の中毒では? と我ながら心配になることもあった。
 
妄想には、たいがい、その時期のお気に入りがあり、そのシーンを何度も何度もリフレインする。
恥ずかしながら、ここで、今の私のイチオシ妄想をご披露させていただきたい。
 
私は、たくさんのフラッシュをたかれる中、緊張した面持ちで登壇する。
目の前には、たくさんの記者と、カメラの波だ。
突然呼ばれたため、普段着の私は、動揺で震えが止まらない。
 
そう、ここは、直木賞受賞の会見場だ。
 
着席し、司会者の一通りの紹介の後、コメントを求められる。
私は、会社員として働きながら、小説をコツコツと書いてきた日々を思い出す。
何年もデビューできず、悔しさで眠れなかった夜があった。
仕事で疲れ果て、パソコンに向かうことさえ苦痛だった日は何度もある。
それでも書くことをやめなかった。
継続が、今日こうして、実を結んだのだ。
 
震える声で、マイクに向かう。
 
「賞を取るために、小説を書いてきたわけではありません。
それでも、こんなに嬉しいものなのだと驚いています。
この賞を取れたのも、沢山の人の支えがあったからです。
ずっと私を信じ、励まし続けてくれた編集の佐藤さん(仮名)。
執筆の時間をくれた、夫と子供たち。
産んでくれた、父と母。
そして、何より読者様のおかげです。
本当にありがとうございました」
 
妄想の世界は、なんでもありだ。
 
そもそも、私は小説を書いたことがない。
そのため、当たり前だが、編集の佐藤さん(仮名)なんて人も存じ上げない。
そして、未婚のため、夫も子供もいない。
 
それでも、私は、この妄想の世界にリアリティーを持って浸る。
コメントを述べる段には、書いたこともない小説の苦節の日々が走馬灯のようによみがえり、ありもしない家族を思い浮かべては胸を熱くする。
 
「ありがとうございました」の言葉が出る頃には、万感の思いがあふれ、実際に涙を流し、電車の中で慌ててハンカチを探したこともあった。
 
軽い、狂気の沙汰だと思っておられるだろう。
大丈夫、私も自分のことながら、少し危険な香りは感じ取っている。
 
私の妄想好きは、小さな頃からだった。
妄想のシチュエーションは、「カラオケで歌が上手くなる」ような小さなものから、「海外を股に掛ける天才建築家」まで多岐にわたる。
妄想歴は、軽く30年は超える。
思想家や哲学家などに並び、「妄想家」なる職業があるならば、私はすでにベテランの域だ。
 
そんな私だから、妄想が与えてくれる効能についてもよく理解している。
 
妄想の話をすると、よく、引き寄せの法則やら、深層心理やらの話を持ち出すしては、「真剣に想像し続ければ、現実になる」と唱える人がいる。
しかし、はっきりと断言しよう。
 
妄想が、そのまま現実になる可能性は、極めて薄い。
 
小さな頃から、誰にも負けない真剣さで妄想をし続けたが、カラオケでうまく歌えた試しはないし、アイドルと恋に落ちることもなかった。
想像は、やはり想像なのだ。
 
かといって、妄想が、無駄なわけではない。
 
妄想をそのまま叶えることは難しいが、妄想の中の自分に近づくことは可能だ。
 
直木賞受賞の妄想から覚めた後、私は、しばらく達成感と自信を身にまとう。
私は、苦境を乗り越え、小説を書き上げられたのだ。
私は、大丈夫。なんでも乗り越えられる。
と、何も達成していないのに、自分自身を信じられるような気になる。
 
仕事で失敗をした時は、意識的にこういう妄想をする。
ミスをすると、焦りやネガティブな感情から次のミスを誘発しやすい。
ところが、上司に、しこたま怒られた日でも、帰りの電車で直木賞を受賞すれば、自信が回復する。
自信が回復すると、心が落ち着く。
次の仕事も、通常運転、いや、それ以上のパフォーマンスで臨める。
 
つまり、妄想の力で、自分の感情をコントロールしてしまうのだ。
 
妄想好きの自分を、こじつけで肯定しているのだろうと思うかもしれない。
それでも、騙されたと思って、一度試してもらいたい。
 
楽しい妄想は、一日を笑顔にするし、恋する妄想は、胸をキュンとする甘酸っぱさで気分を盛り上げる。
妄想次第で、どんな一日でも、すてきに彩ることができるのだ。
 
実際に、私は、今この瞬間も、妄想をしている。
 
この文章を読む、あなたから、一通の手紙が届く。
その手紙には、こう書かれている。
 
「あの時、妄想のすゝめという文章を読んで、私は人生を救われました」
 
充実感と、喜びで、先ほどから口角が上がりっぱなしだ。
今日も、楽しい一日になるに違いない。
 
これだから妄想はやめられない。
 
 
 
 
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2019-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 未分類, 記事

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