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ママ起業のリアル

第3章 たった1日で変わる当たり前〜起業塾ってこんなところ《ママ起業のリアル》


記事:ギール 里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

背水の陣で支払った50万円、消費税を入れて54万円という大金は、それでも最初に知った起業塾の100万円から比べると半額だったので、なんだか安くさえ感じました。勢いで始めた自然食品店は、毎月50万円の赤字でしたから、それをストップさせるためにかけるコストとしては、そのぐらいは仕方ないのかとも思いました。お店の経営を立て直すため、ビジネスをゼロから学ぼうと決意した私は、生まれて初めて起業塾の扉を叩いたのでした。
もちろんそれでも、安い金額ではありません。しかしこのお金でお店の経営が持ち直すのであれば、それはよい投資と言えます。私は起業塾で絶対に成果を出す、と決めて臨みました。
 
「在庫は持たない、在庫のでるビジネスはもたない」
 
起業塾に入ることを決めた個別相談で、このように言われました。在庫のあるビジネスはするな、ということでした。しかしお店はもちろん、在庫を抱える商売です。お店なのに在庫を持たないビジネスが可能なのでしょうか。その時はまだ、何もわかりませんでした。
 
ではいったい、どんなビジネスを私は学び実践していくのだろう?
わからないことだらけでした。しかしわからない世界に飛び込むことに、不安は1ミリも感じませんでした。それよりも期待や希望の方が大きかった。というのも、きちんと経営ができるようになったら、赤字を解消し、お店を続けていくことができる。そういう未来を描いて、前向きで明るい気持ちのほうが強かったのです。
 
5月のある晴れた月曜日、その起業塾は始まりました。
大井町にある貸し会議室で、朝11時にスタートしました。終わるのは夕方5時、そこから懇親会があるとのこと。ほとんど丸一日かけてのセミナーです。もちろんその間もお店は営業していますし、まだ4歳の息子も幼稚園に通っています。あまり記憶が定かではないのですが、なんとか夫に息子のお世話をお願いし、時間をやりくりしたのでしょう。久しぶりに丸一日、自分のために自分一人で出かけることになりました。
 
子どもが小さいうちは、どこに行くにも子どもが一緒です。自分一人で没頭できる時間など、全くないのが母親業です。私は出産と同時に仕事を辞めていたので、子どもを保育園に入れるという選択肢はなく、特に幼稚園が始まる3歳までは、常に息子と一緒に過ごす生活でした。
家の中ではお風呂もトイレも一人でいくことができません。外に出る時は常に息子をバギーに乗せて、東京中をあちこち動き回っていたものの、そのほとんどは子連れOKのカフェやデパート、公園だけ。この日のように、自分一人だけでで学び、しかも懇親会まで参加するのは、とても勇気がいりました。
 
「小さい子をもつ母親は、夜外出はしちゃいけない」
という世間の当たり前すらあります。私はお店もしていましたし、夜はヨガ講師の仕事もしていたので、一人で仕事に出ることはありましたが、懇親会のような飲食を伴う場に夜一人で出かけることは、当時ありえないことでした。
 
緊張しながらもわくわくして、貸し会議室のドアを開けました。スタートする11時まであとまだ15分ほどあります。先輩とおぼしき人たちが何人かずつのグループになって、なにやらビジネスの話をしているようでした。その時即座に感じたのは
 
「うわ、なんだかピリピリしてる!」
という気配でした。
 
なんだかみんながとても怖そうに見えました。
いわゆる成功者というか、お金を稼いでいる人特有の自信ありげな様子で、言葉も勢いがあり声も大きい。着ている洋服もどこか華やかで、これまでの私の生活にはなかったものでした。私はそれまでいわゆる”オーガニック村”の住民でしたから、自然素材のシャツやデニムを着るような生活で、なんなら妊娠、出産を経て、何を着ればいいのかさっぱりわからない洋服難民になっていたので、、こういう場所にどんな洋服を着て行ったらいいものやら、皆目検討がつきませんでした。
 
それでも一応ちゃんとした服が必要であろうと、妊娠前に着ていたブランド物のワンピースを引っ張り出し、なんとか格好をつけていきました。
しかし、起業塾にきていた女性たちは、みな化粧も派手で、キラキラした服やカバンを身につけていました。明らかに住んでいる世界が違う、そう思わざるをえませんでした。
 
今から思えば多分気のせい、気にしすぎだと思います。しかしその時、何か馬鹿にされているような、そんな気持ちにもなりました。キラキラ着飾って態度のデカイ人たちに、見下されているような気すらしました。この居心地の悪さはなんだろう。その疑問はその日、自己紹介の時にはっきりとわかりました。
 
起業塾の講義がスタートしました。最初は新入りの自己紹介からです。私を含めて、5、6人が新人の同期だったと思います。中にはよそのセミナーで見た顔もいました。知っている顔があると少しは安心もします。緊張していた私たちは、順番に一人ずつ、普通に自己紹介をしていきました。私が一番最後になりました。
 
自分の番がくるまで、私は諸先輩方の顔色をじっと見ていました。円形に座席が並んでいたので、全員の顔がよく見えます。30人ぐらいいたでしょうか、そのうち9割は女性、男性は3人ぐらい。彼らの顔を見ながら、一つのことに気づきました。
 
「私たち、ぜんぜんウェルカムされてない」
 
いつまで続く?どうせまたあっさり消えていくんじゃない?
そんな揶揄を込めた目線が突き刺さってくるのです。そうか、私たちは期待されているんじゃなくて、どうせまたダメなんでしょと、最初から諦められているのか。どうせ無理だ、成果なんて出せずに消えていくんでしょと馬鹿にされている。そんなマイナスのエネルギーをいやほど浴びせられました。
 
そこで私が思ったことはただ一つ。
 
「絶対に生き残ってやる」
でした。
 
元来負けず嫌いな私です。逆境であればあるほど意欲が燃えます。新入りの中ではもちろん一番に成果を出そう。そしてなんなら、先輩も全員ぶち抜こう。そんな意欲がメラメラと燃え始めたのでした。50万円の投資と、お店の経営がかかっている。小さい息子もいる。がんばってこいと応援してくれる夫もいる。私には一生懸命やらない理由も、手を抜く理由も一切ありません。また先輩たちにビビって尻込みしている場合でもありません。
 
先輩たちはみなノートパソコンを持参し、セミナー中はひっきりなしに何かを書き留めていました。よくスタバなんかでパソコンを開いてかちゃかちゃ仕事している風な人を見かけるたびに、この人たちは一体何をしているんだろう、どういう仕事の人たちなんだろうと不思議でしかたなかったのですが、この時ようやく彼らがどんな人なのか、わかったような気がしました。それまで一介の主婦だった私は、パソコンを家から持ち出してまで、カフェで仕事している人の意味が全くわからなかったのです。ましてやもうスマホがあった時代ですし、特に普通の主婦であればほとんどのことはスマホで賄えてしまうからです。
 
ふと見ると、先輩方のノートパソコンは全員がMacでした。私自身は1990年代からMacユーザーなので、それには何も違和感がなかったのですが、先輩のなかでただ一人、Windowsを使ってる方がいらっしゃいました。そして事件は起こりました。
 
「○○さん、そのパソコン、目障りなんですけど」
 
起業塾の主宰者である女性が言いました。
人に向かってあからさまにきつい言葉を浴びせる様子に、正直面食らいました。
 
別に、パソコンなんて、なんだっていいではないですか。自分が使う物だし、自分がよければなんでもいい。人の持ち物をとやかく言うのがおかしいことぐらい、最近は小学生でもわかっています。
 
しかし言われた女性も、まったく怯んでいません。
 
「お手洗いにいってきます」
 
と主宰者の女性を睨み返すと、ばんとテーブルに手をついて立ち上がり、そのまま会議室を出てしまいました。
おそらく2、30分が経ったと思います。長い時間出て行ったその女性が戻ってきました。
挨拶もなにもなく、遠慮もなにもなく、講義中にもかかわらず、堂々とドアをあけてずかずかと歩き、自分の席に戻っていきました。
 
「随分、長かったのね」主宰者の女性は声をかけました。すると
「ええ、気分が悪かったので」女性も言い返しました。
 
険悪なやりとりが始まりました。
 
大変なところに来てしまった……
 
私をはじめ、あきらかに新入り全員は怯んでいます。
古株たちも、このようなやりとりに慣れているのか、とばっちりが飛んでくるのがいやなのか、誰も何も言いません。
こんな人間関係のなかで、私はこれから学ぶのかと思うと、気分が滅入りました。
 
しかし、落ち込んでいる暇も、お金も、私には残っていません。やるしかない。
今やめたら54万円が無駄になる。
私はここに友達を作りにきたわけじゃない。ビジネスを学びにきたのだ。
自分の学びをしっかりと得て、収益を上げる方法を身につけるためにきたのだ。まわりはどうでもいい。自分のことに集中しよう。とにかくやるしかない。
 
タイムリミットは6ヶ月間。
なぜならそれが、54万円の契約期間だったからです。
6ヶ月で必ず成果を出して見せる。
大学受験を目指した時以来の闘争心で、心が燃えていました。
 
起業塾というところは、不思議な人たちの集まりです。高校や大学というような環境とは違い、
また企業や会社というものでもない。趣味のサークルや習い事という環境でもない、全員が自分の意思で入塾し、ビジネスという、生きるために必要なライフスキルを本気で学びに来ています。そのせいか、人々の気配や濃度のようなものが、とにかく熱いのです。
 
散々な初日を迎えた私は、爆発しそうな脳味噌を抱えながら、23時もまわったころに帰宅したのでした。4歳の息子は、もちろん寝た後でした。
 
「かあちゃん、がんばるからね」
息子の寝顔を見ながら、さらに気持ちは固まりました。
 
長かった1日が終わりました。
 
 
<4章につづく>

 
 
 
 


ママのお助けレシピ

 

とりあえずは鍋いっぱい作っておけば安心
ママ不在を助ける万能重ね煮スープ

材料……鍋いっぱい分
玉ねぎ 適量
キャベツ 適量
にんじん 適量
その他好きな野菜 適量
(ごぼう、かぶ、ほか)
好きなきのこ 適量
(しめじ、えのき、しいたけ、ほか)
厚揚げ 適量
オリーブオイル 大さじ1〜2
昆布出汁 鍋の容量に合う分量
塩 ひとつまみ
 
味付け
*味噌を加えて味噌汁に
*トマトを加えてトマトスープに
*カレールーを加えてカレーの
*薄口しょうゆ、塩を加えてポトフに
*豆乳、白味噌を加えてシチューに
 
作り方(炊飯器)
1 野菜はすべて適当な量でかまいません。
それぞれお好みのサイズ&形に切って、鍋にいれます。
下から厚揚げ、きのこ、キャベツ、たまねぎ、にんじん、の順番に重ねます。
2 上から塩ひとつまみ、オリーブオイルを回しかけ、中弱火にかけます。
3 野菜が焼ける音がしてきたら、弱火にして蓋をし、20分加熱する。
4 3に昆布出汁がひたひたになるまで入れて、火を強めます。沸騰したら鍋のギリギリまで昆布出汁をいれて一度沸騰させたら火を止めてできあがり。
5 お好みの味をつける。

 
コレさえ作っておけば、その日の気分で味付けを変えるだけで、立派な1品にしあがります。冷蔵庫の残り野菜も整理できるし、たっぷり作れば冷蔵庫で3〜4日持ちますので、忙しいママにはぴったり。
 
ママも疲れて仕事からもどったら、温かいスープでほっと一息。
忙しい家族を支える最強のスープです。
 

❏ライタープロフィール
ギール 里映(READING LIFE 編集部公認ライター)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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2020-05-18 | Posted in ママ起業のリアル, 記事

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