プロフェッショナル・ゼミ

結婚したい人は絶対「君の名は。」を見た方がいい理由《プロフェッショナル・ゼミ》


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記事:黒須万葉(プロフェッショナル・ゼミ)

新海誠監督の「君の名は。」を見た。
映像も音楽も素晴らしかった。

飽きさせない工夫が髄所にあり、最後まで面白く見ることができた。
「君の名は。」は、あらゆる年代の人が楽しめる作品だ。

でも、それだけならこの映画について書こうと思わなかっただろう。
震えるほど感動して涙したというわけではなかったからだ。

書きたくなった理由は、この映画が結婚したい人にとてもいいと思ったからだ。
恋愛映画だから? 否、恋愛映画なら他にもたくさんある。

 

 

「君の名は。」は8月26日に映画が公開されて、9月22日には興行収入100億円を突破したそうだ。つまり、とてつもなくヒットしているのだ。

テレビで新海監督がインタヴューを受けているのを見た。
そこでの話が印象的だった。
「今回の映画は、自分の作品を見たことがない人に来て欲しかった。だから、これまでつくってきた作品の売れる要素をすべて大胆に入れこんだ。他の作品で既にやったことでも、効果的ならすべて入れ込んだ」というようなことを話していた。

これまでの彼の作品で評価の高い要素(型)を、グレードアップして入れ込むならば、新海ファンにとっては新鮮味がないかもしれない。でも、新しい客層は確実につかめるだろう。古いファンも、水戸黄門のように、新鮮味より新海色を求めているのだ。

誰でも共感でき、わかりやすい。これがヒットには絶対必要だという。
それを意図的に組みこんだ作品だというのだ。

監督の言った通り、異例の大ヒットになっているわけだから、目論みは大当たり、新海作品を全く知らなかった層を動かすことに成功した。

アニメを映画館で見ることがほとんどなかった私も、動かされた一人だ。
どんな仕組みで人を動かすのか見たくなったのだ。

 

映画を見て、なるほど、と思った。

基本は、「会いたくても会えない君を思い続ける恋愛映画」だ。
そこに、美しい映像美と音楽、自然災害、ファンタジー、絆、年上の女性への憧れ、すれ違い、生と死、別れと成長。これでもかと、感情を発生させる装置が隠されている。

感情を高め、ひっぱり、ドキドキさせ、ホッとさせる。
笑い、涙し、怒り、喜ぶ。
じらし、求め、落胆させ、希望をもたせる。
売れる要素がてんこ盛りだった。

 

映画の主人公は、東京の都心に住む高校生立花瀧と山深い田舎に住む高校生宮水三葉。出会うことがない対照的な二人だ。

そんな二人に冒頭で、「男女の入れ替わり」が唐突におこる。

ある朝おきてみると、男女の心と身体が入れ替わっているというやつだ。

女性はあまり男性の身体に入ってみたいという興味はないが、男性にとって、かわいらしい女性の身体に入って一日過ごしてみるというのは、夢なのかもしれない。

女の子の身体、日常、そういったものを垣間見てみたい、嫌がられずに女の子の身体を触ってみたい。妄想が膨らむ。ファンタジーの基本だ。

「君の名は。」でも、主人公が入れ替わる。さらに、それは夢(ゆめ)か現(うつつ)かわからない。入れ替わり立ち代りが繰り返されていく。

 

だんだん面白いことに気づいた。
瀧くん、三葉は、自分自身であるときは、あまり魅力的でないのだ。

 

瀧くんは、一面的で、深みのないステレオタイプの男の子だし、
三葉は、男性目線で描かれたつまらない女の子だ。

あえて、個性を描かないようにしているのかもしれないが、
この二人が入れ替わらず、ただ出会って恋愛する物語だったら見なくてもいいかと思ってしまう。

でも、そこに入れ替わり立ち代りの葛藤がずっと続く。

瀧の心を持った三葉。
三葉の心を持った瀧。

すると、俄然二人の魅力が増していくのだ。
葛藤しているのにキラキラしはじめる。

女性の中に、大胆で行動的な男性的感性が入ると、三葉の人間的な魅力がずっと深まる。男性の中に、繊細で受容的な女性的感性が入ると瀧くんの人間としての魅力が深まる。二人とも自然に、男にも女にももて始める。瀧くんは、バイト先のあこがれの先輩とデートできたし、三葉は学校で告白されたりもするのだ。

相手の欠点も長所も体感するので、共感が生まれる。自分が相手になっているときに相手を助けたいと思い始めるのだ。でも、相手の身体なのに、相手の心は手に入らない。もどかしさが高まる。だから魅力がぐんぐん高まるのだ。決して手に入らなければ入らないほど、男女だったら絶対恋に落ちてしまうだろう。

じらしは恋愛のスパイスだ。
かくして、瀧くんと三葉は魅力的になっていく。

 

私たちは、何かの理由で、「身体と心」が入れ替わるというドラマが好きだ。
定番の型なのだ。

これまでも、入れ替わりドラマはたくさんあった。

男の子と女の子
父親と娘
夫の愛人と正妻
高校生と医者
やくざと児童相談員
総理と大学生
貧乏人と金持ち

設定はさまざまだが、共通することはギャップが大きいとそれだけドラマが面白くなるということだ。ドラマが面白いということは、必ず「なるほど!」と思う感動が大きい。

全く異質、もしくは嫌悪している対象に自分がなるということは、誰にとっても嫌なことだ。でも、自分を守るためにも、入れ替わった相手の生活をなんとかスムーズに送らないといけない。相手の人間関係、日々の生活を過ごしていると、相手のことが理解できてくるのだ。

理解できる相手は、愛することができる。
かくして、自分の視点をもちながら、相手の人生を生きることで、必ず、人間としての成長がおこるのだ。すると2倍魅力的な人間になる。
ドラマはそれをわかりやすく、短期間で見せてくれるのだ。

入れ替わりドラマの人気があるのは、バレないようにというハラハラ、ドキドキのサスペンスと、相手への共感と理解がもたらす成長が観ている人を動かすからだ。

 

 

そんな話を、子どものいる友人に話した。
彼女は、「面白いねえ。親は自然とそれをやっているのかもしれないね~」と言う。

「どういうこと?」
「視点の広さのことだけど、例えば、親と子の逆転の場合、どちらの方が成長できると思う?」
「う~ん。子どもかなあ」
「そう。つまり視野が狭い方(子ども)が視野の広い方(親)の身体に入った方が、成長できるんだなあ。
親が子どもの身体に入ったとしても、それはそれで面白いけど、自分も通ってきた道だから、日々はなんとかやり過ごせると思うよ。同じことはやっていないとしても、親の方が相似形で使える経験値が違うからね。

でも、子どもが親の役割をできるかっていうと、経験も精神的成長もないから、難しいよね。だからこそ、学びは大きくなると思う。
でも、子どもは、親よりできると考えているけどね。」

「なるほどね~!」

「うふふ。私自身のことを言っているのよ。子どもの頃は、親がバカに見えていたからね。なんでこんなこともできないのだろう。何で子どもを傷つけるようなことを平気で言うんだろう。なんで、子どもの気持ちがわからないんだろう。そんな風に思っていた。親より自分の方がわかっている。自分の方がいろいろできるってね。

だけど子どもを持ったら、子どもが昔の自分と同じなのよ~。なまいきで、自分の方がわかっていると思っている。誰が食べさせているのって思うけど、小賢しく私に説教してきたりね。いざとなると頼ってくるくせにね。
だけど、それもコミコミでかわいいんだよね。だから許しちゃう」

深く納得した。
実生活では、何十年という時間を経過しなければ、子は親の立場を理解できない。

男性だったり、女性だったり、やくざだったり、総理だったり、絶世の美女だったり、火星人だったり!
そういうのは、時間が経過してもほぼ体験できないだろう。
だから、入れ替わりがドラマになる。
映画でなら、わずか2時間で体験できる。

だから映画や小説を私たちは読むのだ。
自分が体験できないものを体験するために。

 

そういえば昔、友人が、ご主人との関係に悩んでいた。
だらしない、頼りない、無責任、都合が悪いと怒りだす、気が利かない、無口、いい加減、一緒にいても楽しくない、と彼女はさんざん私にご主人の愚痴を吐き出していた。

私がご主人の良さに少しでも目を向けてもらおうとしても、「どちらの味方だ」と怒り出す始末。どちらの味方でもないが、離婚したいのかと聞いたところ、子どもが小さいからそれは嫌だと言う。

長時間愚痴を聞いていると、さすがに私が男だったら、こんな奥さんとは離婚したいと思った。
それで、思いついた。
とても簡単な方法だ。

夫になりきって、夫の視点で、目の前の妻(自分)を見てみることを提案してみた。

感情が高ぶっているときは難しいが、さんざん私にご主人の愚痴を吐き出した後だったから、やってみようと言う気になったらしい。

彼女は眼を閉じて、ご主人のなろうと試みてみた。
最初、そう思うだけでムカムカすると言い、相手になりきるのは難しそうだった。夫になっていると言いながら、相変わらず、夫の欠点を言おうとするのだ。

それでは何も解決しない。このまま同じことの繰り返しになるから夫の気持ちになりきるよう何度も伝えた。

最初、彼女は私に「夫の味方ばかりする」と怒りをぶつけてきた。

でも、少しずつ少しずつ、イメージの中で夫になろうとしているのがわかった。
夫の視点で、この世界をのぞいてみる。夫の視点で、毎日の生活を感じてみる。
夫の視点で、仕事をしたり、家庭を持ったり、子どもの教育を考えてみた。

男兄弟のいない彼女にとって、それは未知の世界だったけれど、ちゃんと社会経験もあるし、子どももいる人だったから、少しずつ夫の気持ちに寄り添えるようになったのだ。

かなりの時間、彼女は目を閉じていた。
やがて、「は~」と深いため息をついた。そして、目を開いた。

 

「負けたわ、負けた!

正直、夫の目から、目の前の女(私の友人)を見たら、くやしいけど逃げ出したくなった。
いつもがみがみどなってばかりで、綺麗でも性的魅力もない。そんなこと言おうものなら大変なことになるから、彼は何も言わなくなった。料理も平凡なものしかつくれない。その癖、要求が激しいの、この女」

「私が男だったら、絶対この女とは結婚しない。もっとやさしくて、要求がましくない女性がいい。そうだ、稼げる女もいいなあ。
もちろん、こっちだって、お前みたいな男は払い下げといいたいけど、確かに、今の私は魅力がない。くやしいけど。女として、低レベルだと思うわ」

「すごいねえ。偉いよ。ちゃんと自分を振り返ることができるなんて。大人だねえ。たいてい、自分は正しくて、相手はめちゃくちゃだと言うよ~」

「だって、やっぱりこんな女嫌なんだもん。自分がどんどん嫌な女になっていく。夫のせいにばかりして、欲求不満のおばさんになっていく」

そう言って、彼女は力なく笑ったのだ。

思い付きだったが、入れ替わりの術が、夫婦の危機を救った。

彼女が相手の視点をすぐに取り入れられるほど成熟していたからだけど、トラブルの相手になりきるのは、トラブル解決に有効なのだ。

これはどんな問題も当てはまる。
相手になりきって自分を見ると、本当の自分がわかるのだ。

自分がもっと変わればいい。
もちろん、言うはやすしだが、罵詈雑言は心の中で言って、
入れ替わってみて、相手の視点を取り入れるのだ。

これが人間関係の奥義なのではないだろうか。

 

だから、「君の名は。」は、結婚したい人は見た方がいい映画だと思う。

それは、男女が入れ替わることで、
お互いの魅力がぐんぐん高まっていくからだ。

そしてお互いを本当に思いやることができる。

真逆なエッセンスを取り入れると、人はとても魅力的になる。
もしろん、女性が男性になることはない。
必ず中和される。

それでも、

強い男性のちょっとしたやさしさ、
優しい女性の、ちょっとした強さ。

理想の相手と出会うためには、探しに行くよりも、自分が魅力的になってしまう方が早いのだ。

女性ならば、理想の男性のエッセンスをわざと自分が日常で取り入れ行動すること。強くて、行動的で、責任感のある男性と結婚したければ、自分がその彼の身体の中に入ってしまったと仮定して生きてみる。

男性ならば、理想の女性を思い浮かべ、自分がその女性の中に入ったと思えばいい。彼女への共感と理解を深めるのだ。

「君の名は。」は、新海誠監督が、大ヒットを狙った作品だ。わかる人だけがわかればいいという類の映画ではない。誰でも、どこかに自分を投影できるからこそ、多くの人に支持されるのだ。

入れ替わりを体験した、瀧くんと三葉のその後のストーリーを見てみたいと思った。

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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