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プロフェッショナル・ゼミ

整骨院と面接病。《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:稲生雅裕(プロフェッショナル・ゼミ)

「はーい、楽にしてくださいね。もっと力抜いて。行きますよー」

バキッ。

太い指で押さえつけられた頭が不意に横にスイングされ、首の骨から漫画の中でしか聞いたことのないような音が鳴る。

おおおおおおお……

苦笑いが抑えきれない。

「先生、人間の首からこんな音って出るもんなんですね」
「はははは。安心してください、ただ血管の中の炭酸がはじけているだけなので。まぁ、初めて経験されるお客様は驚かれることが多いですけどね」

アメフトか柔道でもやっていたかのように恰幅のいい先生が笑いながら答える。

「それじゃあ、反対側も行きますよー。力抜いてくださいねー」

バキッ。

先日、人生で初めて整骨院を訪れた。
高校生の頃からちょっと猫背気味と言われ、最近はデスクワークの多さからか、さらに背骨の歪みが加速した。肩も随分と凝るようになってしまったので、そろそろまずいなと思ったのがきっかけだ。先生によると、思った以上に体がねじ曲がってしまっているらしい。

頭が前に突き出し、背骨は右側に歪曲。その影響で腰はおろか、お尻、太ももにまで負荷がかかっているとのことだった。確かに、ぎゅっと先生に押されると声にならない痛みが体を駆け抜ける。うつ伏せになりながら、顔をしかめ、唇を一文字に結ぶ。「ナイフで刺されたらこんな感じなのかな……」などと考えつつ、痛みを紛らわそうとするもあえなく失敗した。

「この歪みは結構な年月が積み重なっちゃってますねー。これくらい筋肉が固まってしまっている状態だと、年齢によってはぎっくり腰とかすぐなっちゃいますので、気をつけてくださいね。まだ若いうちに来院されて良かったです」
「だいたい、どれくらい通院すれば良くなるんでしょうか」
「1年も通えば、ほとんどのお客様は改善されますね。もちろん、お客様によっては半年で良くなる人もいらっしゃいますし、若い人なんかも改善が早い傾向にあります」
「そうなんですね……」

1年か……。長い。だが、何年も放置し続けた自分が悪い。
なんとなく、猫背治したいなぁ、くらいの時に行くべきだったのだ。
見て見ぬ振りをしなかった年月が長ければ長いほど、矯正するのには時間がかかるし、痛みも伴う。

そういえば、背骨の歪みと同じように、大学生の頃発症して、ごく最近まで苦しんでいる病気がもう一つあった。3年くらい悩まされていた病気で、やっとのことでその原因を突き止めることができた。結局猫背と同じで、自分がこれまで積み上げてきた日々の中に問題の根幹があることには、なかなか気づかない。わかってしまえば簡単なことなのだが、問題の本質を探ろうとしない限り、その病気はなかなか治すことができない。

自分がその病気を発症したのは、大学3年生の冬だった。

病気の名前は「面接病」と言った。
特徴的な症状は、普段は普通に会話をすることができるのに、面接になると急に自分の会話のリズムが崩れてしまうこと。

僕はこの病気の重病患者だった。
就職活動中、面接になると、なぜか自分の考えていることをうまく伝えることができない末期症状だった。グループディスカッションをしているときはそんなことがないのに。

当時の僕は、「面接病」の原因を自分の大学生活の過ごし方に問題があると思っていた。自分と周りの就活生を比較した時、体育会系の部活に入っていたとか、長期でインターンをしてしっかりと成果を出していたとか、大きな団体を運営していたとか、そういった人ばかりがうまく就職活動を乗り切っていると思っていた。

しがないバンドサークルとカフェのバイトだけじゃやっぱりダメだったのか。もっと学生らしからぬ体験や多くの人に影響を与えたり、動かしたりする団体に入るべきだったと、自分の大学3年間を悔いた。その一方で、手前味噌ではあるけれど、自分は周りの友達に比べたら知り合いは多い方だった。一つ一つの活動には割と真面目に取り組んできていたし、コミュニケーション能力が著しく低いわけでもない。なんで面接になるとうまくいかないんだろうと、出口のないトンネルを彷徨っているかのような気持ちを抱えていた。

実際に、多くの先輩や友人たちが「お前なら、さらっと内定決まりそうだよな」と口を揃えて言っていた。でも、本番になるとうまくいかない。幾らかのお世辞が入っていたとしても、ここまで上手くいかないのには、何か根本的な原因があるはずだ。だが、在学中にその原因に気づくことはできなかった。

結局、僕が「面接病」の本質的な原因に気づいたのは、とある和食屋さんでの一コマだった。

「明日のお昼空いてますか? 今後について面談をしましょう」

お世話になっている会社で、人事を務めているOさんからメッセージが飛んできた。Oさんは10年以上人事の経験があり、人を見抜くプロフェッショナル。普段は優しく、冗談も飛ばすような、上品なおじさまだが、時折メガネの奥の鋭い眼光がギラリと貫くような光を放つ。

Oさんから、お昼のお誘いを受けた理由は、3日前に会社の上役の人から、「良かったら社員として働かないか」とお誘いを受けたことだった。振られる仕事の大小問わず、文句ひとつ言わず真面目に取り組んでいたら、企業規模がまだ小さいとはいえ、他部署からの仕事も回ってくるようになり、気づいたらマルチプレイヤー的なポジションになっていた。そもそも、社内でライティングスキルやフォトテクニックを備えた人がいなかったため、今まで外注していた仕事が僕に集約されたというのが、実のところなのだけれど。それでも、ラッキーなことに違いはなかった。僕に声をかけてくれた上役本人の口から直接「一緒に働きたいと思っている」とも言ってもらえた。正直、「面接病」に罹患している僕にとって、実力が認められて入社するというルートは、願ったり叶ったり。だから、Oさんとのご飯も、今後のポジションについての説明だろうと、軽い気持ちで臨んだ。しかし、30分ほど話したOさんの口から出た言葉は予想外のものだった。

「このままだと、うちに迎え入れることはできないな」

鶏肉をつかんでいた箸が止まり、表情が固まる。嫌な汗がたらりと背中を伝う。うまく、笑えない。Oさんは顔色ひとつ変えずに、鯖の塩焼きの骨を丁寧に抜いていく。Oさんは、かおをよこにけ、鈍色の光をした目で、スッと僕の顔を見つめると、言葉の弾丸を撃ってきた。

「君は、自分の話になると、途端に会話のリズムが悪くなるね。普段社内で話しているときはそんなことがないのに。特に、就職関係の話になるとかなり歯切れが悪くなる。どうしてなんだい」
「それは……」

あぁ、また「面接病」だ。心の中で自分に悪態をつく。
なんで、いつも大事な局面でこうなるんだ。手に入れたチャンスを無駄にしてしまった。もう、自分の本心を隠していてもしょうがない。どうせダメなら、思っていることを言ってしまおう。

僕は体を少し横に傾け、唾を飲み込み、Oさんに本心を語った。

「僕は、人に嫌われるのが怖いんです」

Oさんの眉毛がピクッと動く。魚の骨を抜く手は止まっていた。

「人に拒絶されるのが怖いんです。面接って、営業とかと違って自分の中身をさらけ出して、なんとか言葉にしたことを、相手に伝えるじゃないですか。それを拒絶されると、自分自身が否定された気持ちになっちゃうんです。別に営業でいくら断られても、まぁ、へこまないってことはないですけど、それは僕が否定されたわけじゃなくて、相手のニーズに合わなかっただけだなって納得できるんです。でも、面接だと自分の存在自身が認められていないって気になってしまうんです」

少し早口でまくしたてる。Oさんは、一度天を仰ぎ、魚に顔を戻し、考えをまとめている様なそぶりを見せた。そして、再び僕の方を向き、こう言った。

「君は今、営業と面接は違うって言ったけど。はっきり言ってそんなことはない。面接だって、自分という商品を売るセールスの場だよ。営業をするとき、君は自分の担当する商品の良いところを必死に考えて、競合商品と差別化して、お客さんに説明するだろう? それでも相手のニーズに合わなかったらしょうがないと納得すると、君は自分の言葉で、今、そう言ったね。でも、この30分足らずの会話の中で君は、僕に嫌われまいと必死に振舞っていた。自分の良いところを言うこともなければ、自分がやってみたいことも興味あることも言わない。まるで、入社することがゴールになってしまっているかのように見える。人に気に入られよう、気に入られようと動いていたら、そりゃあ面接だってうまくいかない。自分のリズムで話すことができていないんだから。だんだんと言っていることと自分が思っていることに齟齬が生まれる。もちろん相手はそれを感じ取る」

一呼吸置き、とどめの一撃と言わんばかりに、強烈な言葉を叩き込んだ。

「君は、自分を信じていないんだよ。だから重要な局面で自信も生まれない。そんな人を、迎え入れるわけにはいかない」

Oさんの言ったことは、あまりにも的確すぎた。なんとか喉の奥からひねり出した言葉は、「そうですね」の一言だった。お皿に残っていた鳥の唐揚げ定食は、今の僕の喉を通るには、重すぎた。

その日の夜。

「面接病」にもう一度しっかりと向き合ってみようと思い、ノートを広げた。自分が考えていることや過去の経験から、「面接病」の原因の本質を考えてみる。どうして自分のことをさらけ出す場面になるとうまくいかないのか。

その答えは小学生時代の記憶にあった。

小学5年生の頃、僕はいじめにあっていた。

いじめてきたのは今までは普通に仲良くしていた友達だった。それが、ある日を境に、突然その友達の態度が豹変した。原因は不明。話しかけても無視されるし、廊下を歩いていたら、いきなりお尻を思いっきり蹴られることもあった。一緒に仲良くしていた周りの取り巻きも、彼にいじめられることを恐れてなのか、同じ様に、僕のことをいじめてきた。お昼のレクリエーションの時、僕が自分の思ったことを素直に言っただけなのに「調子のんなよ」と胸ぐらを掴まれたこともあった。

当時の僕にとって、その体験は衝撃が強すぎた。あまりにも不条理。理解ができない。理由もなく突如いじめの対象になる恐怖。幸い、クラス全体がグルになっていじめてくることはなかったのだが、それでもいじめの経験は僕の胸の奥に深く、消えない傷を残した。

いじめにあって以来、僕をいじめてきた友達の様に高圧的な態度や、圧迫された雰囲気がひどく苦手になり、そういった空気の中で、自分の考えをうまく言うことができなくなった。幼少期の頃にいじめられた経験がある人は、大人になっても、深層心理的にいじめてきた人やいじめられた状況と似た様な空気の中では、萎縮してしまったり、うまく振る舞えなかったりすることがあるらしい。よくよく考えてみると、面接の場でなくても、少し高圧的な態度で話しかけてくる先輩や上司の前だと、とにかくその人の気分を害さない様に振舞っていた。たとえ相手が非論理的に自分のことを攻めてきても、それに対して何か意見を申し立てることはしなかった。いや、できなかった。相手の非論理性を正すよりも、自分の身を守る方が大事だったから。

僕が「面接病」にかかっていた理由。それは、どんなに相手が優しそうな人でも、面接という独特な雰囲気と、自分が質問される側というプレッシャーのせいで、いじめられていた時の記憶がダブってしまうからだった。自分が言っていることは、相手が認めてくれる様なこと、納得してくれる様なことだろうか、と内心いつも気になっていた。面接を受ける直前までは、面接はスタート、会社に入ってからが大事、とわかっていても、いざ始まると面接会場の魔物に飲み込まれて、うまく自分のことが言えなくなる。そりゃあ先輩や友達が「お前なら、簡単に内定出そうだよな」と言うわけだ。だって、彼らと話している時の自分は、いつも通りの自分なんだから。面接の魔物の前で、ビクビクと震えている僕では無かったんだから。

それじゃあ、僕の様な人は、一生「面接病」から抜け出せないのだろうか。
過去に嫌な思い出があったら、それに囚われ続けるのだろうか。

そんなことはない。

過去は変えられない。いじめは無かったことにはできない。
でも、原因を理解して、それを乗り越えることはできる。改善することはできると思う。
何年もの歳月の積み重ねと放置のせいで歪んでしまった背骨も、1年かければ治すことができる。いじめの記憶や「面接病」だって、その事実と向き合って、意識して気をつければだんだんと良くなるはずだ。

ただ、治療の受け始めは結構な痛みを伴う様に、過去と向き合うことそれを乗り越えることには心理的な痛みが伴うだろう。今でも、高圧的な態度の人は苦手だ。理不尽に怒られると反論する気すらなくしてしまう。それに、整骨院で治療を受けても、その後サボったら意味が無いし、普段から意識していないとすぐに猫背に逆戻りしてしまう。
やはり、定期的なデトックスや通院は不可欠だ。体の不調は病院で治るけど、心の不調はなかなか難しい。

だから、僕は書くことを通して、自分の内面と向き合って、吐き出して、デトックスしていきたいと思う。血流を良くする様に、自分の思考の流れを整理し理解する。
書いて、書いて、書きまくる。自分の内面を抉りだす。バラバラのピースをかき集めて答えを見つける様に。脳みそに溜まった不純物が、黒い文字となってノートの上に溢れ出す。
そこには凝り固まった筋肉をほぐすかの様な痛みがついてくる。
でも、ずっと書いていれば、きっと心の歪みも治ってくる。
現に、こうして僕は「面接病」の原因を突き止めることができたのだから。

「また来週、もう一度話しましょう。それまでに自分を信じてあげてくださいね」

Oさんは面談終わりにそう言った。
今思うと、Oさんも整骨院の先生の様に、過去に囚われて、凝り固まった僕の思考をほぐそうとしてくれたのかもしれない。
今の僕なら、自分を信じて、「面接病」に負けずに話せるはずだ。

整骨院の帰り道、少しだけ軽くなった体は、心も少し軽くなったみたいだった。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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