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プロフェッショナル・ゼミ

後輩と「好きになった人」が被りすぎて、思い出を上書きされたような気分になった夜《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中村 美香(プロフェッショナル・ゼミ)

私は萌が嫌いだ。いや、嫌いとは少し違うかもしれない。目障りといった方がいいだろうか。萌は、そんな私の気持ちを知ってか知らずか
「美香さーん」
と、遠くからでも手を振りながら、声をかけてくるような子だった。顔が丸いところも、ポチャッとした体形も似ていたから、サークルの仲間に
「ふたりは仲の良い姉妹みたいだね」
と、言われたこともあった。

私は都内にある短期大学に、萌は横浜にある女子大に通っていて、私たちは、ある私立大学が中心のハイキングサークルの先輩と後輩として知り合った。と言っても、私が萌よりもふたつ年上だったから、私が短大を卒業してから、萌がサークルに入って来たのだけれど……。

「社会人になっても、遊びに来なよ。待っているからさ」
一足先に社会に出る私に向かって、同期の仲間たちは、そう言ってくれた。社交辞令だったのかもしれないけれど、サークルが大好きだった私は、会社が早く終わった日には、いそいそと、定例会の後の飲み会に頻繁に参加していた。誰か特定の好きな人がいたわけではないけれど、とにかく、このサークルの雰囲気が大好きだったのだ。さすがにハイキングには一緒に行かなかったけれど、飲み会の席で、萌とはよく顔を合わせていた。

水面下では、もしかすると、いろいろあったのかもしれないけれど、表向きには、“みんな仲良し”のこの雰囲気が好きだった。好きだったから、ちょっと誰かを異性として好きになりかけて、“友達以上恋人未満”みたいに、ふたりだけで出かけたことはあっても、その先に進むことはなかった。いや、進まないようにしていたのかもしれない。

私の同期は特に仲が良く、何かあるとすぐに同期会をするような集まりだった。ある意味、排他的な雰囲気を、醸し出していたかもしれない。しかし、そんな雰囲気をぶち壊してきたのが、萌だった。

萌は、惚れっぽいのか、リップサービスなのか、私の同期に気軽に話しかけ、軽くボディタッチしながら褒めちぎっていた。
「ニノさん、いつもおしゃれですね! 私、その服、すごく好きです!」
「ヒロさんって、すごく優しいですよね。それに何だか雰囲気があって大人っぽいです」
萌のストレートな物言いに同期がデレデレしていることが、面白くなかった。なんだか、自分の聖域が侵されているようなそんな気さえしていた。

仕事帰りに参加する飲み会は、最初は楽しかったけれど、少しずつ、社会人と学生の違いから生じる、拭いきれない違和感や、一年の女子が主役の雰囲気に所在なさを感じ始めた。そして
「どうして私だけ働いているんだろう」
「働いているからって、どうして、一年女子は千円で、私は一万円も払わなくちゃいけないのだろう?」
と、不満が溜まってきて、だんだんと足が遠のいていった。

徐々に仕事も忙しくなり、会社での人間関係も作られていったから、自然とサークルを思い出すことも減っていった。

そんな時の流れの中で、サークルのことは“いい思い出”として、心の中で処理されていた。そう、あの日、萌に再会するまでは……。

同期たちが卒業する直前、同期の久美子からメールがきた。
「サークルの後輩たちが、女子だけで集まろうって言うんだけれど、美香も来ない?」
後輩たちって言っても、そんなに親しくないし、趣旨は久美子の就職祝いと卒業祝いだろうから、お金を出す人が必要なだけなんじゃないかと、邪推しながらも、久しぶりに久美子には会いたかったので行くことにした。
「後輩って、具体的に誰が来るの?」
そう聞いて、久美子の教えてくれたその中に、萌の名前もあった。

久美子とも、サークルの後輩たちとも会うのは久しぶりだった。1年半ぶりくらいだろうか? 

私の同期は久美子だけで、萌と、萌の同期のミナミと静香がいた。全部で5人の女子会だった。
「カンパーイ! 久美子さん、ご就職とご卒業おめでとうございまーす」
ノリのいいミナミが、乾杯の音頭を取る。
「美香さんは仕事帰りですか? お疲れさまです」
形式的に、私にも気を使って、ミナミが、ビールジョッキを近づけてきた。私は、薄く笑って、乾杯し、一口だけ口をつけ、テーブルに戻した。

「久美子さん、本当にお世話になりました。久美子さんの同期の皆さんは本当にいい方ばかりでした」
静香が言った。
久美子が主役だとわかってはいたけれど、なんだか居心地が悪く、ここへ呼んだ久美子を私は、少しだけ恨んだ。
「いい後輩に恵まれて、私は幸せだよ」
久美子が早くも、中ジョッキ一杯でいい気分になっている。
そうだよな、今日は久美子の卒業祝いだ! よし、今日は、黒子に徹しよう! 
久美子の満足そうな顔を見て、私は、後輩と一緒に久美子を労おうと決めた。だけど、まさか、あんな話が出て、最悪な気分になるなんて、その時はまだわからなかった。

結局、私が、短大を卒業してから、サークルに顔を出していたのは、半年間くらいだった。久美子の他にも、同期の女子はいたけれど、私が卒業すると同時に、参加率があまりよくなくなり、同期の中で、後輩の面倒をしっかり見ていた女子は、実質、久美子だけだった。
「美香が短大じゃなくて、大学でさ、サークルに居てくれたらどんなによかったか」
と久美子は時折、そう言ってくれていた。
久美子が、どれだけサークルを愛して、後輩を大切に思っていたのかはわかっていたけれど、だからこそ、私は、どっぷりとは浸かれない自分の立場を後ろめたく思い、途中から、居心地が悪くなっていったのかもしれないと思った。

「美香さんも、社会人になったのに、何度も顔を出してくれてありがとうございました」
そう言ったのは、萌だった。
「萌ちゃんも、久しぶりだよね。大人っぽくなったね」
萌は、1年半前に比べて、随分、色っぽくなっていた。化粧が濃いからかな? と思ったけれど、それだけではない感じがした。
「萌は、恋多き女ですから」
ミナミが、そう言った。
「ミナミ、やめてよー」
頬を赤らめて、萌が言う。
「萌の数々の恋のお相手は、美香さんの同期の方々が多いんですよ」
「へー、そうなんだ」
私は、びっくりした! と言わんばかりに、大きな目を見開いて言ったけれど、心のどころかで、そうなんじゃないか? と予感していたような気もした。
「美香さん、聞きたい?」
ミナミが、煽った。
「えー! いまぁ?」
萌が両手で、赤くなった頬を挟みながら、照れたように言った。
聞きたい! と、聞きたくない! の間で迷いながら、私は、苦笑いしていた。
「よし、聞こうじゃないか!」
久美子が、男らしく腕組みして言った。
「はい。じゃあ、話しまーす」
片手を挙手するように挙げて、甘ったるく言った萌の声に、私はちょっとイラっとした。

「誰の話からしましょうか?」
「何人分あるのよ?」
お酒が入って、イラつきが声に出やすくなったのか、私はちょっときつめに聞いてしまった。
「えっとぉ……」
少し上目遣いに天井を見ながら、萌が、指折り数えていた。
「美香さんと久美子さんの同期の方が2人と、おふたりの先輩が1人です」
え? まじか? 
「3人とも付き合ったの?」
一気に酔いが醒めて、私が聞くと
「えっとぉ、ちゃんとお付き合いしたのはひとりで、後の2人は、デートしただけです」
と言った。
「そうなんだ……」
「で、誰なの?」
「えっとぉ……」

萌の話によると、萌とデートしたのは、私の同期の2人だった。私がショックだったのは、その2人ともが、私が“ふたりきり”で出かけたことのある相手だったことだ。私が“ふたりきり”で出かけたのはその2人だけで、それが、まさかの丸被りだったのだ。

さらに、私を落ち込ませたのは、いちばん“距離が近い”と思っていたニノとのエピソードだった。

「ニノさんに『デートしましょう』って言ったら、『俺、デートしたことない』って言ったんです」
え? まじか? ふたりで、たくさん映画を観に行ったじゃないか! 一緒に食事だってしたじゃん! あれはデートじゃなかったのかい?
私はそう思って、目の前が真っ暗になった。
「ニノさん、妹さんに、デートの仕方聞いたんですって! かわいいですよね!」
かわいくなんかないよ! あれは、絶対にデートだったじゃん! ひどいよ、ニノ……。
私は、萌に大切な思い出を上書きされてしまったような気さえした。

それから、もうひとりのヒロとは、私が一年生の時に、一度だけデートしたことがあった。宿題のレポートが大変だと言っていたヒロに、役立ちそうな本を貸してあげたら、
「お礼にデートしてやる」
と言われたのがきっかけだった。私の好意を察しての高飛車な態度に、ムカつきながらも、顔に似合わず、女の子の扱いのうまいヒロとのデートは、お姫様になったようで楽しかったのだ。キュンとしたけれど、それ以上は進まなかったのに、萌ったら
「ヒロさんは本当にキスがうまかった」
と、うっとりするように言うものだから、この私の思い出も上書きされてしまったようで、思わず、歯をくいしばった。

時期が違うのに、勝ちも負けもないのに、なんだか、敗者の気分だった。ぬるくなったビールを2cmくらい残して、2杯目は、梅酒のソーダをオーダーした。

「で、その付き合っていたという、私らの先輩って誰よ」
3杯目を空にした久美子が、少し酔っぱらって、そう聞いた。
「それはですね……」
もったいぶる萌。

私の脳裏にひとりの先輩が浮かんだ。
まさかね、ここまで丸被りすることないでしょ。
まあ、被ったところで、私が好きになったわけではないけれど……。

このサークルに、はっきりとした恋の思い出はないけれど、唯一、好意を寄せてくれた先輩がひとりいた。はっきりと告白されたわけではないけれど、あの熱いまなざしは、好意以外の何物でもないと感じていた。就活が一時うまくいかなくて、酔いつぶれた時に介抱してくれたのは、小池先輩だった。すごく優しくて、だけど、ぶっきらぼうで、不器用なところが素敵だったけれど……、この人を好きになれたらいいんだろうなと思ったけれど……どうしても、顔が好きになれなかったのだった。

そして、萌の口から出た名前は、まさかの
「小池先輩です」
だった。
「小池先輩とは3か月くらい付き合いました」
私は耳を疑った。まじか!
「小池先輩には、プロポーズまでされたんですよ」
ニヤリと笑って、萌が言った。
「どうして、断ったの?」
久美子が代わりに聞いてくれていた。
「えっと……顔がダメだったんです」
「えー?」
顔がダメだったら、最初から付き合わないでしょ! と私は思った。
「すごく優しいから、大丈夫かな? と思ったんだけど、やっぱり無理でした。『こんなに人を好きになったことはないんだ。別れたくない』と言われたんですけれどね」
と、萌は舌をだして笑っていた。

ひどい! ひどすぎる! 小悪魔だ! 
小悪魔の定義も正確には知らないくせに、私は怒りと悲しみとなんとも言えない思いに包まれた。

「美香さん、顔色悪いですけれど、大丈夫ですか?」
ミナミにそう言われて
「ちょっと、トイレに行ってくる」
と言って、私は席を立った。

私が大切にしてきた思い出の男たちとの、私の知らない出来事を、さっき、目の前で、手振り身振りを交えて語っていた萌の顔と、洗面所の鏡に映った私の顔が、重なった。

似ているのは、顔だけじゃないのか? 寄りによって、好きになる人が全部同じって何?
そのくせ、少しずつ、萌の方が思い出の彩りが濃いことが我慢できなかった。

このまま、帰ってしまおうか? だけど、今日は、久美子を労う会だ。勝手に帰ってしまっては、申し訳ない……。

おもむろに、バックから化粧ポーチを出して、私は化粧直しを始めた。すると、ドアが開いて、静香が中に入って来た。
「お疲れさまです」
にっこりと笑う静香。結構飲んだのか、顔が赤らんでいた。
「お疲れさま」
私も無理に口角をあげて笑ったふりをした。
静香とは、挨拶を交わす程度で、今まで、ほとんど関わりがなかった。
それなのに、酔った勢いなのか、突然
「なんか、萌ってちょっとムカつきますよね」
と、鏡越しに言ってきた。
私は、心を見透かされたようで、ドキッとした。
「そう? どんなところが?」
聞いてしまっていいのだろうか? だけど、萌の本性を知りたいような気持ちも確かにあった。
「さっきの話も、別に、内容的には大したことないのに、いちいち大げさなんですよ。まあ、小池先輩は、萌に惚れていたかもしれませんが、あとの2人は、別に、1回かそこら一緒に出かけただけでしょ。ヒロさんのキスにしたって、ヒロさんは誰とでもキスするんですよ!」
お酒のせいか、静香の口は止まらない。
「それに……」
そう言いかけた静香に
「静香ちゃん、わかったよ。いろいろあるよね。だけど、今日のところはここまでにしよう」
私はそう言った。

なぜだろう? さっきまで、あんなにムカついていた萌を、急に、庇いたくなった。
そうだ! 静香の言った通り、なんてことない話だ。ただ、ひとりの女の子が、サークルの先輩に淡い恋心を持って、一緒に出かけたというだけの話だったんだ。

私だって……。
あの時の私も、精一杯、淡い恋をしていたんだ。
気持ちは伝えなかったけれど、確かに恋をしていたんだ。
誰かと同じ人を好きになったとしても、例え、それがデートでも、デートじゃなくっても、私だけの思い出なんだ。私と彼らとの彩りなんだ。上書きなんかされるもんか。

「静香ちゃん、席に戻ろう!」

席に戻ると、萌がまだ話の中心に居て、頬を赤らめていた。そして
「そう言えば、美香さんって、サークルに好きな人とかいたんですか?」
と聞いてきた。
「うん。まあね。うちの同期はさ、みんないい男だからね」
「誰か、特定の好きな人っていなかったんですか?」
「どうだろうね。ニノも、ヒロも、好きだったかもしれない。私、萌ちゃんと、好きなタイプ似ているかもしれないわ」
「そうなんですか? なんか嬉しいかも」
さっきまで、ひっぱたいてやりたかった萌の笑顔が、屈託のない笑顔に見えて、私はホッとした。

「久美子、飲んでる? 久美子は、本当にいい先輩だよね! 今日は、たくさん飲んでいいよ! ちゃんと送っていくからさ」
私はそう言って、久美子と肩を組んだ。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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