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リーディング・ハイ

築50年、1泊素泊まり5,000円の質素な旅館がリッツカールトンより評価される理由《リーディング・ハイ》


 

 

記事:オーガニック坊主(リーディング&ライティング講座)

 

東京の下町エリア・谷中にある「澤の屋旅館」をご存知だろうか?日本人よりも訪日外国人からの方が知名度は高いかもしれない。何しろ、1泊素泊まり5,000円の宿がトリップアドバイザーでは満点の5.0点の評価、リッツカールトンやアマン東京など価格が10倍以上する超高級ホテルより評価が高いのである。前々から存在は知っていて気にはなっていた。以前、予約しようとしたが2週間前に連絡をしても満室。今年のはじめにようやく予約をとることができ、15時のチェックイン時間ぴったりに澤の屋旅館に着いた。

 

入り口を入ると、オーナーの息子さんが迎えて下さって、A4の手作りの谷中千エリアの周辺マップを出して、丁寧に説明してくれた。説明が終わると、3Fまでレトロな階段を登り、部屋に通されたが、外国人比率90%、平均宿泊稼働率が驚異の95%(2015年の全国平均の平均宿泊稼働率は60%ほどなのでいかに凄まじい数値かがわかる)、メディアの登場回数は900回以上と何から何まで圧倒的である。そしてリピート率は30%を超えるようだが、外国人がメインの宿でこの比率は異例中の異例だろう。この澤の屋旅館の人気の秘密は何だろうと考えた。

 

旅館の外観も設備も、見た目はシンプルで特に際立って洗練されたデザインのわけでも、奇をてらったサービスがあるわけでもない。だが、その日にチェックインしてわずか、1,2時間で澤の屋のかゆいところまで手が届くさりげないサービスの数々をこれでもかというくらい食らうのである。まず、室内は清潔感にあふれた6畳間で独り身としては十分な広さだが、通常のビジネスホテルと比べても、格段に狭い。そして入ると面を食らったがいきなり布団が敷いてある。昭和にタイムスリップしたかのような錯覚に陥るが、枕元に何かが置いてあることに気づいた。1センチほどの折り鶴が、まくらの真ん中に置いてあるのを見て思わず顔がほころんでしまう。アメリカ人が泊まろうものなら、Oh!と声を出して喜びそうな小ネタである。続いて小さなちゃぶ台には、日本茶セットが。もちろん英語の解説とかわいらしいイラストもついていて、日本人が読んでもなんだか楽しい。そして一息ついた後、夜ご飯を食べるまで時間が空いたので、1Fまで降りて談話室でしばらく時間をつぶすことにした。壁には大きな日本地図とその前には一面に敷き詰められた日本各地の観光マップの数々。東京、大阪、京都といった大都市だけではなく、47都道府県、例えば長野県の飯田市や、高知県などあらゆる地方都市を網羅しているから圧巻の壁面だ。30分くらい時間を忘れて、パンフレットを次々に手にとり、談話室でペラペラとめくっていると、今度は受付にいたオーナーの息子さん(インターネット担当らしい)が、「お客様、今少しだけお時間ありますか?」と話しかけてきた。もちろんいいですよと答えて、どこかに消えたと思ったら、なんと新年早々ということもあり、獅子舞の格好をして出てきたのである。もちろん、頭を噛むマネをして魔除けをしてくれた。なんだかこんなことされたのはいつ以来だろうと思いを馳せて、澤の屋旅館のホスピタリティに魅了されて、すっかりファンになってしまった。ここは東京にいながら、ある意味異国の地で日本食を食べたときのような、ほっと一息つける場所だ。

 

澤の屋自体はわずか12室しかない、とても小さな家族経営の旅館である。そして旅館とはいうものの、夕食を提供しているわけではない。ほんとに何もないといったら失礼だが、後はお風呂に入るくらいなので、澤の屋に滞在したのは睡眠時間を除くとわずか2.5時間ほどである。

この2.5時間の間に、リッツカールトンやアマン東京といった世界を代表するホテルより何が優れているのか?このさりげないホスピタリティであることは間違いないのだが、チェックアウトする際にオーナーの澤さんと話す機会に恵まれたので、なぜここまで外国人に支持されるようになったのか、聞いてみた。

どうやら澤の屋旅館はオープンしてからずっと今のように外国人にあふれて、予約が取れない宿であったわけではなく、一時は客席稼働率50%(もちろん大赤字)、廃業の覚悟もしたこともあったほど1970年代後半は苦戦したとのこと。3日間連続で宿泊客がゼロ日があり、そこで苦し紛れに、外国人の受け入れを決断したのである。この決断をしてわずか3年後には客室稼働率が90%を超えるが、とにかく徹底的に美味しい食事や、豪華な外観・設備、広い客室などといったハードの部分は捨て、「コンテンツ」に集中させたのである。つまり、手作りパンフレットや、談話室にある全国各地の英語パンフレット、歌舞伎や相撲、はとバスツアーなど外国人が澤の屋に泊まることで、情報を得ることができ、すぐにアクセスできる日本独自の文化を紹介する拠点として、マーケティング戦略を変えたのである。加えてさりげない心遣い、

英語が決して流暢なわけではないが、いたるところに(部屋のスイッチからエアコンのリモコンまで)外国人が不自由を感じないようなサービス設計をしているのだ。これもすぐに完成したのではなく、日々のお客様からのクレームや要望を一つ一つ、改善していった結果のようだ。

 

結果として、客室稼働率は驚異の95%、リピーター率30%の高収益モデルを生み出したのである。そして驚くべきことに、広告費もこれまでかけたことがなく、(当時はそんな余裕もなく、広告をかけるくらいなら、リーズナブルな宿泊料金にしたいという考えのようだ)今でこそトリップアドバイザーでの口コミが多くなったようだが、インターネット以前からロンリープラネットの掲載や知人の口コミがほとんど。ビジネスとしては理想的ではないだろうか。

私は1泊5,000円を払ったが、澤の屋を出るときに、オーナーの澤さんに笑顔で見送られ、たくさんの幸せをもらったことに気づいて、またすぐにでも戻ってきたいという気持ちになった。家族経営であるからこそ、サービスをする人が変わらないというのもまた魅力の一つである。

訪日外国時向けの旅館・澤の屋に宿泊してみて、自分のビジネス環境に照らし合わせてもみても、お金がない、アクセスが悪い、競合が強いなんてことはただの言い訳でしかなく、今できることを精一杯目の前のお客様のニーズを叶えることで道は開けてくると改めて思った次第。

ぜひ東京都内の日本人であっても、世界に通用する最高の旅館を体験してほしい。澤の屋について興味を持った方は『「澤の屋旅館」はなぜ外国人に人気があるのか』にとても細かいデータや50年のこれまでの試行錯誤が書かれているのでぜひ読んで頂ければと思う。

 

 

  
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2017-01-26 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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