リーディング・ハイ

映画「ラ・ラ・ランド」を観て、アップル社が世界を変えていく製品を作れた理由がわかった《リーディング・ハイ》


記事:菊地功祐(リーディング・ライティング講座)

 

 

「好きなことを仕事にできる人は世の中には少ない」

進路面談の際に、高校の教師がそう言っていた。

 

私はその時、美大受験を考えていた。

好きだった映画を勉強したいと思い、東大生を輩出するような進学校にいたにもかかわらず、ひとり美大受験したいと思っていたのだ。

 

「好きなもので食っていくのは大変だぞ」

教師はそう何度も言っていた。

 

私はなぜ、大人は皆とくに興味もない仕事ができるのか不思議だった。

私の担任だった教師も大学で古文を研究していたが、生活費が稼げないため、

仕方なく私立学校に勤めているような教師だった。

 

私の父親も普通のサラリーマンで、毎日大変そうだった。

特に興味もないインテリア関係の仕事をしていて、

「あの会社に行けばよかった」などとよく嘆いていた。

 

そんな父を見て育ったせいか、私は嫌々働く大人にだけはなりたくないと思っていた。好きなものを仕事にしたいと思っていたのだ。

 

今思うと、なんて安直な考えなんだろうと自分でも思う。

 

父は高い学費を稼ぐために死に物狂いで働いてくれていたのだ。

それなのに私は、そんな父を見て、自分はもっと夢中になれる仕事に就きたいと考えていたのだ。

 

昔の自分を呪ってやりたい気持ちだ。

そんなに世の中あまいものじゃないんだぞ。

父は家族を食わせるために懸命に働いてくれてたんだぞ!

と昔の自分に言ってやりたい。

 

 

結局、私は美大受験を諦め、浪人して一般の大学に進学した。

美大は普通の私大の倍近くの学費がかかるため、金銭的にも難しいと母親に言われてしまったのだ。

ま、普通の大学でも自主映画は作れるからいいかと思い、私は一般の大学に進学した。

 

私はそこで浴びるように映画を見て、アホみたいに映画を作っていた。

父みたいになりたくないと思っていたのかもしれない。

好きでもないことをするくらいだったら、好きなことを仕事にしたほうがマシだ。そんなことを思っていた。

 

私は大好きだった映画作りにのめり込んでいった。

多くの人と関わりながら一本の映画を作るのは楽しかった。

 

自分の進むべき道はこれなんだ。

そう思っていた。

 

サークルの先輩で映像の世界に進んだ人がいたので一緒に飲みに連れて行ってもらったことがあった。

大学を卒業してから8年以上、映像制作の世界にいる先輩はこう語った。

 

「映画監督はやめておけ。食っていける職業じゃない」

私は驚いた。

その先輩は映画が好きで、映像の道に入ったのだと思っていたのだ。

もちろん先輩は映画監督になるのが夢だと思っていた。

 

「映画監督はなりたくてなる職業じゃない」

先輩はそう言っていた。

どうやら日本の映像業界全般に下請けの労働者という考えでしか見られてなく、安い給料で、短時間でこき使える制作会社に仕事が回る仕組みになっているらしい。

 

映画監督になると2時間の映画をわずか2週間で撮れと言われることも日常茶判事だという。

助監督からスタッフは撮影が始まる一ヶ月前から徹夜での仕事になり、何人も倒れて辞めていくという。

 

30時間ぶっつけで労働することもあったらしい。

 

「好きなものを仕事にすればするほど、つらいこともある。趣味を仕事にするのは大変なんだ。だから君は普通の仕事に就いた方がいい」

 

そう先輩は言っていた。

 

私はそれからずっと悩んでいた。

趣味を仕事にすべきか? すべきではないか?

 

特に興味のないことを仕事にして、趣味は趣味として休日にするべきか……

私は結局、就活の時にマスコミや制作会社を受けて、趣味を仕事にすることを選んだ。

 

自分が選んだ道だ。後悔はない。

そう思っていた。

 

実際に映像の世界で働いてみると、私は後悔した。

尋常じゃないくらい大変だったのだ。

1日平均睡眠時間が30分だった。

毎晩のように怒鳴りちらされ、私は精神的におかしくなっていた。

 

こんなはずじゃなかった。

そう思った。

 

会社の同期はあっという間に辞めていった。

私は辞めていった同期の穴埋めをするかのように仕事をしていった。

 

「辞めたら残った者にその分仕事がのしかかるんだ。だから辞めるなよ」

という雰囲気が業界全体に漂っていた。

 

私は立て続く寝不足状態で限界にきていた。

趣味を仕事にするのは大変なのだということを痛いほど感じた。

 

好きなことだからこそつらいのだ。

自分の理想と現実とのギャップに苦しみ、つらくなるのだ。

私は結局、会社を辞めてしまった。

 

 

 

趣味を仕事にすべきか? しないべきか?

 

それは多くの人が悩む問題だと思う。

私は結局、趣味を仕事にして失敗した。

しかし、趣味を仕事にして成功した人もいる。

 

夢を追いかけるのは、楽しそうでつらいことでもあるのだと思う。

 

映画という趣味を仕事にして失敗した私だったが、映画は好きなままだった。

週に一回は映画館に行ったりしたし、映画評論家の町山智浩さんのラジオを聞いて、映画について考察したりしていた。

 

そんな時、ラジオで町山さんがやたらと大絶賛している映画があった。

 

それがアカデミー賞候補として話題になっていた「ラ・ラ・ランド」だった。

監督は前作の「セッション」で脚光を浴びた31歳の若手監督だ。

ハーバード大学卒の超がつくエリートだ。

 

私はこの監督の前作「セッション」を見て、ラスト14分間のシーンで衝撃を受けていた。

とにかく凄まじいのだ。

本当にぶったまげた。

どうやら他の人も同様に感じたらしく、私の友人も皆「セッション」の話をすると、いつもあのラストシーンのことを話題にしていた。

 

 

町山智浩さん曰く、今回の「ラ・ラ・ランド」のラストも凄いらしいのだ。

どうやら涙無くして見れないようだ。

 

日本公開の前からアカデミー賞最有力候補として名が挙がっていたため、日本でも話題になっていた。

 

私も期待を込めて、公開してすぐに映画館に駆け込んで、「ラ・ラ・ランド」を見てみることにした。

 

映画館に入ると観客は女性ばかりだった。

なんだか私は少し居心地の悪さを感じながら席についた。

 

私はミュージカル映画が苦手だった。

嫌いではないが、ここで歌う意味あるの?

とついツッコミをいれたくなるのだ。

 

歌でセリフを表現するため、映画の物語についていけなくなってしまうのだ。

 

私はミュージカル映画に苦手意識を抱えながら、「ラ・ラ・ランド」を見に行った。

映画が始まった。

 

オープニングからかっ飛ばして凄いのだ。

なんだこの長回しは!

そして、エキストラ何人いるんだ?

 

映画が始まった途端、100人くらいのエキストラが大勢集まって大合唱するのだ。

 

オープニングから私は度肝抜かれてしまった。

凄い……凄過ぎる。

 

そして、中盤からシリアスな展開になり、私はもはや映画の世界に入り込んでしまっていた。

 

この世界からもう出たくない。

映画「ラ・ラ・ランド」の中にあるカラフルな世界で生きていたい。

そう思ってしまった。

 

そして、あのラストシーン……

人生が走馬灯のように駆け巡るあのラストシーンを見て、

この世界には本当の天才はいるんだなと思ってしまった。

 

1600人以上のエキストラが出演するこの映画を指揮したのは、

わずか31歳の新米監督なのだ。本物の天才なのかもしれない。

 

私はエンドロールが流れている時も映画の世界から抜け出せなくなっていた。

何だこの感じ……

何でこんなに他人事には思えないんだ。

 

私はずっと登場人物の2人を見ているうちに、どこか昔の自分を思い出しているような感じがした。

 

この映画は夢を追いかける人々の物語だったのだ。

 

ジャズミュージシャンになる夢を追いかける男性と女優を目指す女性の淡い

恋物語なのだ。

 

夢を追いかけ、甘い時間を過ごす2人だったが現実はそう甘くはない。

理想と現実のギャップに苦しみ、2人は苦しんでいく。

 

そして、エンディングに向かうにつれ、2人はある結論を出す。

 

私はその結論を見て、ある人のことを思い出していた。

 

ある人とは、世界一の企業アップル社のCEOを務め、世界を変えていく製品を作ったスティーブ・ジョブズだった。

 

 

ジョブズは異常に仕事に対して厳しいことで有名だった。

自分の理想を実現するためなら容赦なく部下をクビにしていった。

 

「お前は使えない! クビだ」

とジョブズが出席する会議では何度もこの言葉が飛び交ったという。

そんなジョブズの姿を見て、批判の声を挙げる人も多かった。

 

私はある時にジョブズの自伝的な本を読んだことがあった。

そこにはジョブズの性格が細かく書かれてある。

どうやらジョブズは元の性格からして怒りっぽいところがあったが、何よりもビジネスにおいては自分の感情を切り離すことにしていたらしい。

 

 

ビジネスの世界では友情など役には立たないのかもしれない。

 

銃なく戦場を生き残るには仲間さえ捨てなければ会社を守れない。

そのようにジョブズは信念を持って仕事に取り組んでいたようだった。

 

 

自分の夢や理想を実現するためにジョブズは友情や感情を捨てたのだ。

世界を変えていくような製品を作り上げるために、それ相応のものを捨てたのだ。

 

 

「ラ・ラ・ランド」に登場する2人も、そんな夢や理想を追いかけるために、

それ相応のものを捨てた人たちだった。

 

自分の夢を追いかける資格がある人は、何か自分が大切にしているものを捨てる覚悟がある人だけなのかもしれない。

 

この映画を撮った31歳の監督も、映画監督になる夢を追いかけるために大切にしていた家族を捨てた人だった。

何もかも捨て、それでも映画を撮り続けたのだ。

 

ハリウッドの人たちがこの映画を見て感動しているのはそこにあるのかもしれない。

最前線で活躍する映画監督や女優、俳優はみんな大切にしていた何かを捨てていったのだと思う。

 

家族や恋人、家、学歴など様々だろうが、何か普通の人には捨てられないようなものを捨てていったのだ。

捨てた代わりに今のハリウッドの地位を手に入れたのかもしれない。

 

自分の夢を追いかけるには何かを捨てなければならない……

その現実を目の当たりにした登場人物たちがラスト10分で奏でる歌声に多くの観客は涙するのだと思う。

 

 

 

私はこの映画に出てきた登場人物たちのように、何かを捨てる覚悟があるのだろうか?

 

夢を現実にするのは難しいと思う。

好きなことを仕事にするのは難しい。

自分も実際に経験してみて、痛いほどその難しさがわかった。

 

しかし、それでも私はものを作るということを大切にしたいと思う。

ものを書くということを大切にしたい。

 

しっかりと書くということに向き合えば、きっと何かを捨てなければならない時が来るのかもしれない。

 

それでも私は書き続けていたい。

映画「ラ・ラ・ランド」に出てきた2人のように夢を追い続けたい。

そんなことを思うのだった。

 

 

 

 
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2017-03-21 | Posted in リーディング・ハイ, 記事

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