チーム天狼院

焼き芋で感動したことがありますか?


記事:永井聖司(チーム天狼院)

土浦店にヘルプに行くことになった。

 

土浦店とは、茨城県の土浦駅構内・プレイアトレの一角にある、天狼院書店第6の店舗のことだ。
池袋からだと電車を乗り継ぎ、約1時間半かかるところにある。

家から徒歩10分のところにある天狼院書店の店舗に通うのが日課となっている身としては、移動時間の長さ、そして通勤ラッシュに巻き込まれることを考えると、いくら仕事とは言え憂鬱でしかなかった。

でもそんな気持ちは、池袋駅に向かう道中に消し飛んだ。

 

『アレ』の存在を思い出したからだ。

土浦店が出来た当初、今回と同じように何度もヘルプに行っていた昨年の6月から7月に掛けて、何度も食した『アレ』である。

初めて食べた時の衝撃と感動は、今でも忘れない。
テレビカメラも回っていない。グルメリポーターでもないのに、食べた瞬間思わず「美味っ!」と言ってしまった。続けて確か、「なんじゃこりゃ!」とも言っていた。
『ソレ』を、しげしげと眺めた。
今まで何度も食したことのある『ソレ』のはずなのに、それよりも前に食べてきた『ソレ』とは、まるで違う。

 

ハマりにハマって、ヘルプに行っていた期間中にどれぐらい食べていたか、今では思い出せないほどだ。

その時のことを思い出し、池袋から土浦までの移動中、顔は緩みっぱなしだったに違いない。

そして土浦駅に到着し、プレイアトレのエリアへと入り、土浦店へと向かう途中に、そのお店はあった。
土浦店と同じフロアに入っているそのお店は、どうしたって目に入ってくる。今すぐにでも買いたい衝動をこらえ、横目で『ソレ』の姿を見ないようにしながら、いそいそと通り過ぎる。今買ってしまったらきっと、仕事のことなんてろくに考えられないに違いない、そう思ったからだ。

 

しかしこれが良くなかった。
我慢してしまったせいで、どんな業務をしていても『ソレ』が、頭の中をチラつくのだった。
あの、赤紫の皮と、蜜が溢れ出して濃く変色している皮の部分と、割った時に現れる黄金色の実。

 

休憩に入った途端、僕は我慢できずに買いに走り、『ソレ』を注文した。

「焼き芋、1つください」

 

普段スーパーなどで見かけるような、石の上に並べられ、焼かれているのとはまるで違う。ケーキ屋さんのようなショーケースの中に、一つ一つ焼き芋が個装され、並べられている。多少の差はあれど、大きさとしては一つ一つはそこまで大きくない、お手頃サイズだ。この日僕が買った焼き芋は、162グラムで207円。

その他お店の中には、スイートポテトやプリンなど、サツマイモを使ったスイーツがいくつも並んでいる。これらこだわりのサツマイモを使った焼き芋や各種スイーツを販売しているのは、茨城県に4店舗と千葉県に1店舗を構える、「蔵出し焼き芋かいつか」さんだ。

そして昼食用の弁当を買うためコンビニを経由して店舗の控室に戻ると、何故か僕の中では心変わりが起こってしまった。

1つだけしか買わなかったことを後悔した。

『今食べてしまうのは惜しい……』そんな思いが、不意に浮かんできたのだった。
以前に食べた時の感動を思い出し、今食べることと、仕事を終え、疲れ切った後で食べることとを天秤にかけた時、いともたやすく僕の判断は、仕事後、加えて約1時間半の帰路経た後、家で食べることを選んだたのだった。

 

しかし、である。

仕事終わり。

結局僕は、寒風吹きすさぶ土浦駅のホームで、かいつかさんのロゴの入った紙袋を開けてしまった。

次の電車が来るまで13分ほど時間があったことはある。お腹が減っていたこともある。『駅のホームで食べるなんて……』なんてことはもちろん考えたし、少し躊躇もした。

でも、我慢できなかった!

 

僕は紙袋の中から焼き芋を取り出す。すると、溢れ出した蜜が手や指についてしまうのだけれど、これも、美味しさの証明だと思えば、イヤと感じないから不思議なものだ。一緒に渡されたおしぼりで拭けばよいだけのことだし。

2つに割ろうと力を込めれば、全て潰れて形を失ってしまうのではないかと思うぐらい、柔らかい。

力加減を注意しながら2つに割れば、詰まりに詰まった蜜と水分で、黄金に光る実が現れる。

焼き芋と言えば、『ホクホク』というイメージを持たれるだろうが、そういったイメージとは真逆の、プリンを思わせるぐらいのしっとり具合。

焼き芋を口へと持っていきながら、僕は少し緊張した。
思い描いていたあの味のイメージは、僕の幻想ではなかったか。本当にそんなに美味しかったか。感動したか。
そんなことを思いながら、口へと運ぶ。

 

「美味っ」

背後の椅子に人がいるのも構わず、僕はやっぱり呟いてしまった。

思い描いていたことは、1つも間違っていなかった。誇張もなかった。
再び僕は、その味に興奮し、感動した。

よく知られている食材、モノなのに、手間暇と工夫を加えただけでこんなにも違う。驚きと感動すら与えてしまう。
そのことを噛み締めながら僕は、次の電車が来るまでのわずかな時間で、ペロリと食べてしまった。

そして、「あーー、また来たい! 食べたい!!」と思いながら、東京へと戻る電車に乗り込んだ。

 

2020年3月19日。
サイクリングホテル「星野リゾート BEB5 土浦」の開業に伴い、プレイアトレ土浦は、グランドオープンを迎える。

是非このタイミングに合わせて、天狼院書店「プレイアトレ土浦店」、そして「蔵出し焼き芋かいつか」さんに訪れてほしい。
そして、この焼き芋を食して欲しい。

感動を、お約束する。


2020-03-07 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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