チーム天狼院

人生でいちばん静かな誕生日《スタッフ平野の備忘録》


記事:平野謙治(チーム天狼院)
 
それは、見たことのない景色だった。
 
いつもは人でごった返している、池袋駅の地下通路。
それこそ、すれ違う人たちの顔なんて、いちいち認識してられないくらい。多くの人々が歩いているのが、いつもの風景。それなのに。
 
人が、いない。ひとりも、いない。
視界を遮るものなど、何も無く。今歩いている通路、その真っ直ぐ奥の、ずっと遠くまで見える。
こんな風景、初めて見た。
 
6日火曜に発令された、緊急事態宣言。週末外出自粛要請。
多くの飲食店は休業。あるいはランチ時だけの短縮営業という対応をとった。
 
仕事を終え、駅までの道を歩く。
目にするのは、閉まっているシャッターばかり。終電近くに帰るときと同じくらい、いや、それ以上に。人の姿は、見られなかった。
 
連日、夜になると天気は下り坂。今日も冷たい、雨が降っていた。
それがまるで、東京のこの状況を憂いているかのようで。
センチメンタルな気分を、嫌に加速させた。
 
たまにすれ違う人たちは、皆が速歩。
誰もがマスクで顔を覆っている。傘を深くさし、目も合わないままにすれ違っていく。
まるで外にいることそのものが、罪であるかのような。そんな空気が、漂っている。
 
街は、静かだ。あまりに静かで、気味が悪かった。
僕の足音だけが、不安と同じ大きさで響いた。
 
でもよくよく考えたら、街に人がいなくたって、憂うことなんかないんだ。
だってそれは、皆がそれぞれ、自分を守っているということなのだから。
力を合わせて、感染を防いでいるということなのだから。
そうすることで、この事態の沈静化が進むのなら。街が薄暗かろうが、静かだろうが、心配することなんてないんだ。そう思っている。だけど。
 
そこに横たわる大きな不安は、消えることなんか決してなくて。
あるひとつの疑問と共に、僕を焦燥へと駆り立てていく。
 
この状況は、いつまで続くのだろう。
 
今現在、東京にある天狼院の店舗は、いずれも閉まっている。通信でやりとりはできても、店舗ではお客様に会えない。
それがこんなに寂しいだなんて。緊急事態になって初めて、思い知る。
 
わかっている。そんなことを言っている場合じゃない。
こんな状況の中で、「誰かに会いたい」だなんて。口にするのが軽率だということを。
わかっているんだ。だけど。それでも。
 
感情はいつだって、理性とは別のところにあって。
思ってしまったことはもう、感じずにはいられない。
奪われたことで気づくなんて、バカだと思う。
でもほら、事実として今湧き上がってくるこの感情は、これほどまでに強いものだから。
 
好きだな。
やっぱり好きだな。
「天狼院書店」という、あの場所が。
 
会いたいな。
やっぱり会いたいな。
「学びたい」とか。「楽しみたい」とか。
「変わりたい」とか、そんな期待を持って、集まってくれるお客様に。
 
寂しいな。
やっぱり寂しいな。
そう思うのは、確かな事実だ。
 
だけど空腹こそが最高のスパイスであるように。
忙しく働いた日の睡眠は至福であるように。
いっぱい我慢した後の方が、気持ち良いことを僕の身体はもう知っているから。
いつか沈静化して、天狼院でイベントをやって、人がたくさん集まって……
そのときの喜びは、それはもう大きなものになるはずだから。
すべてが、報われるはずだから。
その日が来るまで、この感情は風化させずにとっておこうと思う。
 
それに、だからと言って僕らは、ただ「その日」を待つわけじゃない。
店舗が休業していようとも、天狼院は歩みを止めない。
 
直接本をお渡しすることが、叶わなくなったとしても。
「本だけでなく、その先の体験も一緒に提供する」という、そのコンセプトは。
「お客様にとって有益な情報を、お客様にとって最適な形で提供する」という、その使命は。
ブレることなく、確かに今この瞬間も、僕らの芯として存在しているから。
店舗が休んでいたとしても、通信で。映像で。「学びたい」という、その気持ちに、応え続けるから。
 
4月スタートのゼミから本格導入された「天狼院マルチディスプレイ」。
まるでテレビを観ているように、快適に受講できるシステムだ。
初めて体験した時、すぐに思った。天狼院では今までもずっと、通信での講座を続けてきたけれど、一味も二味も違うぞ、と。これは一つの到達点だと。ハッキリとそう、感じた。
今まで以上に快適に。かつ楽しく。遠方の方や、外出を自粛している多くの人々のもとへ。これが届くのかと思うと、とてもワクワクする。
しかもこれでもまだ、導入の初期段階。これからさらに、進化するはず。
 
だから僕らのことを、見ていて欲しいです。
期待していて、欲しいです。
僕らは止まらないから。どのような状況下でも、進み続けるから。
あなたが学びたいと思ったその知識を、最適な形で届けて見せるから。
 
そうしていつの日にか、本当に晴れたなら。
店舗にもぜひ、来て欲しいです。強く、そう思います。
心の底から「いらっしゃいませ」と。そう言うから。一緒に笑い合えたら、嬉しいです。
「大変だったね。でもこうしてまた会えて良かったね」って。涙が出るほど笑えたらいいな。
 
それまで自分を、なんとか守って。それが周囲を守ることに、繋がるから。
頑張って生き延びて、一日でも早くその未来を引き寄せたい。
 
どのくらいの時間がかかるだろう。わからない。だけど今は。
「止まない雨はない」とか、
「トンネルの出口は必ずある」とか、
そんな、ポップソングのありふれたフレーズを、
バカみたいに信じてみるとする。
 
静かな街を歩く中で、ゆっくりと決意した。
そんな、25歳の誕生日だった。
 

◽︎平野謙治(チーム天狼院)
東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ25歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。
青年の悩みや憂いを主題とし、16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
同年6月から、 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部所属。
初回投稿作品『退屈という毒に対する特効薬』で、週刊READING LIFEデビューを果たす。
現在に到るまで、『なんとなく大人になってしまった、何もない僕たちへ。』など、3作品でメディアグランプリ1位を獲得。

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