チーム天狼院

自分の妄想を手売りする


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田中くみこ(チーム天狼院)
 
 
昨年の、9月の下旬の頃のことである。
 
なぜ私はこんなのを書いてるんだろう。
正気に戻ったらダメだと思考を振り払ってタイピングを続ける。
しかし一度思ってしまうと、ちょっと苦しくなった。なんで私はこんなのを書いているんだろう。
 
なぜ。
なぜ私は自分の妄想が詰まった本を手売りしようとしているんだ。

 

 

 

「そうだ、同人誌を出そう」
深夜テンションの幻覚で嵩増しした行動力で、オンラインでお申し込みをしたのだ。同人誌即売会に。
 
高校時代から、「書けたら本を印刷してみよう、同人誌即売会に参加してみよう」と思っていたのだが、10年近く経ってそれは実現していない。さる通りすがりのツイッターのつぶやきに、「本(同人誌)を出したきゃ先にイベントに申し込め」とあった。全くその通りだと思った。いつかしようと思っててもずっと書くわけがない。そのいつかに期限を設けることが大切だから、と。全くもって、全くもってその通りだ。自分を信じるな、締め切りを信じろ。
そういうわけで、深夜テンションの頼って、思いっきりお申し込みをしてみたのだ。開催日は数ヶ月後。「数ヶ月も先にあるんなら、自分でもなんとかかけるっしょ!」と余裕を持っての申し込みであった。のちに思う。数ヶ月あろうが半年だろうが、締め切りを守らない奴は得てしてやり始めるのが遅いのだ。
そして福岡から東京へ、新幹線で5時間パソコンを開いて作業をする羽目に至ったのである。
 
同人誌。それは様々なものがあるが、大体の人はいわゆる「薄い本」をイメージするだろう。実際は、その限りではないのだが。一次創作に二次創作。漫画もあれば小説もあり、中には物語ではなく、自分の趣味についてまとめたものや研究ノートみたいなもの、資料として使えるものまで様々だ。
ちなみにWikipediaによると、「同人誌とは、同人が、資金を出し作成する同人雑誌の略語」(Wikipedia)のことを指す。まあ、つまり自分で印刷所に頼んで印刷してもらって本にしたものだ。なので、実際のところ定義は幅広い。
そして私は、二次創作で小説を出す予定であった。行きの新幹線の中でも書いてるわけだから、印刷所に頼むつもりも毛頭なく、書いて東京でコピーして冊子にした、いわゆるコピ本を出すことにした。
 
あ〜〜〜〜、なんでもっと早くからちょっとずつやってないかな〜〜〜。
開催費の一週間くらい前から心で号泣していた。
せっかく申し込みして締め切りも設けたのに意味がない。これで頒布ものも何もなかったら嫌だ。スペースを空けるなんて申し訳なさすぎる。
当初予定していた目次を大幅に削り、自分が描きたかった部分を優先的に、そして前後が合うように書き加える。ぶっちゃけ描きたかった部分を先に優先的に書いたから、登場人物二人の出会いもそれまでに至るまでのエピソードも足りない。とにかく……それっぽく書け!!
久しぶりの東京なのに、ワクワクも何もあったものでもなく、ただひたすらに焦燥感に駆られていた。
 
東京に着いてから、同人誌即売会の他もう一つの目的のために池袋へと向かった。
(ここはオタクらしく秋葉原にでも行きたい気もしたが、よくよく考えてみれば特に秋葉原に行きたい店もないし、グッズとかにも興味がなかった)
今働いている福岡店舗の、東京の店舗にも訪問してみたかったのである。しかし、新幹線の中でもまだ描き終わっていない。起承転結の承の中盤から、オチの部分が書けていなかった。とりあえず、池袋の駅の近くにあって、カフェがあって、Wi-fiがある店舗へとまっすぐに向かった。「シアターカフェ天狼院」である。
 
「くみこさん、お久しぶりです〜!」
そういって、その月の初めに東京に上京して、また天狼院のアルバイトとして引き続き働いているのんちゃんが笑顔で迎えてくれた。笑顔が眩しい。やばい、今の私には君の笑顔が目に染みる。無邪気に「これからどこか行くんですか?」とか聞かないでくれ。
「イベント明日ですよね?」
福岡にいた時から、9月にどんなイベントに参加するのか、そのために同人誌(コピ本だけど)を用意しなければいけないことなど、事情は把握しいるのんちゃんだが、その前日にまだ書いてるの? という、純粋な疑問の目が恥ずかしい。締め切りとか危機感とか正常に働いてないバカはこちらです。
とりあえず、お客様としてきたわけだから、大好きなキャラメルマキアートを頼んで、テラス席にて早速パソコンを開いて打ち込む。とりあえず後ろに人が通らないことを祈った。
 
そこで一瞬正気に戻った。テラス席からの風がそうさせたのだろうか。東京とはいえ、職場の現実感がそうさせたのだろうか。
 
(なぜ私は自分の妄想が詰まった本を手売りしようとしているんだ)
 
もはや性癖である。
そもそも私が書いているのはなんだ。面白いのかこれは。え、面白いのか? 思いついた時は自分は面白い、神では? くらいのテンションだったのに、書いてる最中ものってる時は面白かった。のってない時は地獄だったけど。
え、これ、読んでどう思うの? どう思っちゃうの? どう思われちゃうの? え? てか……これ……書いてて恥ずかしくない?? 今更だけど恥ずかしくない?? だって自分の……いわば妄想を世に出すんだぞ。ネットのデータではなく紙とインクで世に残るんだぞ!! とりあえずリアルの友人には読ませられないし読ませたくないのだが。
 
だけど、迷いつつもタイピングを進めるては止められない。いやのってるとかそういうことではなく、止まったら落とす。最後の砦のキン○ーズで冊子印刷するにも、閉店時間は19時なんだ。あと2時間しかないんだ。
もう迷いとかそういうのはいいから、書かねばならないんだ。だって……締め切りがあるんだもの!!
 
どうにかこうにか書き進めて、どうにかまとまりつつあった。あとは誤字脱字のチェックや、校正をしなくてはいけない。ちなみに時間はギリギリである。
 
そこで現れた人物がいた。
 
社長である。
 
嫌だとかなんだとかそういうのではなく、単純に、いたたまれない。

 

 

 

キン○ーズにて、スタッフの人に聞きながら、どうにかこうにか小冊子印刷をした。大して告知もできてないし、アニメ化の最盛期から10年近く経っているジャンルである。見た目も、表紙も何もないチャチな作りであるし、数冊売れるかも怪しい。交通費に宿泊費に、登録料に印刷費、諸々割りに合わないものである。
 
「表紙とかインデザインとか、どうすんの?」
さっき、出くわした社長の言葉を思いだす。ちなみに社長もすでに私の東京来訪の目的を知っている。
 
インデザインとか、表紙とか、ろくに準備ができたわけではない。だって、開催日の前日まで、私は新幹線の中でも書いてたのだから。私だって、お申し込みした当初は、あれもこれもしよう、こだわろう、なんて考えてた。
社長は、数多くある肩書きの一つに、小説家とある人だ。『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)が世に出る際に、想定にもインデザインにも、こだわって出版している。その指摘ももっともだ。私は笑ってごまかすしかなく、恥ずかしかった。
こんな他人から見てチャチなものを、見られるのが恥ずかしい。それはさっき書きながら葛藤した羞恥とはまた別の種類の恥ずかしさだ。
 
しかし、だけど、それでも、冊子で、”本”としてあるそれを手に取った瞬間、嬉しかったのだ。
 
自分が書いたものが、本として形になっているのが、ただただ嬉しい。
 
なんで私は、自分の性癖を大公開しようとしてるんだろう。普通に恥ずかしい。
同人誌即売会だと、対面だし、「これは自分が書きました」と首にぶら下げてるようなものだ。
お金はかかるし、時間もかかるし、書くのも結構大変だし。人に読んでもらいたいだけなら、今の時代、SNSでいくらでも公開できるのに。
 
でも、それでも、
”本にしたい”
”本を作って、形にしたい”
という、正体不明の欲求があるのだ。きっとそれは、たくさんの人の心の中にあって、だから、コミケだとか同人誌界隈で、大きく金が動くのだ。たくさんの人の狂が突き動かすのだ。
 
私はまた同人誌を作ると思う。
今度はきちんとインデザインしたいし、表紙にもこだわりたい。少部数なら、手作りでもいいかもしれない。
ちゃんと印刷所に頼んで、綺麗な本にしたい。
SNSできちんと告知して、たくさんの人に欲しいと思われるようなものを書きたい。
 
あれもこれもと、したいことを思い浮かべながら、とにはかくにも、まずはこの出来立ての”本”を持って、翌日のイベントに参戦しなければいけない。
とにかく、一冊めでチャチかろうがなんだろうが、出来上がったという安堵感と達成感で、気分良くキン○ーズを後にした。
 
昨年9月の、下旬の頃のことである。
 
 
 
 
***

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2020-04-30 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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