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チーム天狼院

世界はそれを、運命と呼ぶんだぜ!


記事:永井聖司(チーム天狼院)
 

「希望の勤務地は、ある?」
もう、1年10か月も前のことだ。広島から面接にやってきた僕に、三浦社長は質問した。

生まれて初めての、転職活動だった。

更に1年ほど前から、転職に関しては悩んでいた。当時28歳。務めていた会社では社歴6年目となり、そこまで規模の大きくなかったその会社の中では中堅クラスになり、課長代理という肩書も頂いていた。でも、30歳という大台が見えてきて、今後の自分自身のキャリアを考えたときに悩むことが増えてきた。

そんな状況の中にあって、何か状況を変えるきっかけにでもなればと思い、2017年8月開講、人生を変えるライティング・ゼミに参加した。
まさかその1年後、そのゼミを主催する天狼院書店に転職しよう、と考えるとは、夢にも思っていなかったけれど。

 

「京都か福岡かな、と思いますけど……池袋でも良いです!」

僕は、三浦社長の質問にそう答えた。引っ越し費用のこと、家賃の相場とを考えたからだ。
当時はまだ土浦店がなく、勤務地として選べたのは、京都天狼院・福岡天狼院、そして池袋エリア3店舗のいずれかだった。
でも答えながらも僕は、多分池袋の配属だろうな、とは思っていた。お客さんとして訪れた経験のある京都天狼院、そして福岡天狼院ともにカフェがメインの店舗で、営業・事務と、ごくごく一般的な社会人生活を送ってきた僕が入って戦力になるとはイメージしにくく、また、当時の池袋エリアで人が足りていないことはなんとなく聞いていた。

その後、面接中にほぼ採用という話となり、入社時期の相談もした上で、面接は終了した。
2018年8月1日。
面接会場だったEsolaを出るとムワッとした熱気が体にまとわりつき、広島とは段違いの人の多さが、改めて目についた。
ここで働き、暮らすのだ、ということが、少しずつ、現実味を持って迫ってきた。天狼院書店では、通勤時間10分以内のエリアに住めば2万円の家賃補助が出る、という制度があるからだ。
Esolaを出てホテルへと戻る道沿いに、池袋西口公園が見えた。今は野外劇場として美しく生まれ変わったが当時はまだ、寂れた雰囲気のある、よく知られた姿をしていた。
僕は立ち止まり、ここがあの有名な西口公園なんだと、しみじみと見ていた。

知識の源はもちろん、ドラマ・池袋ウエストゲートパークだ。とは言っても、リアルタイムでドラマを見たわけでもなく、放送の何年後かに懐かしのドラマの映像、といった感じで見た程度のものではあった。それでも、池袋はこういう街なんだと、栃木出身の田舎者が思い込むには十分だった。
広島に勤務するよりも前に、1年半ほど、東京の支社で働いていたこともあった。それでも、勤務地が五反田、住んでいる場所が大田区であれば、たまに仕事の用事で来る以外に池袋に来ることはなかった。来たとしても仕事があるのは東口方面ばかりで、西口エリアに踏み入れたこともなかった。ドラマの影響もあっただろう、踏み入れてはいけないようなイメージもあった。

 

ホテルに戻り、窓から池袋の街並みを見下ろしながら、改めて思った。
まさか池袋に住むことになるなんて、何かの運命のようだ、と。

もそもは、いわゆる「本」を全く読まない子どもだった。
読むのはマンガばかりで、国語の教科書に載っている夏目漱石やら太宰治やらの文章を読んでも、何が面白いのかさっぱりわからない子どもだったのだ。朗読をすれば褒められるので国語の授業自体は好きではあったけれど、読書感想文は大の苦手。本屋さんに行っても図書館に行っても、マンガコーナー以外には見向きもしなかった。

そんな中で迎えた、中学生時代のとある夏の日。確か、塾の帰りか何かだったと思う。
照りつける夏の日差しから逃れようと本屋に入ったのだ。それまであまり入ったことのない、こじんまりしたお店の中、何を見るでもなくぶらついていた。
その時に、平積みされていた一つの文庫本のカバーが目に入ったのだ。
割れた鏡に映る、5人のキャラクター。帯には、『電撃ゲーム大賞金賞受賞』との文字が刻まれていた。

 

妙に、引き寄せられた。

普段なら、文庫本コーナーなんて見向きもせず素通りなのに、立ち止まった。

文庫本を手に取って、しげしげと眺めた。

カバーに使われているイラストが、好みだった。

理由は、それだけだった。

それはいわゆる、ライトノベルと言われるジャンルの小説で、ページをめくれば、所々にイラストが載っているのも確認できた。

これなら、読めるかもしれない。

そう思って、レジへとその本を持っていった。

 

そして読み始めてみれば、僕は何度も、心の中で歓喜の声を上げていた。

面白い!
面白い!!
面白ーーい!!!

芥川龍之介や夏目漱石や、どこか淡々としていて落ち着いていて、湿っぽい雰囲気のするものだけが小説だと思っていた僕の『小説観』を、ガラリと変えてしまった。
テンポの良いセリフに、濃いキャラクターたち、マンガのような展開などなど。後にそれが、ライトノベルと言われるジャンルの特徴だというのは知るのだけれど、マンガ好きだった僕にはピッタリだったわけだ。
加えて、この時手に取った作品は群像劇だった。10人を軽く超える、キャラの立った人物たちの言動が、少しずつ他のキャラクターの行動に影響を与え、そして結末へと向かっていくという、読めば読むほどに面白さが加速していく物語の構成も、当時の僕にとっては衝撃的だった。
テレビドラマで見ていた、三谷幸喜さん脚本作品のような、脇役が良い味を出すドラマなどが好きだった、ということもあるかもしれない。もしくは、1人の主人公が明確にいて活躍するマンガばかり読んでいて、その形式に若干飽きていたのかもしれない。
とにもかくにもこの作品を読み終えた時、こんなに面白い小説というものが世の中にあるのだと、本当に思った。
それは、成田良悟さんのデビュー作、『バッカーノ!』という作品で、後にアニメ化もして大評判となった作品だった。

『人生を変えたキッカケの本は何ですか?』とたまに聞かれる時に、僕は必ずこの本をあげる。他の人が、それこそ太宰治などの文豪をあげている中で躊躇することもあるけれど、これ以上に僕の人生に影響を与えた1作はないのだから仕方ない。
この本をきっかけに、僕はライトノベルにハマり、1冊読み終えればまた新しい本を買って、というサイクルが出来上がっていった。そしてその内、僕も大好きで読んでいたマンガ『ヒカルの碁』や『DEATH NOTE』の作画を担当されていた、小畑健さん書き下ろしのカバーに引かれて、太宰治の『人間失格』に手を出したり、その他の小説にも手が伸びるようになった。
どんどんどんどん、本を読む、ということが楽しくなり、その想いは今度、『こういった面白い本を作る側になりたい!』という夢に変化し、就職活動につながった。
そして結局、出版に携わる部署に配属されることはなかったけれど、出版部門を持つ会社に就職することとなった。

この1冊がなければ、間違いなく、今の僕の人生はないのだ。

 

こうして本によって人生を変えられた僕の人生において、『池袋』は、憧れの土地でもあった。

僕の人生を変えた作家、成田良悟さんの代表作、『デュラララ!!』の舞台が、池袋だったからだ。
学生、情報屋、カラーギャング、医者、首なしライダーなどなど、『バッカーノ!』同様、魅力的なキャラクターたちが、池袋の街の中を暴れ回る。自動販売機が飛び、連続殺傷事件が起き、カラーギャングたちの抗争が起こる。
高校生時代、池袋ウエストゲートパークのイメージと混ざっていたこもあって、池袋はこんな街なんだと思うと同時に、こんな作品を作る側の人間になりたいと、僕の未来に夢を持たせてくれた場所、それが、池袋だった、

ホテルの窓から池袋の街を見下ろしつつ、少し妄想をしてみれば、作品の中に登場したキャラクターたちが駆け回り、暴れ回っているのを容易に想像ができた。

 

聖地巡礼どころか、聖地住まいだ。

それから数ヶ月が経ち、池袋での生活が始まり、しみじみと思った。あの、キャラクターたちが駆け回っていた場所で息をしている。
『デュラララ!!』の世界と違って大きな事件が起きることはなく、平穏無事な生活ではあるけれど、ふと、作品のことを思い出す。

しかも、僕の人生をこんな風に変えてしまった原因の場所、『書店』で働いているのだ。
これを、運命と呼ばずになんと呼べば良いのだろう。

 

こんな想いを、他の誰かにも味わって欲しい。

出会いは、劇的ではないかもしれない。きっかけは、ほんのささいなことかもしれない。

でも、何十年後かに振り返ってみた時に、『あれは運命だったんだ』と、確信を持てる出会いを、1人でも多くの人に、味わって欲しい。

そんな想いで今日も僕は、店舗に立つ。


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