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チーム天狼院

その音楽に熱中したのは、偶然だったのだろうか?《スタッフ平野のミュージック・ラボ》


記事:平野謙治(チーム天狼院)
 
単純に、不思議に思っていたんだ。
自分が、好きで好きでたまらない、心の底から素晴らしいと思うものに対して、
まったく興味を示さない人たちのことを。
 
「こんなに良いものなのに」、「どうして、わかってくれないんだ」って。
半ば、怒りすら覚えることが、多々あったんだ。
 
でもよくよく考えてみると、とても人のことを言えたものではない。
だって、反対の出来事だって、少なからずあった。
 
誰かが、「素晴らしい」と絶賛しているものや、脇目も振らず熱中しているものの良さが、
まったくもって、わからなかった。
そっちの方が、むしろ多かったように感じる。
 
なぜなのだろう?
そんな出来事を経験する度に、疑問に思う。
 
あのアイドルを好きだったのは、何もあいつだけじゃない。世間を見渡せば、多くの人が熱中していた。握手会に、足を運んでいた。
それだけの魅力が、彼女たちにはあったのだろう。
 
だけど僕には、その魅力が伝わらなかった。
どうして? それが、生まれ持った感性の違いだから?
 
そう決め付けてしまえば、それまで。
でも本当に、そうなのだろうか。
 
僕は、アイドルを好きになったことがない。アニメに、熱中したことがない。パチンコの面白さが、わからない。映画やドラマを、あまり観ない。ダンスをしたいと、思ったことがない。
 
それらすべてが、生まれた瞬間にはもう決まっていた。たまたま偶然、与えられた感性で。誰かが夢中になっている、それらのことに、僕は決して夢中にはなれないと。
 
初めから、全部が全部、決まっていただなんて。
とてもじゃないけど、思えない。
 
きっとどこかには、あったはずだ。
好きなアニメについて、熱く語っている未来が。ゲームに熱中して、オンラインで誰かと戦い続けていた日々が。アイドルを好きになって、握手会に通っているなんてことも。
 
もしかしたら、あったかもしれない。
たまたま、そうはならなかっただけで。可能性は、十二分にあったと思う。
 
ではなぜ、そうならなかったのか?
その答えには、既に心当たりがある。多分、「タイミング」のせいだ。
 
タイミング。
それは、何かにハマるか、ハマらないかを決定する上で、最も重要な要素なのではないかと思う。
 
同じ人が、同じ映画を観ても、心境によって捉え方が変わったりする。「まあまあ良かった」くらいの感想になることもあるだろうし、深く突き刺さって、「これは名作だ!」となることもあるだろう。
 
あと多分それは、経験によっても変わる。
経験がないうちは「そういうもんか」って捉えていた失恋シーン。いざ自分が同じ目に遭うと、ガッツリ感情移入して涙流しちゃったりする。
わからなかったはずの感情が、突然わかっちゃったりするんだ。
 
「空腹は最大のスパイス」とは、よく言ったものだなと、本当に思う。
結局、自分が心の底で求めていたものに、勝るものはない。
疲れている時は、癒しだったり。失恋した時は、悲しみに浸らせてくれるものだったり。イライラしている時は、スカッとするような感覚だったり。
心境が変化する中で、欲しているものも変化していく。そんな日々の中でたまたま、偶然、心の底から求めていたものを、ドンピシャで与えられた、その瞬間。
 
往々にして、僕らは勘違いするんだ。
「これは、運命だ」と。
「自分のために、存在しているものだ」と。
「出逢ってしまった」という感覚が、雷のように身体を突き抜けていく。
 
そう。それが、
何かにハマるタイミングなのだと思う。
 
趣味を持つ者なら、誰もが味わったことがあるだろう。あの興奮は、何事にも代え難い。
「生きてて良かった」なんて、大袈裟でなく、そんな風に思ったりするものだ。
 
人それぞれ、様々な高鳴りがあるだろう。
僕の場合それは、音楽だった。ロックンロールの素晴らしさに、気づいてしまったあの瞬間。
世界が真っぷたつに軋むような、今までの価値観が塗り替えられていくような、そんな気がした。
 
そう、気づいてしまったんだ。
なにも、ロックに出会ったのはその瞬間が初めてではなかった。今までも、周りにあった。聴く機会だって、少なからずあったはず。
 
でもその時の僕は、スルーした。なんで?
それが、タイミングではなかったからだ。
 
気づいてしまったあの瞬間は、きっと身体が求めていたんだ。既存の価値観をぶっ壊してくれるような、日々の鬱屈を爆発させてくれるような、クソったれな自分自身にナイフを突き立ててくるような、そんな衝動を。
 
少なくともあの時僕は、満たされていなかった。幸せじゃなかった。
だから、ロックの魅力に取り憑かれたのだと思う。
 
変わったのは、ロックンロールじゃない。僕の方だ。
ロックンロールは、いつだってそこにあった。変わらず魅力を、放っていた。
 
もう僕は死ぬまで、ロックを愛さずにはいられないだろう。
忘れられないんだ。「救われた」という、あの日の感覚が。
 
「出逢ってしまった」あの瞬間の感動を、そのまま形にしたような曲がある。
「神聖かまってちゃん」というバンドの、『ロックンロールは鳴り止まないっ』という曲だ。
 
最初は何とも思わなかった、ロックンロール。なのに、あるタイミングで、ハマってしまって。
気づけば、頭の中から鳴り止まなくなってしまった。そんな体験が、この曲にはつめられている。
 
初めて聴いたとき、思った。
僕が経験した感覚は、まさにこれだ、と。
僕が言いたかったことを、すべて言ってくれている。僕のことを歌った曲なのではないか。とすら、感じた。
 
だけど当然、そうじゃない。僕の経験を、歌った曲じゃない。
この曲は、ヴォーカルの「の子」自身が、体験したことを歌っているに過ぎない。
だけどそれが、多くの音楽好きに共感され、ロックシーンで支持されるに至ったんだ。
フェスで披露されれば、歓声と、どよめきが巻き起こる。「神聖かまってちゃん」というバンドのファンはもちろんのこと、そうでない人からも、同様に。
 
僕だって、そうだ。「神聖かまってちゃん」のファンでは、なかった。むしろ病的なまでに激しいライブパフォーマンスに、偏見すら持っていた。
でもこの、『ロックンロールは鳴り止まないっ』には、その偏見すら溶かしてしまう魔法があったんだ。
音楽にハマった、あの瞬間の高鳴りを、蘇らせる魔法が。
 
現に今も、僕の頭の中では鳴り続けている。
それだけの、名曲だ。自信を持って、オススメできる。
でも「絶対ハマる」だなんて、言うつもりはない。
 
あくまでそれは、タイミング次第なのだから。
満腹な時には、どんな絶品料理も食べたくないように。あなたのお腹の空き具合によっては、今ではないのかもしれないのだから。無理に聴いてくれだなんて。言うつもりは、毛頭ない。
 
でも少しでも聴いてみたいと。そう思ってくれたのなら。
今が、あなたにとっての、「タイミング」なのかもしれない。
 
 
 
神聖かまってちゃん『ロックンロールは鳴り止まないっ』
 
 

◽︎平野謙治(チーム天狼院)
東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ25歳。千葉県出身。ライブスタッフ歴4年。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
学生時代には友人とのバンド活動に励む一方で、ライブスタッフとしても活動。
14,000人以上の契約社員の中で、80人程度にしか与えられないチーフの役割を務める。
小さなライブハウスから、日本武道館、さいたまスーパーアリーナまで、様々なライブ会場での勤務経験あり。

 
 
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