こつこメモ

【星空が怖い】旅をして、またあなたを好きになる《こつこメモ》


 

 

朝の6時に起きて、いつも友達の家に泊まる時と同じように荷物をリュックに詰めた。

 

授業のために千葉に三泊四日ぐらいすることはざらで、荷物の支度には慣れていた。特別感も何もない、淡々と、いつもと変わらない作業。

 

集合場所の東京芸術劇場に着くと、寝る場所も選ばない人々が、まるで劇場の作品のように辺りに散らばっていた。混沌とした朝の池袋の縮図のようだった。

 

旅のしおりを渡されると、わたしはやっとこれから旅行に行くことに確信を持ててきた。

表紙に描かれた現代風ファッションの下手したら人間よりもイケている「見ざる」「言わざる」「聞かざる」の三匹が、早く日光へおいでと手招いているように見えた。

 

しおりをめくると、一昨日、わたしが初めて書いたページがちゃんと収まってて、ちょっと嬉しくなった。

小学校でも中学校でも高校でも書く機会のなかったしおりを、まさか大学生になってから書く機会が訪れるとは思わなかった。

 

人がひとり、またひとりと増えてきた。

 

渡された「旅部」の名札を下げていけば、わたしたちはいよいよ、ひとつの集団になっていった。

 

初めて会う人が多かった。
名前だけは知っていて、初めて顔がわかる人もいた。
知ってるけど、今まできちんと話したことのなかった人もいた。

 

8時30分。

集合時間を過ぎ、いよいよわたしたちを乗せたバスが出る。

 

池袋と日光は、存外近かった。

 

トンネルを抜けて、サービスエリアにひとつ寄ると、気づけばわたしたちは「いろは坂」を登っていた。カーブのたびに、いろはの五十音はひとつ、またひとつと顔を出した。

 

気づいたら、日光だった。

ドラマのセットのような駅は、初めて来たのになぜだか懐かしかった。

 

「華厳の滝」では売店で買った甘くておいしい牛乳を飲みながら、水しぶきを浴びた。

多くの鳥が円を描いて飛び交う空も、白く輝く滝も川も、滝を支える冷たそうな岩肌も。どこに目をやっても、不思議と心が落ち着いた。

この感動を伝えたくて、友達に写真を送ったけれど「すげー」としか言ってくれなかったのは不服だった。

 

きらきら光る「湯ノ湖」の周りで、お昼ご飯の時間。
湖を空から守るように、周りに山がそびえ立っていた。

いつもより、おにぎりも唐揚げもウインナーも、味わって……というより、味がはっきりわかった気がする。

外で食べるご飯は、どうしてこんなにもおいしいのだろう。

 

中禅寺湖のアヒルのボートでは水の揺れを楽しんで、近くの牧場では良い牛乳で作られた、もちもちしたアイスを食べた。

 

飯ごう炊さんでは山盛りのカツカレーとサラダを食べて、ひいひい言いながら片付けをした。

川で冷やしておいたすいかは程よく冷たくなっていた。

 

キャンプファイヤーではやっとのことで火がついたのに、気づいたら火を囲むことなく、花火にわたしたちは夢中になっていた。

花火で字を書いて写真に撮る試みをしてたのに、iphoneやスマートフォンの方がいいと聞いて、今度は花火ではなくそっちに夢中になった。

火は気づいたら消えていた。

 

この楽しい時間たちが、わたしたちの距離をほぐして、埋めていった。

 

スタッフもお客様も、前よりずっと近くに感じた。

 

ひとつひとつ、小さなことで笑ったり喜んだり感動したり。

 

ひとりじゃほぐせない、埋められない時間も、みんなとの共同作業だったらあっという間だった。

 

あっという間に、みんなのことがすきになっていた。

 

時間をみんなで分け合うたびに、わたしたちは本当に名札だけの繋がりじゃない集団になっていった。

 

0時。

 

一度眠ってしまったけれど。疲れた体を起こして、わたしは外に出た。

 

星空を撮るために、みんなも疲れた体を奮い立たせて、カメラやスタンドを準備していた。

 

外に出ると、すぐにわたしは半袖のシャツで出てきたことを後悔した。

 

七月とは思えないほど、わたしの体は数え切れないほどの星の空の下で、鳥肌をかぶって冷たくなった。

体は冷えたけど、それでも顔を上げると、気持ちは熱くなる。

 

東京になにかがたくさんあるわけじゃない。

東京にないものを、他の場所はたくさん持ってる。

 

みんなが星空を撮影する中、カメラを持ってればよかったと、これほど後悔した日はない。

iPhoneでは光を集めることができなくて、星空の写真を撮ることはできなかった。

 

ベンチに座って、空とみんなを見ていた。

流れ星を見るために意地でも顔を下げるのをやめると、本当に星が流れていく線が見えた。

いざ星が流れると、嬉しくて、願い事なんて吹っ飛んでしまうんだってことがわかった。

 

それからも、みんなは星を撮り続けていた。

 

みんなが星を撮り続けている間に、わたしは段々と星の多さに、怖くなった。

わたしたちも、わたしたちの生きる時間もちっぽけに感じられたからだ。

 

光年とか光速の話はかじった程度にしか知らないけれど。

今見えてる星の光が、何千年前の星の光だと思ったら、なんだか怖くなった。
今日みたいな楽しい日が折り重なっていったら、時間なんて、瞬く間に流れていってしまうのではないか。

わたしたちの生きてられる時間なんて、本当にささやかな時間なんだな、と思った。

 

家にいる、先週また誕生日を迎えたおばあちゃんの顔が一番最初に浮かんだ。

おばあちゃんと過ごせる時間が、きっともう、一番限られている。

 

足が不自由なおばあちゃんの分、わたしが足になって目になって、多くのことを伝えたい。分けたい。

早く会いたいなあと思った。

 

他にも、旅の途中で共有したいと思った人たちの顔も浮かんできた。

滝の迫力も、アイスのおいしさも、アヒルボートの楽しさも、写真の撮り方も、この星空も。

伝えたい人たちがたくさんいた。

 

華厳の滝も、湯ノ湖も、中禅寺湖も、戦場ヶ原も、飯ごう炊さんも、キャンプファイヤーも、星空も、日光東照宮も。

写真を見せたい。話したい。

それから、旅で出会った新しくできた大切な人たちの話もしたい。

 

 

帰りのサービスエリアで、おみやげを買った。

 

おみやげを買った相手のそれぞれの顔を浮かべながら、わたしの話を一緒に食べながら聞いてくれる姿を想像しながら、選んだ。

 

家にはうさぎ印のあんぱんを、三つ買った。

リビングの白い丸テーブルを囲んで、あんこのたっぷり入ったあんぱんをちぎりながら、わたしの話を笑って聞いてくれる家族の姿を思い浮かべながら買った。

 

日光を出る時。また来ようと思った。

 

この旅の足跡を辿りながら、思い出を口ずさみながら、旅の中でもわたしの心にいた人たちと。改めて、すきだと思った人たちと、来ようと、決めた。

 

 

 

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