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チーム天狼院

今日はきっと、いや絶対にいい日になる予感がする《スタッフ山中のつぶやき》

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記事:山中菜摘(チーム天狼院)

「演劇部の合宿じゃないんだぞ!!!!」

太く、強く、よく響く声が、グラウンド全体にこだましていた。
女子しかいないこの場所で、男性の声が響くと、もうそれは誰なのかは明らかだった。

一瞬、ビクッと、まさに一瞬だけ全員の目線がその方向に向く。
あ、やばいな。と全員が全員思っているのがわかる。

やばい、やばいんだけど、

彼女に手を差し伸べることも、何か助言をすることもその場ではできないことも全員が全員わかっていた。

彼女自身が気づいて変わっていかなくてはいけないんだ。

先生が怒っているのはそういうことなのだ。

中学高校一貫校の部活動は中学1年生から、高校三年生までが一堂に介して練習をする。

私の通っていた女子校も、体格も身長も大きく違うこの6学年が同じメニューをこなしていた。

小学校から上がりたての12歳にとって、先輩コーチからビシバシと指導を受ける事は初め経験する上下関係は部活動だった。

一つ上の先輩。もう一つ上の先輩。さらに上の先輩……と学年を重ねるごとに増していく緊張感がある環境。

私の所属していた陸上競技部は、歴代関東大会、全国大会、に出場するような強豪校で、その分練習もその上下関係も学校の中でも随一の厳しさだったように思う。
部員の半分以上が最初の一年で辞めてしまうというのが例年で、6学年合わせても20人にも満たない部員数。毎年作られるTシャツにも「少数精鋭」とプリントされた年があったほど。

今でさえ何かあった時は
「100m100本ダッシュした時苦しさに比べたら」とか
「4時間ぶっ通しでリレーしたなぁ」なんてことを思い出すし、

そこで得た経験はたまに夢に出るほどに印象がつよい。

そんなザ・部活動の絶対的トップは。部長でもなく、コーチでもなく。
顧問のM先生だった。

白髭をはやしたそのダンディな風貌と、生徒を笑わせるユーモアさと、でも何かすごい人なのだとわかるオーラみたいなものを纏うM先生は普段は体育の先生としてどんな生徒からも慕われる先生だった。

陸上競技部が今でこそ強豪校となっているのも、M先生がこの学校に赴任されてからだというのは、それよりも前から学校にいる先生方や、先輩方からの話で前々から聞いていたのもあるが、きっとこの人がこの環境を作り上げたのだろうなというのは、指導を受けていて身にしみて感じていることだった。

生徒を差別しているというわけでは決してなかったけれど

、M先生は部活動の時は特に厳しかったように思う。

それこそ、中学生の頃は緊張感からの怖さを感じる事はあったが、なぜか素直に信頼することができた。
今思えば、そこには私たちに成長してほしいという、「愛情」なようなものを感じとていたのかもしれない。(直接はそんな事は絶対に言われなかったけれど)

先生が口を開くたびに、部員全員の背筋が伸びた。
もしかしたらそのグランドで練習するテニス部もソフトボール部も、その時は何か空気が違うなと感じていたのかもしれないが、雑談などが減り、その時間だけは妙な静けさができる。

練習中も、練習後のミーティングの時も思いっきり喝が飛ぶ時もあれば、静かに淡々と教訓を得ることもあった。

一か十まで、全てを教えてくれるわけではなく、何か成長の種のような言葉をかけてくれることが多かった。

考え方や、一つの行動。一瞬聞くと「?」それをしたら何になるの?

とその瞬間にはわからないことも多かったが、

信じてやってみて初めて あぁこういうことだったのか。

と気づくことがほとんどだった。

先生が怒鳴っていたとしても、そこにはちゃんと真意があって、それには自分で気づいて変わっていかなくてはいけないのだという事は、いつもそこにいる全員がわかっていた。

そんなM先生から教わったことの中には、今でもふとした瞬間に思い出して、こういうことだったのかと思うものがある。

練習後のミーティング、明日から大事な地区予選が始まる時だったように思う。

冬の厳しい走り込みを終え、いよいよ明日から大会シーズン。大事な大会。練習は終わったものの、緊張感がまだ拭えない様子だった。

グランドの端っこで円になって先生の話を聞く時間。

「大事な日の、一番初め、何をすると思う?」

そう先生から投げかけられた。

オリンピックの代表候補でもあった先生は、それはもう私の想像を絶するほど大事な場面もおおく経験してきたことだろう。

全員が全員考える。

そんな大事な場面は何か特別なことをしなくてはいけないのかな?
それとも緊張しないようにあえて普段通りに過ごす?

「俺は、晴れてたら、カーテンを開けて太陽を見る。そして深呼吸する。そうしたらそれだけでその日はいい1日になるものだ」

先生の答えは10代の私の想像していたものとは全く違うものだった。

え? それって雨だったらどうするんだろう。なんてことも考えてしまう。

太陽を見たら、足が速くなる? もっと高く跳べるようになる?

どういうことなんだろう。

そんなことを半信半疑で思いながら、その日から太陽が出ている時はまず一番に窓を開けて太陽を見るようになった。

それはその中学高校をまた大学も卒業した今でも続いている。

大事な場面の大事な時。
今日は太陽を朝からいっぱい浴びたな。ということを頭に思い出すようになった。

大丈夫、大丈夫。
今日は太陽を目一杯浴びたから。

いつもの間にか、そんな何気ない行動一つが安心や自信につながっていた。

きっと先生が言いたかった事はこういう事だったのかもしれない。

大事なのは太陽を見るということ自体ではなくて、「俺はこうしている」と言っていたように、何か自分の中のルールやルーチンをあえて作る事で、どんなピンチな場面でも大事な場面でも「大丈夫」と思えること状態を作り上げることだったのかもしれない。

あぁきっと今日も良い日になるなと、今は実家を離れて、
湘南の一人暮らしの家で思う。

きっと湘南天狼院の屋上にも良い光が当たって、見える海もキラキラと見えるんだろうなと。

根拠のない、間違いない自信が、今日も私を動かしていく。

❏プロフィール

山中菜摘(Natsumi Yamanaka)

神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」準備室室長。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。
メディア露出
雑誌『週刊文春』/雑誌『Hanako』/雑誌『月刊京都』など
WEB:ダイヤモンドオンライン/サントリーWEB/マガジンハウス『&premium web』など

山中写真館・撮影サービス概要

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