チーム天狼院

「みんな」ができることが「わたし」にはできない〜峰不二子を目指す書店員vol.4〜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤千里(チーム天狼院)

みんながやっている「普通のこと」ができないと、「こんなことができないなんて、わたしってダメだ」と思ってしまうことはないだろうか?

 

 

わたしが瞑想をはじめたのは、2年ほど前のことだった。

 

当時、わたしは、航空管制官という、巷では「世界でもっともストレスフルな仕事」と呼ばれる仕事をしていたのであるが、その巷で言われている俗称のとおり、航空管制はかなり緊張感を必要とする仕事だった。

 

なぜなら航空管制という仕事は、何百人という人命を運んでいる航空機のパイロットと無線機で交信し、航空機を声で誘導するのだ。それも一日に何百機も。たった一日で、お医者さんが一生に預かる人命の数を軽く超えるくらい人の命を預かっている。それも24時間、365日。

 

あってはならないことだが、誘導にミスがあり航空機同士がぶつかるようなことやニアミスなんて事故を発生させてしまったら……と考えると、その責任が重大で、ものすごく緊張感が必要で、それゆえに「航空管制官は、世界でもっともストレスフルな仕事」であることに同意していただけるのではないだろうか。

たしかに、緊張感が必要な仕事ではあるのだが、その分やりがいもあり、わたしは航空管制が大好きだった。だが、勤務中は四六時中、強い緊張感やストレスを感じている。仕事が終わり、帰宅して一息ついてみると、「精神がまいっているな……」と感じることが何度もあった。

 

「あの場面はこうやって誘導すればよかったな」

「あのときは、◯◯航空を先に着陸させれば、うまくいったのに」

「今日は天気が悪かったから、航空機がなかなか着陸できないし、どんどん誘導する機体が増えていって……疲れた」

 

こんなことが、帰宅してからも、家で料理をしているときも、読書しているときも、布団に入ったときも、ふと頭に浮かんでくる。そして、タチの悪いことに一旦浮かんでくると、頭の中でぐるぐるぐるぐる……とその考えが無限ループしてしまうのだ。

 

勤務中にただでさえ精神を使っているのに、家に帰ってもまた仕事のことを考えてしまう……心が一瞬も休まらない。

「仕事をしていないときは、いつも落ち着いた気持ちでいたい。ゆっくりした気分を味わいたい。そして、気持ちを鎮めたい」

 

そう思ってはじめたのが「瞑想」だった。

 

瞑想やマインドフルネスについては、何年か前から関連する書籍がたくさん発行されているし、、マインドフルネス専用のアプリなんていうのもあるので、知っている方も多いと思う。

たくさんの選択肢があるなかで、何冊かの書籍を読み、何種類かのアプリで瞑想を試してきたが、もっともポピュラーな「瞑想のやり方」としては、「呼吸に集中する→呼吸から注意がそれてしまったら、注意がそれているということを客観的に見つめる→また、呼吸に注意を戻す」というものだろう。

瞑想を続けていくとすばらしい効果が得られる。マルチタスクで散漫になりがちな集中力が向上し、メンタルが鍛えられる。

そして、「呼吸に集中→呼吸から注意がそれたらまた戻す」という繰り返しにより、注意力のコントロール能力も磨かれるのだ。

「呼吸に集中する」「呼吸から注意がそれたら、意識がそれたことを受けいれ、またそっと呼吸に意識をもどす」……こんな簡単な方法で、すばらしい効果が得られる瞑想……

 

しかし、実際はじめてみたものの、わたしには呼吸に集中することすらできなかった……

 

 

瞑想アプリでは、音声ガイダンスで誘導をしてくれるものがある。

 

わたしが使っていたアプリのガイダンスの声は女性で、優しくゆっくりした声で、

「それでは呼吸を意識しましょう」

「床と脚の裏の接地面を感じましょう」

「意識がそれても大丈夫です、またゆっくり呼吸に意識を戻しましょう」

と瞑想初心者でもわかりやすく、丁寧に誘導してくれる。

 

でも!! こんなに優しく、丁寧に教えてくれているのに!!

わたしはその音声ガイダンスの間、ずーーーーーっと、違うことを考えてしまうのだ。

(ガイダンスのお姉さん! ごめんなさい)

 

それは、仕事のことだったり、うまくいかなかったことだったり、同僚に言われたことだったり……今日何を食べるか、人間関係のこと、ダイエットのこと、プロテインまずい……もやもやもや……ぐるぐる……そして、気づいたら音声ガイダンスは終了している。

 

「呼吸から意識がそれたのに気づく」どころか、ガイダンスが終了して「一秒たりとも呼吸に意識を向けられなかった」ということだけには気づくなんて残念なことを何度も繰り返した。

 

瞑想して、精神を落ち着けたいのに、その瞑想中もずっと落ち着かないなんて!!

でも、わたしは、自宅に「最もストレスフルな仕事」の緊張感を持って帰りたくない!!

そして、とにかく、とにかく……気持ちを落ち着けて、ゆっくりしたい!!!

 

「もしかして、わたしには、じっと動かないでいる瞑想は合わないかもしれない」

 

 

そんなときに、出会ったのが「歩行瞑想」である。

 

 

これは、メンタリストDaigoさんもおすすめしていた方法で、簡単に言うと「歩くことに全力で集中する」という瞑想である。わたしのようにじっとしている瞑想が苦手な人にもとっかかりとしてやりやすい瞑想で、歩行の動作のどの部分に集中するかによって、難易度も自在に調整できるとのことであった。

 

瞑想というと、座禅を組む、椅子に座るなど、「座る」ことをイメージされるかもしれないが、わたしは座禅が苦手であるし、しかも、ずっと同じ姿勢でいるのが嫌いなのだ。さらに、「座っている時間が長いと寿命が縮む」なんていう恐ろしい研究結果も読んだことがあるので、「じっとしなくていい」「座らなくていい」というこの「歩行瞑想」はぴったりでないかと思った。

 

歩行瞑想は、「歩くことに全力で集中する」瞑想である。

そこで集中するポイントは、「足の裏の感覚」である。

つまり、歩行の動作をしている最中に、「右足が地面から離れた、ついた。左足が地面から離れた、ついた。離れた、ついた、離れた、ついた……」という足の裏の感覚に全力で神経を集中させるのである。

イメージとしては、お寺でお坊さんがゆっくり鈴をならしながらお堂の中を歩いている……あの感じ。

 

足の裏が地面から離れた、ついた、離れた、ついた……これだけに集中する。

じっと座っている瞑想はわたしには合わなかったが、歩行瞑想のように、動きながらある一つの感覚に集中する瞑想は性に合っているのかすぐできるようになった。

 

歩行瞑想は一番ポピュラーな方法ではないけれど、試行錯誤の結果、自分にあったものを見つけられ、さらに瞑想をすることによって、一番手に入れたかった「心の平穏」も手に入れることができてよかったなと思っている。

 

みんながやっている「普通のこと」ができないと、「こんなことができないなんて、わたしってダメだ」と思ってしまうことはないだろうか。

たとえば「試した人の90%がヤセた〇〇ダイエット」なんていうのがあって、さっそく試してみたけれど、自分には効かなかったというか、そもそも続かなかった……なんて経験、誰でもあると思う。成功しているひとはみんな早起きしているから、自分も早起きしてみようとして3日も続かなかったとか、そんなこといっぱいある。

 

「みんながやっていること」の「みんな」って誰だろう?

その「みんな」に、「わたし」は入る必要はあるだろうか?

「みんな」がやっていることができない「わたし」はだめだろうか?

そんな「わたし」がだめだって、それは「みんな」に言われただろうか?

自分で自分を否定しているだけではないだろうか?

 

大事なことは、たとえ「みんな」がやっていることが合わなかったとしても、自分を否定するのではなく、「これからどうするか」を考え、行動し、自分の答えをみつけていくことではないだろうか。

 

……と、座っている瞑想すらできない「わたし」は偉そうに思うのであった。

 

 

では、いつものとおり、私の大好きな一節を

「ニーバーの祈り」

神よ、

変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、
変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ。



■ 伊藤千里(福岡天狼院スタッフ)

日本で唯一「峰不二子になる」と決めている書店員。
1987年生まれ。同志社大学法学部卒。
大学卒業後は警察庁に入庁。警視庁での交番勤務、刑事課勤務の後、霞が関の本庁にて警部補として交通局に勤務。28歳の時「世界で最もストレスフルな仕事」と呼ばれる航空管制官に転職し、滑走路一本あたりの離着陸回数が日本一という福岡空港で3年間働いた。
2019年8月から天狼院のライティング・ゼミを受講したことがきっかけで、天狼院書店店主三浦からスカウト(?)を受け、2020年3月より福岡天狼院スタッフとして勤務。
趣味は、筋トレ、ストレッチ。健康、美容、栄養オタク。好きな言葉は、スティーブ・ジョブズの”Connecting Dots”


http://tenro-in.com/zemi/132033

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2020-06-10 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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