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チーム天狼院

読み終わったあと、「今日、何もしたくない」と本気で思った。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:斉藤萌里(チーム天狼院)
 
 
何これ。
なにこれ。
 
最初の数ページを開いただけで、私の感受性の一部が、けたたましい音を上げた。
その本は、表紙とタイトルに惹かれて手にとったものだった。
 
桃色の花の影に隠れる、姫様の絵。
裏表紙には、お殿様の後ろ姿。
ぱっと見て、「平安時代の貴族の話かな」と感じたが、帯を見れば、鎌倉時代、三代将軍源実朝と、その正室であった信子の話だという。
 
その写真のように美しい書影を見ただけで、恋をしてしまった。
本が呼んでいるかのように本棚に吸い寄せられて、そのまま買ってしまった。
 
「言の葉は、残りて」
 
なんて甘美な響き。
表紙とタイトルだけで、「ああ、好きだ」と直感で分かった。
 
本は、人によって好き・嫌いがはっきり分かれるものだ。
特に小説となれば、ジャンルやストーリー展開で読み手を選ぶ。
 
そんな中私がこの「言の葉は、残りて」に惹かれたのには理由がある。
一つには、私は「言葉」が大好きだということ。
普段口数が少ない分、心の中でめちゃくちゃ喋っている。誰も知らないと思うけれど、私は自分ではずっとおしゃべりだと思っている。
もう一つは、ジャンル。
表紙を見ただけで「恋愛ものだ」ということが分かるのだが、さらにそそられたのは、「歴史もの」だということ。
歴史もの、が好きなわけじゃない。
けれど、「歴史ものの恋愛小説」は大好物だった。
何がいいかって。
歴史もの恋愛小説には、無駄がないから。
昔の恋愛は現代と違って、自由恋愛なんかじゃなく、多くは政略結婚だった。
そこには身分上の柵があり、本心とは裏腹の結婚があり、そんな中で愛した人を戦で失い、愛する人と一緒に自害せんとする決死の覚悟がある。
 
もちろん、現代の恋愛や結婚が軽いものだというわけではないけれど、歴史小説を読んでいると、女性側から見た、戦に出てゆく夫を見送るときの切なさや、失ったとたん、泣くことも喚くこともできず、凛とした立ち振る舞いをしなければならない強さが垣間見えて、本当に切なくなる。
 
この切なさ。
 
私が物語を読むときに、一番求めているものだ。
 
ミステリーの謎めきも、アクションのはらはらも、どんでん返しの驚きも、現代のちょっとどろどろした恋愛小説ももちろん好きだし面白い。
 
けれど、歴史ものの恋愛小説は、現実では味わうことのできない、登場人物たちの深い愛情と切ない気持ちを一心に浴びることができる。
 
そういうわけで、この本を読み始めてから、いや、読む前から、私は恋をしてしまったのだ。
 
「きぃんとする」
 
主人公の信子が嫁いだ源実朝は、超有名な将軍だけど、武力ではなく「言の葉」で世を治めたいと願っていた。
源実朝は将軍でありながら、家集『金槐和歌集』を残した人物として知られている。
そんな彼が信子に言ったこの台詞を見て、一瞬で悟ってしまった。
ああ、これだ。
この感じだ。
この小説が、これから「言葉一つ一つをつかまえながら展開していく」んだ。
あんまりじゃないか。
あんまり素敵すぎて、もうどうしたらいいか分からない。
まだ数ページしか読んでいないにもかかわらず、信子が序盤から実朝を好いていく姿、実朝が信子を想う描写が、和歌を介して丁寧に描かれてゆく。
和歌。
これが本当に、いい。
 
私も、自分の中で、いくつか「これはずっと覚えている」という和歌がある。
いくつか紹介すると、
 
ながらへば またこの頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき/藤原清輔朝臣
(この先長く生きていれば、辛いと思っている今この時もまた、懐しく思い出させてくれるのだろうか。辛いと思っていた昔の日々も今は恋しく思い出されるのだから)
 
五月待つ 花橘の香をかげば 昔の人の袖の香ぞする/よみ人しらず
(五月を待って咲く橘の花の香をかぐと、昔親しくしていた人の袖の香りがすることだ)
 
白鳥や かなしからずや 空のあを 海のあをにも 染まずただよふ/若山牧水
(白鳥は悲しくないのだろうか。空の青にも海の青にも染まらずに漂っている)
 
これらの和歌を、いつも心にひっそり留めて日々仕事をして、辛いことがあれば思い出すようにしている。
 
「仕事きついなあ。けど、歳をとったら、どうってことないって思えるんだろうな」
 
「ああ、なんか懐かしい匂い。人間の五感の中で一番鮮明なのは嗅覚。だから、時々ふと実家のにおい、祖父母の家の匂いを思い出して切なくなるのも仕方ないな」
 
「今の考え、納得できない! どうしてもできない! よーし、自分は何にも染まらずに自分を貫いてやる!」
 
こんな具合に、自分自身を励ます道具になる。
 
「言の葉は、残りて」の中ででも、将軍実朝が、言葉を愛し、言葉によって世を治めたいと願う様が物語の端々に感じられる。
 
武功を修める者よりも、言葉で人を傷つけない人をよしとするところ。
信子と和歌でやりとりをするところ。
 
全てが私の琴線に触れていた。
物語の展開はさることながら、こんなふうに、言葉を愛した人が誰かを愛する物語を電車の中で読み終えたとき、「ああ、今日はもう何もしたくない」と放心した。
この感動の上に、仕事なんかできない。
もちろん、仕事はせざるを得なかったのだけれど、本音をいうと、そのまま家に帰って一日中、物語の余韻に浸っていたかった。
 
「言の葉は、残りて」
 
人の命が消えてしまっても残り続ける言葉。
 
私も誰かの心に残り続ける言葉を、たくさん紡いでいきたいと思った。
 
 
 
 

■著者プロフィール
斉藤萌里

天狼院書店スタッフ。
1996年生まれ24歳。福岡県出身。

京都大学文学部卒業後、一般企業に入社。2020年4月より、アルバイト時代にお世話になった天狼院書店に合流。

天狼院書店では「ライティング・ゼミ」受講後、WEB LEADING LIFEにて『京都天狼院物語〜あなたの心に効く一冊〜』を連載。

『高学歴コンプレックス』でメディアグランプリ1位を獲得。

現在は小説家を目指して活動、『罪なき私』販売中。

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