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チーム天狼院

後輩よ、未来は見えないくらいがちょうど良い ~ワセプロ’15激励~《海鈴のアイデアクリップ》


今年もまた、この季節がやってきた。

拭いても拭いてもしたたる汗が止まらない、あの暑すぎる日々はどこへやら。
襟元を、少し冷たい風が吹き抜けるようになるころ。
妙に気持ちが引き締まる。朝、玄関のドアを開けて吸い込むちょっとひんやりとした空気に、背筋をしゃんとせずにはいられない。
あの大会を経験するものは、そういう「性」になってしまうのだと思う。
とっくに引退しているはずなのに、あの赤いパーカーがどうしても頭にちらついてしまう。

いよいよだな。

そう思っていた、2年前のわたし。

目指していたのは、ただひとつ。
『四大学英語劇大会』での優勝だった。

だけど。
ぶっちゃけ、未来なんて、ひとつも見えていなかった。

『四大学英語劇大会』は、我が校からは俳優・内野聖陽さんを輩出した、伝統あるアジア最大の英語劇大会である。
3年生の私は「イングリッシュトレーナー」という、役者に英語を指導する役職をやっていた。
私はその大会で役者を経験したわけではなかった。どちらかというと元々は、舞台をつくる裏方志望だった。1年生の時は照明のセクションで舞台の天井に上がり、役者をスポットで照らしていた。
2年の時に留学し、その年の大会は離れることになった。空白の期間があったにも関わらず、私は日本に戻ったら必ず3年会に残ろうと心に決めていた。もしかしたら、なんだかんだ留学に行く前にその心は決まっていたのかもしれない。

私が1年生のころ、ドラマをつくる3年会に感じた憧れは、それくらい強かった。聞けば、3年会は発足する1月から本番の11月まで、ひたすら優勝のことだけを考えて活動するという。下級生が入ってくる8月から10月は、それこそ鬼のようなスケジュールだ。生活の中心が「四大(『四大学英語劇大会』の略だ)」になる。

朝早く学生会館へ行けば、深夜まで資料とにらめっこしていたであろう先輩が、ラウンジの長イスを占領して、死んだように眠っていた。
次の時間が授業なのにもかかわらず、ギリギリまでリハーサルの段取りを話し、「やばっ、遅刻する!」とダッシュでキャンパスに向かう姿もしばしば目撃した。

明らかに大変そうである。
大変そうなのに、めちゃくちゃかっこよかった。
どの3年会が発する言葉からも、最高の作品ができると1ミリも信じて疑わっていないのが分かった。信念のようなものがあふれていた。私が感じた感動は計り知れないものだった。
「ここまで一生懸命に没頭して何か一つのものをつくりあげたことが、今までの私にあっただろうか」と。

そうして自分がいざ3年会になったとき、“あろうことか”役者に英語を教えることになった。
役者を指導するのは、1・2年の時に役者を経験した人がなるのがふつうだった。だが、私の代はメンバーの関係で、留学していた私がいちばん英語を教えられるのではないか、という意見が出た。

未経験、しかも「英語」劇だ。役者の英語が聞き取れなければ、お話にならない。その最重要責任者が、イングリッシュトレーナーなのだ。
いま考えれば、よくもまあそんな重要な役職を引き受けたものだと思う。11月の本番の日に、自分がどんな姿でいるのかまったくイメージなんてできないまま、ただ1年生のときに見た先輩のような熱量さえそのままあれば、あんなふうになれると妄信して、イングリッシュトレーナーを引き受けた1月。よく覚えている。

私が教えた役者のうち、1年生は5人だった。これがもう、粒ぞろいの破天荒なメンツだった。
生意気なんだよ、お前らー! と、何回思ったことだろう!
円陣が終わった瞬間ダッシュで帰るやつもいれば、急に踊りだすやつもいたし、「イングリッシュのこと言われるのはもううんざり!」と駄々をこねだすやつもいた。指導陣にいろいろ思っていたこともあるだろう。

けれど、役をつくるということは、いやでも自分の嫌いなところを見つめることになる。早朝から日が暮れるまで毎日まいにち練習し、自分と向き合いながら、サークル250人の「優勝」への想いを背負うキャストという道を選んだ役者たちを、後輩ながらに私は尊敬していた。
こいつらが最後にいい思いさえしてくれれば、私はどう思われようがいいや、と思った。生意気だけど、それ以上に素直で、感情をそのままぶつけてくる後輩たちは、愛おしい存在だった。なんだかんだ付いてきてくれる後輩たちを、ぜったいに勝たせてやりたいと思った。

それでも、ときどき不安になった。
こんなことやってて、何になるのだろう?
こんなに必死にやって、意味があるのだろうか。
本当に報われるのか。
本当に本番までに理想のレベルに到達できるのだろうか?
最後に賞が取れなければ、この1年が無駄になるんじゃないのか?

押しつぶされそうになる不安を、できるだけ考えないように、口からはとにかく前向きな言葉を発しつづけた。
マイナスなことなんて、考えても意味のないことなんて分かっていた。
そんな暇があるのなら1回でも多く練習をして、苦手をつぶすことに徹するべきなんてことは腐るほど自分に言い聞かせた。

それでも、突然降るスコールのように、不安は予想もしない瞬間にやってきた。

今苦しいことも、あの舞台に立つ日にすべて報われると分かっていても。
すべては四冠を手に入れる布石なのだとしても。

四大の当日、さらにはその先に、自分が本当に手に入れたい瞬間はやってくるのか。
未来は見えなかった。

今なら分かる。
2年が経った今なら、はっきりと。

未来は、いま自然とやっているそのことが生きるような選択に必ずなるんだと。

教え子の当時1年だった後輩たちも、もう3年会だ。いつのまにか、あのときの私と同じ、すっかりサークルを率いるリーダーの顔になっていた。

彼らは強いから、私が感じたような不安はもしかしたら思わないかもしれない。

けれど、辛いこととは分かっていても、2年前から今までサークルに残っているってことは、やっぱり皆は特性があるんだと思う。本当にやりたくなかったら、絶対に残らない。

就活どうしよう、とかあるかもしれない。
自分の時間なんて無いに等しいかもしれない。
本番がくるその日まで、心のしこりは取れないと思うかもしれない。

でも、やっぱり、いま何だかんだでやっちゃっていることって、なんらかの延長線上で将来の自分もやっちゃってたりするんだろうな、と思う。
後になって、「あ、同じようなこと、あの時の自分もやってたわ」って思うようなことが、2年前から今までたくさんあった。この短期間でそうなのだから、これからもそうなのだと思うし、今やっていることが次の仕事や自分の未来を引き寄せたりするように世の中はできているんだろうと思った。
いま四大に打ち込んでいる時点で、四大のその先の未来も切り拓いてるんだ、きっと見えないだけで。

何だかんだ人生の節目で思い出すのは、やっぱり四大で打ち込んだ日々のことだった。
あの経験がなければいつまでも乗り超えられない自分自身がいただろうし、これから高い壁があっても「なーんだ、これくらいのことか」とひょひょいと越えていけると思う。
それに、あれほど演出から舞台セットから意図から、何から何まで1から自分たちの考えを反映できるものって、この先ないかもしれない。たぶん、これから「上司はどう」だの「社会の波はどう」だの、考えなければならないものがたくさん出てくるかもしれないのだ。「ぜんぶ自分たちで作る」って、当たり前かもしれないけど、めちゃくちゃすごくて、幸せなことだなあと思う。ぜんぶ自分の思った通りにできるとなれば、思ったものはぜんぶやってみるしかないじゃないか。

辛くても、どれだけ状況が逆風でも、時間がなくても、それすら楽しんでほしい。自分が楽しんでいない状態で生み出したものを、他の人に楽しんでもらえるはずがないから。
そして、そのためには、仲間の感じていることを知ること。もし楽しめてないなら、ここが足りてないのかもしれない。
同じ作品をつくっている以上、そこに立場が上だとか下だとかもあんまり考えすぎちゃいけない。経験がないとか、どうとか。いるだけでその人は、役に立ってるのだ。

もし、私が3年会をやり直せるとしたら、こういう言葉をかけてやりたいなと、今の自分は思う。

いまのみんながどうかは、自分がいちばん分かっていると思うけど。

とにかく、だ。
かわいいかわいい後輩たちよ、しがない先輩が思うことは、辛いことも多いけど、どうか楽しんで四大を駆け抜けてほしいということ。心が死んでいるのがいちばんよくない。
「後悔がないように」とはよく言われると思うけど、後悔するかしないかなんて、後になってみないと分からない。けど、大丈夫。たぶん、いやぜったい、四大をここまで真剣にやっている人なら、後悔なんてしないのだ。

ワセプロ’15に、栄光あれ!

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四大学英語劇大会2015(ホームページはこちら
11/22(日)初日 場所:志木市民会館パルシティ
11/23(祝月)ファイナル 場所:志木市民会館パルシティ

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