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チーム天狼院

【何か違和感を抱く所以は】みはるの古筆部屋


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月曜午後8時。私たちの連絡媒体にはキャプテンから必ず連絡がはいる。

『いいか、お前ら。明日は朝9時に街の外れの丘の上に集合だ。準備はいいだろうな。』

そんな彼のかけ声に他のメンバーはすぐに返事をする。

『了解です!』
『頑張りましょう!!』
『自分が役に立てるかわかりませんが』
『俺が倒してみせますよ!』

そんな中、

『私は何を持って行けばいいのでしょうか?』

こんな返事をする。

『みはるは相手の攻撃に合うような盾を持ってきて。』

『あっちは槍でくるでしょうか?それとも矛、刀でしょうか?』

『それを考えるのがみはるの仕事でしょ??』

(そんなこと言われても。私のせいで負けたらどうすんのさ。)

一晩考えても自分が何を持って行けばいいのか答えが出ず、

考えられる攻撃に対するすべての盾を持って行くことにした。

私が丘のふもとに着いたころには、みんなはすでに戦闘態勢だった。

『早く!みはるが俺らを守ってくれないと戦えないよ!』

たくさんの盾を背負っている私は必死に丘の上を目指す。

私の仲間は全員で6人だ。

戦いの手段を示す司令塔
相手の意表を付き攻め込む切り込み隊長が2人
相手の本拠地で戦うキャプテン
戦いの終止符を打つまとめ役

そして、
そんな強いみんなを守る、、、はずの私。

相手も同じ布陣で来るから、問題ない。大丈夫。
違うのは戦い方だけ。大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせている間に丘の上に着いた。

『今、着きました!』

その瞬間、相手の切り込み隊長がキャプテンに切りかかろうとした。
まって!!!

刀用の盾をすぐさま出してキャプテンの前に立つ。
よかった。守れた。

次は相手陣地に一番に攻め込んで行った切り込み隊長の2人に向かって槍が飛んできている。私は槍用の盾を彼らに渡して一段落。
かと思いきや、最後は

戦いの終わりの合図を出そうとしていたまとめ役に矛を持った相手のまとめ役が襲いかかろうとしている。矛用の盾でなんとかしのいで戦いは終了を迎えた。

結果は、私たちの勝利。

ピコン
パソコンの画面左上にキャプテンから賞賛のメッセージが届く。

『みんな、よくやった。』
私は一安心して、ふぅと息を吐いた。

ピコン
キャプテンに続き他のメンバーからのメッセージが届く。

『今日はみはるの盾に助けられたな。』
『なんで、槍でくるってわかったの?すごい!』
『矛から守ってくれなかったら負けてたよ。』

『みはる、ありがとう!!!』

みんなの役に立てたことが嬉しくて、すぐにメッセージを返す。

『嬉しいです!!来週も頑張ります!!』

送信っと。

そう、これはネット上のRPGゲームに似た私の所属するゼミの活動。
今週末に行われるディベート大会に向けてのいわば練習試合。

広辞苑によれば、
ディベート。
あるテーマについて肯定側と否定側とに分かれて行う討論。
討論。
互いに議論をたたかわすこと。
こう書いてあるが、私の辞書によれば

刀や盾の代わりに論を武器にして、チームで戦うRPGゲーム。
こんなことが書いてある。

後期から始まったこのディベートという名のRPGゲーム。
私がこのチームにはいったときは右も左もわからなかった。
前期から見てきた先輩の背中をひたすら追って、指示されたことをやって、毎回彼らのレベルの高さに自信を失う。

練習試合ではディベートでの役割りをたくさんやった。
自分たちの論を述べる立論。
相手の立論に攻めるためにする質疑。
質疑を受けて立論に攻め込む第一反駁。
いままでの討論をまとめる第二反駁。

そして、相手の質疑から自分たちの立論を守る応答。

いろいろやってきたけれど、私は強くはなかった。
だから、立論、質疑、第一反駁、第二反駁ではなく、
強いみんなを守れる応答になりたかった。

相手がどんな質疑をしてくるかわからなくて、くると予想される質疑を全部書き出して、それに対する応答を考えた。

自分の武器を全部持って挑んだ試合は、その武器を全部使い切って勝つことができ、みんなに褒められた上に私は本番の試合で応答を任せられた。

すごく嬉しかったし、やる気と責任感が生まれた。
でも、私は何かわからない違和感をずっと抱いていた。
その違和感の理由に気づいたのは、本番の試合が一週間後に迫るのと同時に、私たちの次の代のゼミ生が決まったときだった。

私がずっと甘えて、頼ってきた強くて優しい先輩たちとのチームはあと一週間で終わってしまう。ふいにそんなことを思った。

彼らの後ろを歩いて、彼らから教わったたくさんの武器を持った私は、
もう自分で自分の武器を選び、自分の後ろにすぐ見えている後輩に教えなくてはならない立場になっていた。

前方を歩く先輩の足取りはだんだん速くなり、姿はだんだん見えなくなってしまう。なのに、後ろを振り返ると武器を何も持っていない後輩が、
『先輩の武器どこで手に入れたんですか?かっこいい!』
『俺たちも強くなりたいです!』
『私たち頑張ってチームに貢献します!!』
こんなことを、目を輝かせながら言ってきてくれる。

私は自分の持っている武器が強いと思ったことも、他と比べて優れているとも思ったことはない。ただ、自分ができることを、とりあえず全部やってここまできただけなのだ。そんな私が後輩に何か教えることはできるのだろうか。不安で眉が下がっている私の隣から、

『みはる!不安なのは私たちも同じだよ。』
『俺らがいるから大丈夫、心配すんなって!』
『できないことはみんなで補え合えばいいじゃん!』

『みんなでいいチームにしようね!!』

同期がこんな言葉をかけてくれた。

なんだか泣きそうになる私に、
もっと強くならなきゃダメだぞと叱咤する大好きな先輩。
涙を拭いてくれる頼もしい同期。

ああ、私このゼミにはいってよかった。
初めは何だかわからなくて不思議だったゼミという存在が
今、私は大好きだ。

1年間という短い間だったけれど、私に武器を与え使い方を教えてくれた先輩。初めて見た武器の使い方を一緒に練習した同期。
このチームでちゃんと活動するのは、本当にあと一週間しかない。

だから、
いつもは絶対に言えない先輩へのありがとうを、
同期には恥ずかしくて言っていない大好きを、

ディベート本番の試合、応答としてみんなを守り切って、みんなで勝つことで伝えたい。

今週の月曜午後8時にはまた、
『いいか、お前ら。明日は朝9時に図書館の学習室7に集合だ。準備はいいだろうな。』と連絡がはいるのだろう。

そしたら、私は1番に
『もちろんです!絶対勝ちましょうね!』と返事をしよう。

11月28日のディベート本番まで、
あと1週間。


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