チーム天狼院

天使と悪魔とインターネット《えむの本棚ツムツム》


えむさん

 

たまにIT系の勉強会で先生役を務めることがある。
勉強会といっても、これからWEB業界に片足突っ込もうかという初心者向けなので、話の内容は基礎中の基礎。それこそ「インターネットとはなんぞや」というような話題から始まる勉強会だ。

WEB業界というのは、ひと昔前ほどではないものの、今もそれなりに華やかなイメージを持たれている。
私自身、「ご職業は?」と聞かれてWEBディレクターだと答えると、「おお!」と言われることが未だにある。WEBディレクターなんて横文字だということ以外、やっていることには華やかさのかけらもないのだが。
初心者向けの勉強会なので、内容が基礎的になるのは仕方がない。しかし、これからIT業界で活躍しようと勇んでいる若者たちには、退屈なんだろう。華やかなイメージや先進的な内容はおろか、専門用語のひとつも出てこなければ、「そもそもインターネットというものはですね……」なんて面白くもなんともない。私だって眠たくなる。

だから、話の掴みは大事だ。最初に面白い話のひとつもして興味を引いておかないと、この後の話が頭に入らない。
私もそれなりに忙しい時間を割いて勉強会をするわけだし、何より後輩を育てるのは自分にとっても職場にとっても大事なことだ。退屈だとしても、基礎からしっかり学んでほしい。

ただ、悲しいかな。自分でも嫌になるほど話し下手な私には、漫才師のような話芸もなければ、そもそも掴めるほどの持ちネタがない。面白いネタがないならと、いわゆる“あるある”でも披露したいのだが、これまた悲しいかな。思いついた“あるある”が、「グーグルで検索したら1位になるようにしておいて、と言われた」とか「WEB制作やってると言ったら、パソコンの修理を頼まれた」とか「ひらがなが半角にならないよ! と言われた」とかとか……あ、思い出したら胃が痛い。とにかく、こんなことを話そうものなら、掴みはオッケーどころか、せっかくの人材候補が逃げていく。

話芸は下手、ネタもない、なけなしの“あるある”もブラック風味ときて八方塞がった私だったが、ある日、意外なところから神(ネタ)が舞い降りた。
それは、勉強会の資料をつくっているときのことだった。ちょうど“www”(※注:草生えるではない)の説明をするくだりのページでふいに『天使と悪魔』のことを思い出したのだ。

 

『天使と悪魔』はダン・ブラウンのベストセラー小説で、トム・ハンクス主演で映画化もされたから知っている人も多いと思う。

簡単に紹介すると、宗教象徴学の権威である主人公、ロバート・ラングドン教授が、秘密結社イルミナティを名乗る何者かに拉致された次期ローマ法王候補者たちの殺害と、核をも凌駕するエネルギーをもつ“反物質”の爆発の両方を阻止するために、ローマとバチカン市国を奔走する物語だ。
その『天使と悪魔』の中で、ある実在の研究施設が登場する。CERN(セルン)だ。正式には欧州原子核研究機構といって、スイスとフランスにまたがる広大な敷地内で世界各国から集まった研究者たちが、主に素粒子物理学などの大規模研究を行っている。物語の冒頭、ラングドン教授はCERNの所長の招きでこの施設を訪れ、“反物質”の説明を受けるのだが、その中でCERNの功績として紹介されているのが“World Wide Web(www)”、そう! ウェブなのだ。

アメリカが発祥と思われがちなウェブだが、インターネットの通信プロトコルであるHTTPやマークアップ言語であるHTMLとともに、このCERN(つまりヨーロッパ)で誕生している。アメリカ人のラングドン教授はこの事実に「えー!? そうなん!?」と驚き、CERN所長から「何でもアメリカ生まれや思たらアカーン!」とお叱りを受けている。

これだ! これこそ掴みのネタじゃないか!

私の頭の上にバチカン市国から、それこそ天使(ネタ)が舞い降りた。『天使と悪魔』は世界中で大ヒットしたベストセラー小説だし、映画化もされた。何よりあの『ダ・ヴィンチコード』のシリーズだ。ネームバリューに申し分はない。読んだこと、映画を観たことはなくても名前やざっくりとしたあらすじくらいは知っている人も多いはず。これは使える!資料をつくる頭が急激に冴えた。
さっそく勉強会で『天使と悪魔』の話をしたところ、反応は上々だった。話芸の至らなさはどうにもならないが、それを補うだけのネタのインパクトはあったと見えて、「へぇ~!」とたくさんいただけた。それから少なくとも3回は勉強会で『天使と悪魔』のネタを使い、最近ではこのくだりだけは流暢に話せるようになってきた。本は読んでおくものだなぁ、と心底思ったものだ。

さて、IT勉強会で小説の小ネタを繰り出す私に向けられる「先輩なんでも知ってるんですね」的視線にまんざらでもなくなってくると人間、欲が出てくるもので、逆にこれまで培ってきたウェブの知識と技術を小説にできないか? という考え(野望)がむくむくと湧いてきた。

池井戸潤だって銀行員の経験を活かして半沢シリーズを書いて大ヒットしたじゃないか!
東野圭吾だって工学部出身の知識を活かしてガリレオシリーズを書いて大ヒットしたじゃないか!
手塚治虫だって医学部出身の知識を活かしてブラックジャックを以下同文!

いいねいいね、ガリレオみたいなミステリーとかいいんじゃないか? なんて浮かれた脳みそが活性化する。今だからわかるが、その構想(妄想)を練っているときの私は、二次小説を考える中学2年生と大差ない。だから思いついた内容も振り返るとすごください。

たとえば、
「夜間作業中のプログラマーが殺された!」
「現場のパソコンに残された謎のプラグイン!」
「新米刑事は、IQ180の天才WEBディレクターに助けを求める!」

お、おもしろくなさそうだ……。そもそもIQ180もある天才はWEBディレクターにはならんだろう。そして言わなくてもわかるだろうけれども、ガリレオをパクっている。

「連日の深夜作業で一緒にいるうちに芽生えた恋心」
「でもパソコンオタクな私には、告白する勇気なんてない」
「伝えたいこの想い。“好き”のメッセージをHTMLの中にコメントアウトで残して……」

ふ、振られるだろうな……。そもそも連日の深夜作業なんてしていたら恋どころではない。1秒でも早く帰って風呂入って寝ることしか考えていない。

本職の小説家の手にかかれば、ウェブもミステリーや恋愛小説に昇華するのだろうか。
いや、どうせならそれは自分が書きたい。誰かに書いてもらうなんてもったいない。

10年以上この業界でやってきた。池井戸潤や東野圭吾のように、専門知識も業界知識も(そこそこ)ある。
アイデアと文章力は少し怪しいが、幸いにも天狼院には文ラボがあるじゃないか(宣伝)。文芸部もあるじゃないか(宣伝)。
これからいくらだって、文章を学び、書くチャンスはある。
今は二次小説的で中2病的なアイデアや文章力でも、いつか私にしか書けないものを書こう。きっとできる。もう始まっている。

天狼院のドアを開け、私は最初の一歩を踏み出したのだから。

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