チーム天狼院

世のすべての女性は、吉田沙保里になるべきだと思う《海鈴のアイデア帳》


霊長類最強。

そう謳われるのが、女子レスリングの吉田沙保里選手である。

ごく最近、世界ランキング829週連続1位という記録を持っているのだと知った。
どういうことだ、と私は耳を疑った。

829週────

年に直すと、約17年。

 

17年前、私は何をしていただろう。
遠い記憶の出来事である。もはや、何も思い出せない。

それくらいの長い期間、頂点に立ち続けるとはどういう気持ちなのだろうか。
常に王者の席を狙われれている感覚というのは、どういうものなのだろうか。

まず、そんなの私には無理だ。
それだけの長い期間、「負けてはいけない」というプレッシャーに耐えることができないだろうし、
一度も衰えることなく、ピークのコンディションを保ちつづけられるほどの精神力を持ち合わせていない。

やっていた陸上競技や受験勉強だって、それなりのところまでは行くものの、決してナンバーワンにはなれなかった。
寝ているとき以外すべての時間を、運動や勉強に注ぐなんていう集中力も持っていなかった。

だから、吉田沙保里選手のような、圧倒的な王者を見てしまうと、怖気付いてしまう。
いや、そもそも怖気付くという選択肢すら浮かんでこないかもしれない。

「あ、この人にはどう頑張っても勝てやしない。そもそも生まれた時点で別格の人だから」

と瞬時に線引きしてしまう。

 

だって、世界で1番だ。
ということは、この地球上に存在している人の中で、17年間ずっと、ナンバーワンなのだ。
そんな人間離れしたことは、とうていできっこない。
彼女は「特別」で、私はただの「一般人」だから。
大してひとつのことに秀でているわけでもなければ、かと言ってこれから自分が圧倒的王者になれそうなものも持っていないだろうから。

けれど、そういう人を見ていると、フツフツと沸き立ってくる感情がある。
画面に映る彼女が、どうしても気になってしまう。

それは、何かの分野において1番というまだ味わったことのない蜜の味が知りたい、という気持ちがやっぱりどこかにあるからなのだ、きっと。

 

少しでもそういう人に近づこうと、素振りだけでも「できる人」になろうと、私は振る舞ってきた。
そのうち、たとえ特定の分野で1番になれなくても、総合で金メダルを目指すようになってきた。なんでもそつなくできるようになっていれば、全体で見れば、周りの人より頭一つ抜けられる可能性があると思ったのだ。

だから、少しでもできないことがあることが、嫌だった。
少しの隙間が、弱みになるかもしれない。そこに付け入れられるかもしれない。ちょっとでもヘマをすれば、そこまで必死で作り上げてきた「できる人」に見せることのできるキラキラの飾りまで、すべて崩れ去ってしまうかもしれないと思っていた。

いわゆる「完璧主義者」だった。

きっと、そこそこいろんなことができたり、勉強でもスポーツでも、そこそこできる感じに育った女性は、こういった傾向になりやすいような気がする。
しっかりしている風に見られ、たとえば周りからの推薦でしぶしぶ学級委員を引き受けてしまったり、何かしら副部長とかリーダーとかになってしまうような責任感の強いタイプ。

けど、決して”ナンバーワン”ではない、どう転んでも「そこそこ」なのだ、結局私は。

 

ずっとずっと頂点に立ちたいと思っていても、表彰台のいちばん高いところの前には、いつも絶対的強者がいた。
どう頑張っても勝つことができなくて、だったら総合でチャンピオンになってやろうと思った。一つひとつの競技である程度点数を取っていればいいのだ。

総合チャンピオンになるためには、たとえば仕事で辛いことがあっても、決してほかの人に、泣いたり、落ち込んでいる姿は見せちゃいけない。小さなことで気分の落差が態度に出てしまうような人なんて、めんどくさいに決まってる。そんなの、マイナス点に決まってる。

そうなると、どんどん自分の背中だけに、重荷が積まれていった。

ほかの人に頼んだらいいものを、自分でぜんぶできるからと、虚勢を張ってしまう。
結果、やることが山積みになる。
あっぷあっぷになる。
何があっても「平常な自分」でいなければならない。
そうじゃないときだってある。
でも、本音が出せない。
こんな人、可愛げないし、一人でやってろ、って思うだろう。
けれどやめられない。
だってずっとそうやってきたんだもん。
苦しい。
辛い。
ああ、しんどい。

 

そんな時だった。

驚いた。
テレビに映ったのは、あの絶対的王者が泣きじゃくる姿だった。

 

その姿を見て、私は、いてもたってもいられなくなった。今すぐリオの会場に飛んでいき、大声で、激励の言葉をかけに行きなくなった。
あれだけ別格の存在だと思っていた吉田沙保里選手という人物が、一気に近くまで来たような気がした。雲の向こうの存在ではなかったのだ。
いつも最強と言われている彼女を、私がぎゅっと抱きしめてあげたくなった。

吉田沙保里=絶対的王者、という一面しか今まで見てこなかった。
けれど、「絶対的王者」だって、悔しいと思ったりするんだ。葛藤したりするんだ。
彼女のことを勝手に決めつけ、一方的に別次元の人にしてしまっていたのは、ほかでもない私だった。

 

はっ、と私は思わず息を飲んだ。

気づいてしまった。
それは、自分にも言えることだったのだ。

私はもっと応援されたい、人に魅力的に見られるようになりたいと思っておきながら、完璧を目指すあまりに自分の中に人が入ってこないよう、一線を画すようになっているのではないかということだ。

隙を見せようとしないまま振る舞ってきたせいで、周りにとって私はロボットのように現実味のない存在になっていたのかもしれない。
その振る舞いだって、ボロボロで穴だらけの虚勢に過ぎないというのに。

けれど、目の前のことにできるせいいっぱいを尽くし、それで出てきた本音の姿を見ると、その人のことをもっと知りたいと思う。
虚勢を張らないストレートな気持ちの表現こそが、人をいちばん魅力的に見せる飾りだったのだ。

本音を言うのは、怖い。周りのプレッシャーがあればあるほど。
けれど、それを堂々を言えるのは、強く、そしてすごく魅力的な人だ。

涙声で、心からの言葉を絞り出す姿が、心に強く焼きついている。
私は彼女がこれまでどれだけの努力をしてきて、どんな思いをしてきたのか、もっともっと知りたくなってしまった。
ますます、吉田沙保里選手から目が離せなくなった。これからもずっと応援していきたいと思った。
私も、こんなふうになれたらいいな、と強く強く思った。

 

世の女性、その中でも特に「しっかりしたがり」系の女子よ。
魅力的な人になりたいと思ったのなら、今こそ立ち上がるべきだ。顔を上げるべきだ。
堂々と上げたその顔で、辛いときは泣けばいい。苦しいときはわめけばいい。
そうしたとき、たとえ完璧じゃなくったって、人はいちばん輝いて見えるのだ。

そう、自分に言い聞かす。

自分の中に起こる感情を、感じ切って、感じ切って、まっすぐに表現してやろうと思う。
まだまだ、なんでもない振りをしてしまう癖は、抜け切らなそうだけれど。
まやかしの強さに逃げそうになったとき、吉田沙保里選手のことを思い出そう。

弱さがあるから、私たちは強くなれる。

 

 

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