チーム天狼院

いきなり怒り出すワガママなあいつの言うことを、今日くらいはきいてあげようかしら《深夜3時の処方箋#4》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」で「読まれる文章のコツ」を学んだスタッフが書いたものです。

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コンコンと、彼は私の瞼をノックした。
季節は冬に近づき、一段と寒さを増していた。久しぶりの休日で、目が覚めてはいたものの、もう少し寝ていたいと毛布にくるまって微睡んでいた時だった。
はじめのうちは優しく、私の瞼を指先でつつく。少し煩わしい、程度の感覚だ。もう少し眠りたい私は、彼のことにはまるで気づかぬふりをしていた。

「さすがにそろそろ起きないと」
と毛布から這い出し、リビングへ向かう。水道の蛇口をひねり、勢いよく出る水をこぼしながら一気に飲み干す。すると彼はさっきよりも少し強く、私の瞼をノックした。
「はいはい、わかったわかった」
しつこくついてくる彼のことを、正直言うと鬱陶しく思っている。どうして一緒に暮らし始めたんだろう? 私は一度たりとも「一緒にいよう」なんて言ったことはないのに。いつのまにか、私のベッドの中にまで潜り込んできて、眠っている時でさえ、私の瞼をノックするのだ。

朝ごはん、いや、もう昼ごはんの時間だ。何か食べるものはないかと、冷蔵庫を開ける。扉の向こうからやってきた冷気が、一瞬だけ彼をたしなめた。しかし彼はノックをやめない。やめないどころか、その力は徐々に強くなってきた。初めは指先でコツコツと叩くだけだったのに、今では拳でドンドンと、まるで母親に叱られて押入れに閉じ込められた子供が「開けて、開けてよ!」と叫ぶほどに強くなってきた。もうここまできたら収まらない。仕方なく私は手を止め、彼の手を両手で包み、なだめることにした。

しかし本当に大変なのはここからである。一度怒り出したら、誰にも彼を止めることはできない。どんなに「わかったから! ごめんごめん」と謝っても、ドンッドンッと叩き続けるのだ。叩くのに飽きたら、今度は全身で体当たりだ。痛いからやめて! と叫んでも全く聞く耳を持たない。私は泣いて懇願する。
わかったから、私が悪かったからもうやめて! 
先ほど彼がノックしていた左目からは涙がドクドクと流れ、鼻水も止まらない。もはや抵抗する気も失せ、床に倒れ込んでクッションに顔を埋める。
なんで、なんでいつもこうなんだ。
今日だって、これから出かける予定があるのに。家のことだって最近はちゃんとできてないし、天気がいいうちにお洗濯もしたい。忙しい時期に限ってワガママになる彼に、私は幾度となく「やめて欲しい」と伝えているが、彼がワガママを直そうとする気配は全くない。むしろ悪びれることなく、それが自分の仕事であるかのように押し付けてくるのだ。

こんなことならもっと早起きしておくんだった。
彼がワガママを発動する前に、自分のことを済ませておくべきだった。家のことだって、余裕を持って毎日少しづつやればなんてことないのに、一度にやろうとするから滞るんだ。
わかってる、全部わかってる。
でも、今はもう少しだけ、頑張りたいんだよ。だからお願い、もうこんなことやめて!
祈りとも叫びともつかぬ声で私は言った。いや、言いたかった。声になっていたのかどうか、わからない。少なくとも、彼の耳に届いていないことだけは確かだった。

私は絶望した。
私は無力だった。

彼にされるがまま、痛みを受け入れるしかなかった。

「ああ、そういえば……」
涙でぼんやりと滲んだ視界の中、震える手で引き出しを開ける。中から真っ赤な包装の薬を取り出し、やっとのことで口へ運んだ。
「これで、20分もすれば……」
あとは、待つだけだ。ひたすら、彼の怒りが収まるのを待つのだ。目を閉じ、無抵抗のまま、私はその時を待った。少しづつだが、その波が穏やかになっていくのを感じる。
どれくらいの時間が経ったのだろう。いつのまにか私は眠っていた。目をさますと、隣で彼が眠っていた。
「ごめんね」
彼の寝顔を見ながら呟いた。思えばここ最近、忙しさを理由にして、彼の話を全く聞けていなかった。「少し休んだほうがいいよ」とか「栄養のあるものを食べなよ」とか、私のことを気遣ってくれる言葉をかけてくれていたのに、私はそれを疎ましくさえ思っていた。恋人とかそんな関係じゃないけど、いつも私の側にいて、私が無理をしないように見張ってくれている。決して、ワガママなだけではないのだ。

彼の正体、それは偏頭痛だ。
はじめは、まるで頭痛の予兆ではありませんよと言わんばかりの優しさで、左の瞼をノックする。この時はまだ瞼の違和感程度にしか感じない。しかし、そのまま放置すると、ノックする頻度も強さも上がってくる。「ああ、偏頭痛がくる」とわかってから対処したのでは遅い。瞼をノックしていた手は眼球の奥へと侵入し、眼と脳みそを繋いでいる神経を思いっきり下に引っ張るのである。それと同時に、除夜の鐘でもついているかのような衝撃が後頭部に走る。これが心臓の拍動に合わせて繰り返されるのだ。
もちろん、症状が出てからでも薬を飲めば早く収まる。だが、この痛みは1秒たりとも堪え難い。「頭がガンガンする」なんてものではない。ワガママな彼が優しさを見せたかと思ったらいきなり怒り狂って暴れ出し、どんなになだめようと思っても聞く耳を持ってくれない、そんな苦しみに似ていると思うのだ。

でも、彼だってきっと、理由もなく怒っているわけではないと思う。
「そろそろ休んだら?」とか「最近あんまり寝てないんじゃない?」とか、そんな優しさに私が耳を貸さないから、だからわかってもらおうと暴れてしまうのかもしれない。

「自分の体をちゃんと労わってやれよ」
彼のそんな声が聞こえたような気がした。大事な時に限って邪魔しにくるワガママなやつだと思っていたが、きっとこれは彼の精一杯の主張なのである。
「今日くらいは、彼のいうことをきいてあげようかな」
その日の予定を全てキャンセルした私は、毛布の中に体を押し込んで、買ったまま手をつけていなかった本に手を伸ばした。

記事:永井里枝

***

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