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チーム天狼院

あなたのそのシワを、私にくれませんか?《深夜3時の処方箋#5》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」で「読まれる文章のコツ」を学んだスタッフが書いたものです。

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「いいよねー全然シワなくて。目尻とかさ、ほらもうこんなに何本も入ってて」
屈託のない笑顔で、その先輩は言った。
違うんです、違うんですよ、先輩。私はそのあなたのシワに、並々ならぬ嫉妬を覚えているんです。
そんなことを言ったらまた「若い子に言われても嬉しくないわよ」なんて言われそうだから、口には出せなかった。しかし私は本当に、そのシワを見るたびに羨ましくて泣きたいくらいの気持ちになるのだ。

確かに私は、30歳の肌にしてはシワが少ない。特に気をつけて手入れをしているわけではないし、高い化粧品を使っているわけでもない。エステも何回かお試しで行ったきり。もともと女子力なんて言葉とは無縁の私は、自分の外見を磨くことに対してあまり時間とお金をかけられないのである。

化粧だってそうだ。いつ買ったのかわからないようなファンデーションを、ちまちまと使っている。メイク部に参加したい気持ちはあるけれど、こんな道具が揃っていない状態では行けない、といつも指をくわえて見ているだけである。
毎朝、顔面のメンテナンスにかける時間は10分にも満たない。目の下のクマを消して、小鼻の周りの赤みを消して、眉間のシワにコンシーラーを塗りこむ。

そう、私は眉間に深いシワがある。目尻の代わりに、とても深い縦ジワがおよそ3センチに渡って刻まれているのである。
「そんなのあったっけ?」
と言われそうだが、私にはそれが気になってしょうがないのだ。毎朝のメイクにかける10分のうち半分以上を、そのシワを消すために費やしているのだ。もし金銭的に余裕ができたら、そのシワにヒアルロン酸の注射をぶち込んでやろうと本気で思っているほどである。

実はこのシワとの付き合いは、幼稚園の頃までさかのぼる。もちろん今のようにコンシーラーを埋め込むほどの深さはなかった。しかし、写真の中の私の眉間には、必ずと言っていいほど縦じわが刻まれていた。何が気に入らないのか、そんなに眩しい晴れた日だったのか、しかめっ面の私ばかりがアルバムには並んでいた。

本当にやばい。
そう思い始めたのは、大学を卒業してしばらく経った頃だと思う。急に、その縦ジワが主張し始めたのだ。「お肌の曲がり角」と言われる25歳を過ぎたこともあるかもしれない。だが、思い当たる節は他にもあった。
そう、急激な減量だ。
最も太っていた大学時代から少しずつ体重を落とし、最後の3ヶ月で10キロ、最終的には30キロ近く減量した。その最後の急激な減量の後、私の眉間のシワは存在を主張するようになったのである。
一気に老けた。とても20代半ばの顔つきではなかった。それでもその時は、体重を落とすことを優先していたため、仕方がないと思っていた。
何もかも上手くいかないような気がしていたこの頃、痩せて綺麗になることだけに全力を注いでいた。痩せればすべて上手くいく。誰と比べることもなく、自分を認めてあげられる。そう信じて疑わなかった。だからこそ、大幅な減量にも耐えられたし、そのためにできてしまった眉間のシワも仕方ないと思えた。

しかし、残念ながら私の思い描いていた未来は手に入らなかった。痩せても誰かと比べてしか自分の幸せを測れなかったし、そんな自分は正直なところ幸せなんかじゃなかった。

ある時、テレビで「お人形になりたい女の子」が紹介されていた。
外国に住む20代の女性だったが、子供の頃に遊んだ女の子の人形がそのまま大きくなったような人だった。
「その美貌を維持するために何かしていることはありますか?」
というインタビュアーの問いに対して、女の子はこう答えた。
「できるだけ、笑わないようにしています。シワになるので」
そうか、笑うとシワができるのか。笑わなければ、シワにならないのか。
おもむろに洗面台へ向かい、笑顔を作ってみる。ああ、ここにシワができるのね。
そう確認して真顔に戻ると、笑いジワのあるべき目尻や口元は、残念なことに20代後半とは思えないほどのハリがあった。
テレビの中の少女は思い通りの人生を生きているはずなのに、全然幸せそうに見えなかった。

例の先輩と出会ったのは、その頃だ。
決してとびきり美人とはいえないその顔に、私はずっと欲しかったものを見つけた。
そう、笑いジワだ。
それを見た時に「これだ!」と心の中で叫んだ。これだよ、私の欲しかったものは。こんな素敵なシワがあるだろうか? ここまできてもまだ比較してしまう自分が情けなかったが、私の眉間に刻まれた縦ジワと、先輩の目尻に刻まれた笑いジワの間に、どうしようもない隔たりを感じたのである。
ああ、この人はこのシワができるまでに、どれほどたくさん笑ってきたのだろう。どんなに楽しいことがあって、周りの人に笑顔を振りまいて、きっと幸せな日々を過ごしてきたのだろう。そのことが羨ましくて、妬ましくて仕方なかった。そして、そんなことを考えている瞬間にも、私はまた眉を寄せ、その縦ジワは更に深さを増してしまうのである。

やめよう、こんなこと。
誰かを羨んでいるような人に、こんな素敵な笑いジワはできない。欲しいからこそ、簡単には手に入らないものだからこそ、自分と比べるようなことをしてはいけないのだ。

笑いジワが欲しくて先輩に嫉妬してからしばらく経ち、少し体重が増えて顔もふっくらとしてきた。
残念ながら眉間のシワは消えそうにない。
でも、そんなことを気にしている余裕はない。
今までそんなに笑ってこなかった分、これからそのシワを手にいれるためにはたくさん笑っていなければならないのだ。
人生はそんなに長くはない。
おばあちゃんになった時、笑いジワでいっぱいの顔をくしゃくしゃにしてまた笑う、そんな人になりたいなと思えたのは先輩の笑いジワのおかげだと、次に会った時に伝えようと思っている。

記事:永井里枝

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