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好きな男の子から「処女なの?」と聞かれたときの対処法《川代ノート》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」で読まれる文章のコツを学んだスタッフが書いたものです。

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「ねえ、もしかして、処女?」
ドキッとした。大して仲良くもない男の子から、突然そんなメールが来るとは思わなかったからだ。
そのメールが来たとき、私は15歳の中学三年生だった。そしてもちろん私は処女だった。それどころか、キスだってしたことがなかった。男の子とまともにメールのやりとりをするのすら、ほとんどはじめてだったのだ。
彼も同じ、中学三年生だった。彼とは友達の紹介で知り合った。ゆうきくん、というのが彼の名前だった。とても顔が整った男の子だった。間違いなくイケメンに分類されるような子だ。目がぱっちりしていて、顔が小さく、顎がとがっていて、鼻が高かった。ジャニーズにいてもおかしくないような美少年だった。私はゆうきくんに夢中になっていた。女子校でほとんど男子と会話することのない環境の中ではじめて訪れた、恋の予感だ。これを逃すわけにはいかない。そしてそんな超絶イケメンから送られてきた衝撃のメールに、私の心は震えた。彼はどんなつもりでこれを送ってきたんだろう? 私とやりたいのだろうか? これは誘われているのだろうか? 彼の真意がわからない。彼は童貞なのだろうか? いや、それはないだろう。きっと彼は自分に自信があるからこそこんなことを聞いてくるのだ。そうに決まっている。「処女なの?」なんて、そんなことを聞かれるのははじめてだったし、友達もそう聞かれたことがあるという子はいなかった。模範解答がわからない。なんて答えればいいんだろう。どうやって返信するのが正解なんだ。正直に処女だと答えるべきか? いや、彼はおそらくヤリチンだ。処女は重いと思われるかもしれない。非処女だと嘘をついておいたほうがいいのだろうか。
私はそのときハッと思い出した。こんなこともあろうかと、いつの日かこっそり古本屋で恋愛本を買っておいたのだ。私はそれを引っ張り出してきて、正しい答えを探した。銀座ホステスが書いた本だった。きっと彼女なら彼を落とすもっともいい答えを知っているにちがいない。でも残念なことに、どのページをめくっても【好きな男の子から「処女なの?」と聞かれたときの対処法】なんて書いていなかった。
それでも私はその恋愛本に書いてあった言葉から、正解を類推した。「予想外の答えが返ってくる女になる」「男を落とすにはギャップが肝心」「たまにはあなたから誘ってみて」。なるほど、そうか。ならばこれがきっといい回答のはずだ。いや、でもな。あんまり正直に書きすぎるのも……。何度も書いては消し、書いては消しを繰り返した。悩みすぎて何を書いているのかよくわからなくなった。そして途中でふと思い出した。そうだ、彼は「変な女」が好きなのだ。彼の周りには私以外にも女がたくさんいた。可愛い子もモデルみたいに美人な子もたくさんだ。でも彼が一番好きなのは、どんな美女でもなく、変な子だった。変だけど、面白い。変わっていて、ぶっ飛んでいて、周りを巻き込んでいく、ちょっとわがままな子。きっと彼に従順についていくような真面目な女は好きではない。私は真面目だ。クソ真面目が服を着て歩いているような人間だ。ならば私は彼好みの「変人」にならねばならない。変人らしい回答をしなければ! 
ついに決断した私は、震える手でぽちぽちとメールを打ち込んだ。
大丈夫、大丈夫。きっとこれで彼も私のことを気にしてくれるはずだ。うまくいく。銀座ホステスの答えだって参考にしたんだから。

「うん、そうだよっ でも、ゆうきくんになら、あげてもいいかな?」

バカだ。正真正銘のバカだ。あほだ。何をやっているんだ、お前は。
と、もしタイムスリップできるのならば、9年前の自分を殴りに行きたいくらいだ。けれど、あの頃の私は何もしらないただのクソ真面目なバカだった。そしてクソ真面目なりに「予想がつかない面白い変な女」になろうと努力していた。だから彼の好きな「変な子」の真似をした。「真面目に見えるかもしれないけど、本当は変わってますよ」「こう見えて、夜は娼婦になりますよ」というアピールをしたつもりだった。でもバカだ。バカすぎる。アピールの方向を間違いすぎたのだ。「あなたに処女をあげてもいい」なんて、まず、なんでそんなに上から目線なんだ。相手は絶世のイケメンなんだから女なんて食い飽きているに決まっている。私ごときの女なんて周りにいくらでもいるのだ。「どうか私の処女を召し上がっていただけませんか」とか、そのくらい低姿勢でいけよ。なんでちょっといい女風の口調なんだよ。でもまあ、あの頃は仕方がなかった。それが間違った答えだとわかるのは、これまでに数々の失敗をしてきたからだ。当時の私は全然周りが見えていなかった。暴走していたのである。

私は待った。待ち続けた。ゆうきくんからの「えっ、マジで? すげードキドキした笑」的な返信を。それから私とゆうきくんの恋が発展することを。そしてヤリチンのゆうきくんが他の女との縁を切り、「ついに運命の女に出会えた」と私にだけは突然一途になる少女漫画的展開を夢見た。しかしゆうきくんからはなかなか返事がこなかった。私はそわそわしてなんども携帯の画面を開いた。おかしい、と思った。なんで返信がこないの? 恋愛本には、「少しじらしてメールを送れば、相手はすぐに食いついてくる」と書いてあったのだ。どうしてだろう? あまりにドキドキしたので、返信に迷っているのだろうか? 相手も私を落としたくて、それでわざと焦らしているのだろうか? 数々のポジティブな可能性とネガティブな可能性が6対4くらいの割合で浮かんでは消えていく。
結局、ゆうきくんからの返信が来たのは、1日経ったあとのことだった。「新着メール 一件」。私はぶるぶると震え、ものすごい勢いで出てくる手汗をふき、メールを開いた。実にシンプルな答えがそこにはあった。

「ワロタw」

もちろんそのあとゆうきくんと付き合うこともなければ、ましてセックスすることもなかった。結局私の初体験はゆうきくんではなく別の相手に捧げることになった。そんなものだ。人生なんてそう思い通りにはいかない。私は現実の厳しさをそのときに思い知った。何がいけなかったのかよくわからなかった。私は真面目に銀座ホステスの言うことを聞いて、それを実行にうつしただけのつもりだった。変人が好きなゆうきくんの好みに合わせ、変人らしく振る舞ったつもりだった。その通りにやれば上手くいくと思ったのに。だからこそそうしたのに。

彼にふられたことはかなりのダメージであり、私の黒歴史となってしまった。私はあのときの恥ずかしさを払拭したかった。なんとかして、忘れようと思った。でもなかなか忘れられなかった。何がいけなかったんだろうと思った。結局「処女なの?」と訊いた彼の真意はわからないままだった。

私はそのあとも何度か、同じような目にあった。私はずっと「変な女」を目指し続けていた。「変わってるね」と言われたいと思った。そう見えるようにSNSに書き込んだり、自分は周りとは違う感覚を持っていると思いたくて、わざとディズニー映画を嫌いだと言ってみたりした。みんながいいと言うものをいいと思いたくなかった。よくわかりもしないくせにフランソワ・トリュフォーの映画を「これは傑作。冒頭のカメラワークと演出はトップクラス」などと声高に語った。「変わっていると思われたい」という思考そのものが自分の凡庸さを最も表しているという事実からは目をつぶった。

でもある日突然、なんだか色々なことがめんどくさくなった。疲れた。何やってんだろう、と思った。そして悟った。

私は、変人ではない。

私は普通だ。ものすごく普通だ。破天荒なことができるわけでもなければ、みんなを巻き込んでいくような力もない、真面目な人間だ。みんなと同じ感覚を持ち、みんながいいと言うものをいいと思う。「ズートピア」がめちゃくちゃ面白いと思い、芸術的なフランス映画は全く意味がわからん、と思う。それが私の本心だ。ならば仕方がないじゃないか。なんだか急に肩の力が抜けてしまった。バカみたいだと思った。
そして、なぜ私がゆうきくんにふられたのか、理由がわかったような気がした。

私がしていたのは、「変人の押し売り」だったのだ。

変人になれば好きになってもらえると思った。変な女になりきれば、好きだと言ってもらえると思った。
でもゆうきくんが求めていたのは、「変人」ではなかったのだ、きっと。これは予測に過ぎないけれど、あの変な子が、自分に嘘をつかずに、自由に生きているところに魅力を感じたのだろう。私にはそれがなかった。ただ相手に好きになってもらいたい一心で、自分を見失っていた。なんでもかんでも相手に合わせてしまう人間ほどつまらないものはない。
普通の女は生まれつき普通の女だし、変な女は生まれつき変な女なのだ。そして私たちは一生、これから先も、自分の宿命を受け入れて生きていくしかない。普通の人間には普通の人間にしかできないことがあるし、変な人間には変な人間にしかできないことがある。事実、私は今自分のものすごく「普通」な感覚を武器にして文章を書いている。「ものを書く」という行為においては、「普通」であることはときに、ものすごい強みになるのだ。
真面目なやつががんばって変人になろうとしても、結局真面目さが余計に強調されてしまうだけだ。本当の変人は、「変人」の特徴をTODOリストにして一つ一つチェックボックスを埋めていくようなことをしたりはしない。無理しても何もいいことはない。
「あたしって変な女でしょ」という押し売りほどうざいものはない。なぜそんなに簡単なこともわからなかったんだろう。私は私のまま、素直にしていればそれでよかったのだ。

いや、そもそも、付き合ってもない女に「処女なの?」とセクハラまがいのことをいきなり訊いてくるような男、イケメンでもなんでもない。

もし今の私が9年前の、恋に恋しているときの私に会いに行くのなら。

「そんな男、記事のネタくらいにしかならないんだから、適当に『あたしの100人目の男になる?』とでも言っときなさいよ」と、そうアドバイスするかもしれないと、ふと思った。

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2017-03-13 | Posted in チーム天狼院, 川代ノート, 記事

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