チーム天狼院

レースのタイトスカートが教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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レースのタイトスカートが教えてくれたこと

記事:中村雪絵(チーム天狼院)

「もうダメだ、このまま死ぬのかな……」
わたしは精魂尽き果て立ち尽くしていた。
身動きがとれない。
前が見えない。
まさか自分がこんな最期を迎えることになるなんて、思わなかった。
走馬灯のように楽しかったことが蘇ってくる。
そして、今までやった悪行も思い出される。
でも、それも今日で終わりか……いや、終わらせねえよ!!

私は身動きがとれない状態で思わずノリツッコミした。
私はパンツ丸出しだった。
別に私は変態ではない。
これは事故だった。かわいいレースのタイトスカートを履こうと思っただけなのだ。
下から履くと太ももが引っかかるから、上から被っただけなのだ。
なのに、スカートは胸でひっかかり、そこで止まった。
家には誰もいない。
両手をあげた状態で、パンツ丸出しで、ひとりだ。

どうしよう。
誰にも見られたくない。
しかし1人ではどうにもならない。
あああもう!
困惑と情けなさで涙がこみあげてくる。

どうして私は、こんなスカートを履こうと思ってしまったのだろう。

このスカートが似合うようにがんばって痩せよう! と思って買ったやつだから、買ったときから既に入らなかった。
そこからまだ1キロくらいしか痩せてないのに、あんたそれ入るわけないやーん!
私はまたも自分にノリツッコミを入れた。
あああ虚しい。
自分が嫌い。
買ってから痩せようという無計画さ。
痩せられない怠惰さ。
入るだろうという甘い判断。
下から入らないから上から履くという雑さ。
そしてパンツ丸出しで泣いているこの状況。
だから私の人生はうまくいかないんだよ!
うわあああああん!!

気がつくと私は号泣していた。
するとスカートの裏地が涙と鼻水でぴったりくっついて、呼吸ができない。

いや、これはマジで死ぬ。

死にたくない! こんなことで死にたくない!

私は腕をあげ、スカートの裏地と口元をずらし、ほそーく息をした。
あ、まだ、なんとか大丈夫だ。
嗚咽を懸命にこらえながら、携帯電話を探した。
レース素材のスカートから、うっすら外の世界が見える。しかし曖昧にしか見えない。

りりりりり……

着信だ!
私はその音をたよりに携帯電話を探した。
音の方に目をやると、かばんが見えた。
私はかばんを足でひっくり返し、携帯電話をがさごそ探した。

ピッ。

何かを踏んだ。

「もしもし?」

どうやら携帯電話を踏んだらしい。しかも触れどころがよかったのか、スピーカーモードで電話をとれた。

「すみません! 助けてください! 助けてくださいいいいい!」
「は? どうしたの!? いまどこにいるの?!」
「家です……」
「家ね、すぐいく」

プーッ、プーッ、プーッ。

電話は切れた。
でもあの人誰だったんだろう。
少し冷静になって考える。

このスカートを履こうと思ったのは、デートに行くためだ。
そして、おそらく、今その待ち合わせ時間だ。
そして、あの安心する声。
あれは彼氏だ。

まずいことになった。私はパンツ丸出しだ。

こんなところを見られたら、嫌われてしまう。
嫌われたくない! こんなところで嫌われたくない!
リダイヤルしようにも、うまくできない。

詰んだ……。

私は精魂尽き果て立ち尽くした。
神様は残酷だ。こんな酷い試練を与えるなんて。
……違うやん。私が悪いやん。ははは……。
笑えてくる。涙が溢れる。情けない。
嫌われたくないよ……。
でも、仕方ないな。
私はパンツ丸出し女なんだ。
冷蔵庫に寄りかかって、パンツ丸出し女はシクシク泣いた。

ピンポーン。

パンツ丸出し女は、思わず息を殺す。

「おーい! 大丈夫?」

彼だ。彼が来たのだ。

「うん、大丈夫」
「心配したよ! あけてくれる?」
「あけられない」
「なんで?」
「事情があって」
「なんなん事情って」
「事情は事情だよ!」
「えっ、泣いてんの?!」
「うわあああああん!」
「おい、あけろって!」
「いやだああああ!」
「いやだじゃなくて! はよあけろ!」
「いやだああああ!」
「じゃあ帰るよ? 帰っていいね?」
「それは無理」
「じゃああけろや!」

私は観念して、ドアを細く開けた。

「えっ」

彼は絶句した。
そりゃそうだろう。目の前にパンツ丸出し女がいるのだから。

「……なんのプレイ?」

彼は振り絞るようにして私に聞いた。

「違う! スカートが、脱げなくなったんだよ……」

それを聞いた瞬間、彼はむせ返るほど引き笑いをした。

そして、

「それもうどうにもならんから、切ろう」
「え、ダメだよ」
「ハサミあるから。切るね」
「え、待って」
「はい、切るよー」

ジャキ、ジャキ、ジャキ。

少しずつ、自由になっていく。
私を縛り付けていたレースから解放されていく。
やがて目の前をハサミが通り過ぎる。
恥ずかしくて情けない感情は少しずつなくなっていき、ちょっと明るい気持ちになっていく。
帝王切開、という言葉が脳裏に浮かんだ。

スカートが完全に真っ二つに分断されたとき、私は産声のような泣き声をあげた。
それを聞いた彼はまた、むせ返るほど引き笑いをした。そして何事もなかったように

「じゃ、今日どこ行く? あ、なんか新しい服でも買いに行く?」

と私に聞いた。
その瞬間、ああ、私はこの人が好きだと思った。
この人にもっと好きになってほしくて、可愛いと思われたくて、このスカートを買ったんだった。
このスカートを余裕で着こなす姿を彼に見せたかったんだった。
でも、このスカートが入らない私でも、この人は愛してくれるんだ。
もちろん、努力はしていこうと思う。こんなこと二度と経験したくない。
だけど、スカートが入らないからといって、
無計画だからって、怠惰だからって、判断が甘くたって、雑だって、愛されないということではない。ダメだけど、ダメじゃない。
今はちゃんと自分に合ったサイズのスカートを履いて、ゆっくり痩せていこう。
痩せる途中の私も愛しながら。
「ダメな自分」も「ダメじゃなくなる途中の自分」も愛していこうと思った。

***

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