チーム天狼院

隣の友人がいつの間にか国境を超えていた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中麻美(チーム天狼院)
 
「仕事どう? 楽しい?」
 
そう尋ねた私に、彼女は少し笑って答えた。
 
「大変だけど、楽しいよ」
 
見慣れた彼女の姿。しかしそのとき、彼女は私が知る彼女とは、どこか違って見えた。何かが大きく変わったわけではないのに、今までの彼女とは決定的に違うような、そんな感覚。
それはきっと、彼女がまた、私より一歩先のところに進んだからだ。まるで大きな川の対岸にいるような、国境の向こう側にいるような、そんなようにも思えた。
  
高校の同級生である彼女は、この春から社会人になった。私たちは2人とも大学進学を機に地元を出て、大学は別々だったものの時おり顔を合わせて、そして彼女は私より1年早く卒業して、社会人になった。
 
大学に入るときに1年浪人した私にとって、現役でストレートに大学生となった友人たちは、常に1年進んだ場所にいた。私が浪人生になることが決定したとき、彼女たちは大学生になることが決まった。私がようやく大学に入ったときには、彼女はもうすでに2年生になっていた。私が2年に進級してサークルに精を出していたとき、彼女はもう3年生で、将来のこととか考え始めていたのかもしれない。そして私が大学3年生のときに彼女は就活をしていて、私が就活をするようになったとき、彼女は社会人として働き始めた。
 
私はまだ学生で、彼女は社会人。私がスニーカーでキャンパス内を駆け回っているとき、彼女はスーツにパンプスでオフィスにいる。そこは私が知らない世界だ。彼女がかつていた世界にまだ私はいて、彼女は私が知らない、進んだ場所にいる。
 
高校生のときは一緒に進んでいるつもりだったのに。いつの間に、そんな遠くに行っちゃったんだお前は。同い年で、同級生のはずなのに。川の向こう側にいるみたいな、国境の向こう側みたいな場所に。私の知らない場所に。
 
過労死とか、ブラック企業とか、そんな怖い言葉ばかりで、私はきっと社会という場所を恐れていた。そんな言葉がなかったとしても、そこは学生のノリではいられない場所で、得体の知れないものだと思っていた。わからないから、恐れていたのだ。そこは川の対岸、国境の向こう側。行ったことのない遠い世界。
そんな場所に彼女は行った。行ってしまった。私より1年も早く。
 
動物が好きな彼女は今、犬に関わる仕事をしている。普段はどんな仕事をしているのかと尋ねれば、詳しい仕事内容を教えてくれた。そして最後に言った。
 
「好きなことに関わってるから楽しいよ。失敗して迷惑をかけることもけっこうあるけど、上司もみんな優しくてフォローしてくれる」
 
ちゃんとやりがいを持って、周囲の人のサポートを受けて、生き生きと働いているような気がした。働いているところなんて見ていないけど、仕事について語る彼女の表情がそれを物語っていた。
だから私は安心した。過酷な環境にいるわけじゃない。彼女の毎日は理不尽なこととか、不条理なことに耐えるだけの日々じゃない。私の知らないその場所は、彼女にとってはちゃんと暮らしやすい場所らしい。よかった、よかった。
 
まったく別人になったわけじゃないけど、何かが決定的に変わったように思えた彼女は、今の私からしてみたら、ずいぶんと遠い場所にいる。1年進んだ場所の彼女の姿は私よりもずっと大人に見えた。
でも、私もきっと、すぐそちら側に行くのだ。来年の今ごろは、今の彼女と同じ場所にいる。そのとき彼女は社会人2年目になっていて、社会に出たばかりの私からしてみれば、やっぱりずいぶんと大人に見えるのかもしれないけど。
 
別れ際に、彼女が言った。
 
「なんかさ、ずいぶん変わったね」
 
ぽかんとした私は誰が、と尋ねる。そんなもの、私しかいないというのに。
 
「いや、お前しかいないでしょ」
「そう?」
「うん。なんかね、変わったよ」
 
何がどう変わったのか、私にはわからない。たぶん、それがわかるのは彼女だけだ。
 
1年早い彼女だけが変わったと思っていた。でも、彼女から見た私も、変わっていたらしい。彼女からしてみたら1年遅い場所にいる私も、何かが変わっていた。
1年早いとか、1年遅いとか、もしかしたらそんなものは関係なかったのかもしれない。同じぶんだけの時間が流れて、そのぶん、2人とも変わっただけだったのだ。彼女が川の対岸に、国境の向こう側にいるならば、私もまた川の向こう側にいて国境を超えた場所にいるのだから。
 
高校を出て、違う進路を選択したときから、こうなることは決まっていた。知らないうちに変わっていくこと。ずっと隣にいるわけじゃないから、その変化の様をじっくり見ていられるわけもない。
もしまた来年、彼女と顔を合わせたら「お前変わったな」なんて言われるのかもしれない。そうしたらたぶん、私もまた「お前もな」と言って笑うんだろう。
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