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チーム天狼院

自分の話が苦手な私が、話してみようかと思うまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:秋田珠希(チーム天狼院)

「珠希は、これだから、ダメなんだよ!」
久しぶりに会った、中学の同級生に言われた。
彼女は、中学時代は毎日のように話していたのに、卒業後は年に1度程度しか会っていなかった友人だった。
安い飲み屋さんの明るい照明の下、彼女は思い切り顔をしかめながら、ああもうと拳を机に叩きつけるような仕草をする。
ほんとばかじゃないのとか、いい加減にしろとか、散々私に私の愚痴を言う。
私は少し困ったように笑って聞いていた。

女子には、マウンティングというものが存在する。
相手を否定することで、自分を肯定する。自分はすごいと見せつける。それを言われるたび、私は嫌悪感でいっぱいになる。
ふざけんな、お前に何がわかる。
そういう人に限って、だいたい人の話をちゃんと聞いていないし、批判だって見当違いなことも多い。的をついていたとしても、私には私なりの事情があるわけで、それを嬉々として否定される筋合いはない。
マウンティング女子というと、OLや女子大生の印象が強いけれど、それ以前の小学校、中学校、高校も似たようなものだ。下手をすれば幼稚園からそういう子が居たりする。人にアドバイスするふりして自分をアピールしたり、褒めるふりして見下したり。
そしてそういう意図を持った発言に限って、相手の意図がまざまざと感じられてしまう。
ほんと嫌いだ、心から。
だから私は自分のことを、人に話すのが好きじゃない。上から目線で忠告される。悪くすれば誤解される。からかわれる。こっちは真剣に悩んでるのに。
本当に最悪な場合は、他の人に言う。噂を流す。しかも私が話したのとはニュアンスが違っていたりする。もうこうなったらおしまいだ。こっちはコントロールできない。良くも悪くも暇な人たちの手に渡ってしまえば、飽きるまで酒のつまみにされて色眼鏡の入った目で見られることになる。
なんで私の話を、お前らのつまみに提供しなきゃいけないんだよ、というわけだ。
そういうことはないと信頼している友人だったとしても、リアクションに想像がつく。というか、そうするしかないよねっていう言葉まで予想できる。
理屈ではこうなのはわかってるけど、珠希はこう思うんでしょ。辛いよね、でもそれならどうしようもないね、頑張るしかない。
結局そうなる。話すだけ無駄だ。
だから、私は自分のことを話すのを諦めて、聞き役に徹してきた。聞き役というのは便利だ。話したい人というのは世の中に多いから、居場所には事欠かない。

上に書いた、中学の同級生に怒られたというのは、思い出話をしていた時だった。
「中学の時って何部だっけ」と彼女に聞かれたのだ。
「卓球部だよ。いい思い出ないけど」
「何それ、何かあったの」
聞き役に徹してきた私も、中学の頃の話はさすがに時効かなと思ったのだ。
「いや、卓球部の女子が三人しかいなくてさ、しかも二人が仲良かったから、私一人で行動してたんだよね」
同学年に男子は十二人くらいいたと思うが、さすがに思春期真っ盛りの中学生では、男女の壁は厚い。話す分にはいいが、一緒に行動できない。
自分は真面目で冴えない女子として見られているだろうという自意識も手伝って、私は何も動けずにいた。下手に関わっても迷惑だと。
「だから、本当部活が憂鬱でねー。塾の特別授業より、テストより、何より期末テストの最終日の部活が嫌だった」
期末テストの最終日は、午前中にテストが終わり、そのあとはずっと部活だ。いつもより2、3倍時間が長い。テストが終わらずにいてくれたらと願わずにはいられなかった。
そこまで話すと、彼女は驚いた。
「え、そうだったの?」
これには私も驚いた。
「え、話したことなかった?」
いくら私が自分のことを話さない人間とはいえ、部活の愚痴くらいこぼしているかと思っていたのだ。部活は三年間続けていたし、彼女とはもう8年近い付き合いになるのだから。
「珠希はこれだからダメなんだよ!」
彼女は呆れ半分、嘆き半分で彼女は怒った。
「そのくらい言いな! ストレス溜まるだけだから」
挙句には、
「なんで私も気がつかなかったかなー」
という始末である。
当時の私の心境としては、多分、「自分で決めたことなのだから、愚痴や文句を言うのはおかしい」といったところだろう。もしくは、愚痴ったらそう言われるだろうと思った。
親には愚痴を言ってはいたが、それは生活の中にいない人だったから言えたのだ。同じ環境にある友人に言ったら、どう反応されるのかが怖かった。
「ほんとそのクセ直しな!」
目の前の彼女は言い切った。本気で、「私心配だわ!」とたたみかけた。
私は、ごめん、と謝った。
申し訳なさ半分、彼女には悪いが嬉しさ半分で。嘘だ。
申し訳なさは5分の1くらいしかなかった。
だって、本当に嬉しかったのだ。
私のことを見ていてくれた。しかも、悪い風ではなく。
私なんて、どうでもいいだろうと思っていたのに。
心の中でごめん、と思った。私こそ、あなたのことを誤解してた。

(終わり)

***

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