チーム天狼院

21歳になってようやくわかった母の偉大さ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岩本七海(チーム天狼院)
 
 

高校生だった頃、私は、母とは肌が合わないと感じていた。
当時の私にとって母は、尊敬できる大人ではなかったのだ。
 

私の母は楽しいことが好きで、専業主婦ではあるけれどよく友人と飲みに出かけたり、ゴルフをしたり、知り合いのイベントを手伝ったりと積極的に外とのかかわりを持つ社交的な人だ。
また母はお酒とテレビが好きで、寝る前の数時間はほぼ毎日ビールか焼酎を飲みながら、寝落ちしてしまうまで延々とテレビを見ている。
だから当時も、私が夜遅くまで部屋で受験勉強をしている途中、喉が渇いたり小腹がすいたりしてリビングに行くと、明かりとテレビを点けたままいびきをかいて眠っている母に遭遇することが多かった。
 

正直なところ、
「私は、なんとか大学に合格しなければならないというプレッシャーと日々戦っているのに、ママはいつも酒飲んでくだらないバラエティ番組見て、バカみたい……。私は絶対にこんな大人にはなりたくないな」
と、思っていた。
 
 

高校生の時、どんな形でもいいから、真剣に人生を生きたいと願っていた。
世界を少しでも良い方向に進めていけるような、「立派な人」になりたいと思っていた。
そして、私が当時思っていた「立派な人」とは、例えば、マザー・テレサや大江健三郎やゴッホやマイケル・サンデルやヘレンケラーやハンナ・アレントやレイチェル・カーソンやよしもとばななだった。
 

社会の課題(貧困や格差や環境問題など)を発見し、それを改善するために何らかの手段を講じ続けている人。
優れた小説を書き、人々の価値観をゆさぶったり、弱った人々を物語の力でさりげなく救ったりできる人。
社会の、どうにもならない悲しみから決して目を背けない人。
世界の美しさを、その人にとっての真理を追いかけ続ける人。
 

そのような特徴を持つ人のことを、私は「立派な人間」だと定義していた。
それはもしかしたら、広い範囲の人々に希望を与えている人、と言い換えることもできるかもしれない。
 

そして、私の母は、私が勝手に作った「立派な人間」の定義からはあまりにもかけ離れていた。
母の、「自分が楽しい」を中心においている視野の狭い(と当時の私には思えた)生活スタイルは、当時の私に訳の分からない悲しみと失望を感じさせた。
 

自分だけが楽しければいいの? 
自分と家族だけが幸せならそれでいいの? 
テレビを見ている暇があるならもっと有意義なことに時間を費やすべきなのでは? 
母は、何のために生きているのだろうか。
 

私は受験のストレスや、自分の人生の意義を探しあぐねていたこともあって、のうのうと生きているように見える母への苛立ちを感じていたのだと思う。
 
 

たとえば、こんなこともあった。

ある日食卓で、母が「死ぬときに楽しかったって言えるような人生にしたいね」というようなことを言い、私はそれを聞いてまた「自分だけが良ければよいのか」と鼻白んだ気持ちになったが、喧嘩になるのは嫌だったのでその場では黙っていた。
しかししばらくして父と二人きりになった時に、「ママの、人生楽しい自慢が我慢できない」とこぼしたら父はハハッと笑い、そして、
 
「それはママの前では言わないほうがいいよ」
 
と私に言った。
 

私は父のその言葉を聞いて、父も結局は母の味方をするのか、と仲間外れにされた気持ちになったのと同時に、もしかしたら自分はひどいことを言ってしまったかもしれない……と漠然とだが確実な後悔の念に襲われた。
 
 

さて、そんな私だったが、実は今最も尊敬している人は何を隠そう、母なのである。
だが、ある一つの決定的なきっかけがあって考えが変わった、というわけではない。
 

少しずつ少しずつ、頑固だった私の「立派な人間」の定義がほぐれていったり、母が普段当たり前のようにしている様々なことが決して当たり前ではなかったのだと気が付いたり、自分の過ちを認めることができるようになったり……時間が経って色々なことが変化したのだ。
 

まず母は、私と妹と父の生活を、体をつくっている。
毎日毎日本当においしいご飯を作ってくれる。家に誰かがいるときは本当に欠かさず、毎日だ。グリーンカレーやサムギョブサル、水餃子にから揚げにアクアパッツァまで。おいしい料理が毎日出てくることは、全然当たり前のことじゃなかった。家が毎日清潔に保たれていることも、全然当たり前のことじゃなかった。
私はつたない料理を一食作るだけでドッと疲れるし、母が旅行に出かけたときは私が掃除機はかけているはずなのに家はなんとなく荒れてしまう。
 

また、母は生き物を育てるのがうまい。私の家では猫を三匹(すべて拾い猫)と亀を二匹飼っているのだが、みんな母に懐いているし、母は生き物を愛でる才能がある。
忙しい時でも、猫を冷たくあしらったり無視したりすることが絶対にない。
私は、自分に余裕がない時は冷たくあしらってしまうことがある。
 
 

そしてなんと、昔の私は嫌っていたはずの、自分の人生を楽しむ姿勢が今は魅力的な資質に思えるのだ。
まずは自分の人生を楽しいものにする。納得のいくものにしようとする。
自分の人生を楽しまないことが「立派な人間」への道であるとは限らない。ストイックであることはもちろん大事だけれど、まずは、自分を満たし、そしてあふれた活力を、愛を、周りへ還元させていく。
 
確かに母は、広い範囲の人に希望を与えているわけではないかもしれない。けれど、狭くても大きな、絶対に欠かせない、生活を紡ぐという「立派な」仕事を毎日しているのだ。私は最近になってようやく、そのことに気が付いた。
 

今私は胸を張って、母を「立派な人間」だと言う。

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