チーム天狼院

本当はパンツを脱いでみたい


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記事:岩本七海(チーム天狼院)
 

私は先日、ファナティック読書会「旅行に持って行きたい本」の司会をしたのだけれど、そこで1人のマダムが山田詠美さんの『熱帯安楽椅子』と『放課後の音符』を紹介してくださった。
 

「わー! 私も山田詠美さん大好きです!」
 

山田詠美さんを高校時代から愛読してきた私は思わずそう言っていた。

するとマダムはニコッと笑って、「エイミーはエロティックだけれど、下品じゃなくて……エイミーにしか生み出せない文体が私は大好きなの」

と、返してくれた。激しく同意、である。

 
 

読書会が終わったあと、是非マダムとお話ししたい! と思い、私はいそいそと彼女に話しかけた。
ひとしきり山田詠美さんの作品の話をしたあとに、話題は「恋」の諸々へと移っていった。
山田詠美さんの小説は、恋が欠かせないスパイスになっているものが多く、話が恋へと流れたのはまあ当然のことでもある。

 

「毎日が幸せで、とろけちゃいそうな恋って幸せよね〜」
 

ふとした拍子に、マダムが甘い声で言った。
 

それを聞いて、私は身体に冷たい水をかけられたような気がした。

 
 

なんでかって?
 

それは、私はそんな「とろけちゃいそうな恋」に落ちたことがなかったからだ。
 

マダムに甘い声を出させた、過去の記憶。私の知らない彼女の記憶。
そういう、慈しむことのできる記憶を心の中に抱えていることに、羨ましさと悔しさを感じるなんて。

 
 

恋。
とろけちゃいそうな恋って、なんだろう。

 

「そういう恋って、どうしたらできるんですか? 求めてるのに、そういう恋をしたことがないんです」

気づいたらそう口走っていた。
ちょっと殺気立っていたかもしれない。
 

するとマダムはにっこり笑って一言、
 

「あなた、心のパンツを脱いだこと、ある?」

と私に投げかけた。

 
 

心のパンツ。
そっか、なるほど。
 

私はなんとなく理解した。
 
たしかに私は、心のパンツを恋人の前で脱げたことが、なかった。

どうしてもどの恋人にも自分の全てをさらけ出すことができなかった。
弱いところを見せたらきっと嫌われてしまうと、自分で決めつけていた。

相手が好きなのはきっと、明るい私。おしゃべりな私。笑顔の私。頑張ってる私。愚痴を言わない私。うんうん、と相手の話を聞く私……。

そんな風に思い込んで、自分を繕っていた。

心のパンツをかたくなに脱がなかった。

それが逆に相手を傷つけることかもしれないし、相手との関係を深められない原因になってしまっていたかもしれないのに。

 
 

大なり小なり他人の前では皆、相手に合わせて自分をカスタマイズさせるとは思うけれど、私の場合はそれが度を過ぎていたのだと思う。
 
 

一度、付き合っていた人と身体を重ねているときに、耐えられずに涙を流したことがある。
相手のことが好きで、身体も重ねているのに、心をさらけ出せないことがつらかった。

 

その人と付き合っていた当時私は水商売をしていた。
学費を稼ぐためだったり家計を助けるためだったり、「止むに止まれぬ」理由があって働いていたわけではなかった。
 

きっと1番の理由は、あまり言葉には出したくないけれど、誰かに認められたかったんだと思う。

いろんな人に、かわいいねって言ってもらいたかったんだと思う。

 
 

私は2人姉妹の姉だ。
そして、私の妹はとても可愛い。幼稚園から小学校まで妹は子役をやっていたし、今も大学でスカウトされて読者モデルをやっている。

「七海の妹すごいね!」
「妹のテレビ、今日みるね!」

小学生の頃、よく言われた。
私のことじゃなくて、妹のことばかりを褒められた。
 

放課後のホームルームで、先生が「さようなら」の挨拶の前に、「今日は七海さんの妹をテレビでみましょう!」と40人の前で言ったこともある。

もちろん先生には悪気はなかったのだと思う。
けれど、自分の功績じゃなくて、妹の功績を讃えられていることが、もちろん嬉しかったけど、同時にその場からいなくなりたいとも思った。
 

だって、褒められてるのは私じゃない。

今は、妹の活躍を私は素直に応援しているし、嬉しく思うし、SNSで宣伝もしている。

けれど、小さい私にとって、妹のことばかりを褒められるのはちょっと、悲しかった。

 

そして小学生の私は、「かわいい」を捨てることにした。
「かわいい」は妹の担当だから、自分はそれをしない、それを受け入れないと決めた。

幼いなりの自己防衛だったのかもしれない。
なんとか妹とは違う人間なんだ、っていうことを証明したかったのだと思う。

全身「しまむら」でかためたし、リンスをつけるのをやめたし、髪もとかさなかった。

そうやって、「かわいい」を遠ざけるようになった。

 
 
 

………

 

私は、水商売をしている自分を、彼氏にうまく説明できる自信がなかった。自分なりの理由を、ちゃんと説明できる気がしなかった。

「え、ありえない。不潔だよそんなの」

まだ言われてないのに、頭の中で彼氏にそう言われるイメージをしてしまった。

すると、もうそこから口を閉ざしてしまう自分を容易に想像できた。

最後まで心のパンツを脱げなかった。

 
 
 

でもきっと、脱いで良かったんだと思う。

確かにパンツを脱いだら、嫌われていたかもしれない。

でも、「そうだったんだね」と受け入れてくれたかもしれない。
 
 

わからない。
わからないけれど、私は心のパンツの紐に手をかける。
 

今付き合ってる、彼氏の前で。

 
***

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