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チーム天狼院

一番になることから、逃げたわたしでも


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田岡尚子(チーム天狼院)
 

「世界中の同い年の中で、自分のこと何位だと思う?」
ついこの前、そんなことを聞かれた。わたしより一つ下で、自分の将来について悩んでいる子に。
「えーっと……」
そのときは4人でいたから、誰が最初に言うか、みたいな雰囲気だ。「えー、世界中で?」「せめて日本中でもいい?」なんて言いながら、考えもしなかった“わたし”の順位について頭を悩ませていた。
そんな中、2つ上の先輩が、あっさりこう言った。
「28位!」
な、なんでなんで? と気になる3人。
「んー、もっと上みたらいっぱいいるけど、自分もやりたいこと見つけて行動してるからな」
もっと上をみたら、いっぱいいる。
そうだ、上には上がいる。そもそも、それを認めるのが、どうしても嫌だった。テストをすれば点数が付けられ、順位というものが発生する。何かをすれば上手いか下手かに分類される。物心ついたときから、こうやって周りと比べられるのがすごく嫌いで、順位がつけられるのが悔しかった。そしてこの悔しさが向かう先は、やっぱり一番という場所だった。
一番になりたい、誰かに負けたくない、そんなライバル意識が芽生えたのは、小さいころから一番近くにいた、兄という存在があったからだ。
わたしより3年も前に生まれているから、そりゃあわたしの知らないことばかり知っていて、たくさんのことを教えてくれる。でも、そんな兄を見て、わたしもお兄ちゃんみたいになりたい。お兄ちゃんができることは、全部わたしもできるようになりたい。そう思って、兄が始めた習い事はわたしも始め、まずは習字、ピアノ教室の2つの習い事を始めた。
中でも習字は、順位がつけられる、年に1回の書き初めが勝負。同年代の中では、誰より一番の作品にする、と必死で練習した。賞が欲しくて、トロフィーが欲しくて。最初にもらった賞は、小学4年生のときだったけど、半分よりは上かな、ぐらいのなんとも中途半端な賞だった。あぁ、お兄ちゃんどころじゃないんだ。私より上手な人なんて、いくらでもいる。
上には上がいる、ということを痛感した瞬間だった。1番以外をもらったって、悔しいだけだ。そう思って、次の年は、次の年はと、年に一回のチャンスに負けじと挑んだ。
中学生のときだったか、「いいとこいったよ!」そう、習字の先生から言われた。ドキドキしながらページをめくる。良かった賞の人から、大きいサイズで載っている。
「あった!」
見つけた。二番目のところに。同学年の中で、わたしの作品は、二番目だった。
一番になるなら、書道しかない。そう思って続けていたけど。結局高校では部活が忙しくなり、大学は地元から離れたため、書道はもう続けていない。一番になれないまま、特技は書道と言えるけど、特に資格も無い、なんとも中途半端なまま、書道を辞めてしまった。
 
一番になりたい。でも、一番になれない。中学でバドミントン部に入ったけど、結局ずっと補欠だった。個人としても一番になれなければ、団体として一番になるチャンスすら与えられなかった。
高校で始めた合唱でも、金賞銀賞とか、優劣がつけられるのが嫌だった。どの音色が好きかどうかなんて、人それぞれじゃん。そんなの、比べる必要があるのか。音楽を表現するのが楽しい、と思って歌っている姿に、優劣つけて何の意味があるんだ、わたしは音楽で戦いたいわけじゃないんだ、そんな不満が、ふくらんでいった。
 
“一番になれなかった”そう思うと、どうしても一番を目指したくなる。だけど、順位なんてつける必要があるの? そういう2人の自分がにらめっこしている状態で、今にも心の中の風船が、はち切れそうだった。
 
あ、待てよ、それならそもそも、一番を決めるようなことをしなければいいんだ。順位を決めることも無い、ゆるく、楽しくできるサークルみたいなものが、わたしには合っているんだ。そう思って、大学で入った合唱サークルは、コンクールにも出ないから順位がつけられることもない。歌うことを、素直に楽しめることができた。大学でデザインを専攻しているけど、「芸術も、好みは人それぞれ」と思ったら、「私らしさはなんだろう」って、自分と向き合うことができた。周りからみたら、甘えてのんびりと生きているやつにしか見えないかもしれないけど、自分の好きなことをやっているこの瞬間が、心から楽しいと思った。
  
そんな、マイペースに生きて、順位を決めることから逃げたわたしに、「世界中の同い年の中で、自分のこと何位だと思う?」という質問は、今まで隠していた心の奥底にグサっと命中した。全体を100として、自分は何番目か。そんなこと、考えたこともなかった。いや、考えたくも無かった。難関大学に通っているわけでもないし、英語が喋れない時点で、世界中の人とは比べものにもならない。80位、90位、もしくはランク外とかだろうな。
 
それなら、「わたしは80位とかかな」って言えばいいじゃん。ほら、やっぱり、わたしには何も残ってないんだ。いつも中途半端に何かを終わらせてきて、勝負事からは逃げてきたわたしに、胸を張れる実績なんてない。何か特別な賞をとったこともないし、何かに選ばれたといえるようなこともない。でも、その代わり、やりたいことを好きにやってきた。今が楽しくて楽しくて、この胸の高鳴りだけは、誰にも負けない気がする。いや、負けたくない。
そうだ、これだけは胸を張って言える。「今が楽しい」って、噓偽りもなく、胸を張って言える。面倒くさい、だるい、疲れた。そんな気持ちを打ち消すぐらいの“楽しい”がある。大きな夢も実績も無いけど、誰にも負けないぐらい、今が楽しい。
「……30位、かな」
結局なんとも中途半端な数字を言ってしまった。だけど、まだこの一番までの壁に、楽しさが隠れているのだと思う。
「なんで??」
すかさず入る質問に、自信を持ってこう答えた。
「だって、わたし、今好きなことやれて楽しいから!」
これでいいんだ。社会人になって、お母さんになって、おばあちゃんになっても、ずっとこの答えを返せるように、のびのびと、マイペースに生きるのも、悪くないと思う。

 
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