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チーム天狼院

【福岡天狼院の新メニュー】生レモネードスカッシュは、キスと別れの味《川代ノート》


ファーストキスの相手がどうかこれを読んでいませんようにと心から願うばかりだが、もう10年近く前のことなのでおそらくもう時効だろう、彼と共通の友達もいないし、Facebook繋がってないし、大丈夫大丈夫、うん、いける! と自分に対して滅茶苦茶な言い訳をくりかえしながら、これを書いている。

福岡天狼院で生レモネードスカッシュを出そうと思ったのには、理由があった。
「『恋したくなる飲み物』を出せ」という業務命令が、店主の三浦から下ったからだ。

「なんすか、恋したくなる飲み物って」
「いや、わかんないよ。でもなんかさ、福岡天狼院が女子会の場になったらいいじゃん。この飲み物飲んでる間はいくらでも恋話してOK! みたいな習慣ができたらいいじゃん」
「はあ」

相変わらず、突拍子もない無茶振りをしてくる上司である。はたして、私は困ってしまった。つーか「恋したくなる飲み物」ってなんだよ! そんなもんこの世で一回も出合ったことないし、そんな飲み物なんか飲まなくたって年中無休で恋したいしデートしたいわ! 恋したくない日とか別にないわ! 逆に「好きな人からのLINEを一切待つことなく一心不乱に仕事に集中出来るドリンク」とか作って欲しいわ! おそらく天狼院のスタッフの中で一番恋愛体質であろう私は、困ってしまった。恋したくなる飲み物のアイデアなんて全く浮かびそうになかった。

さて、どうしようかと考えたとき、最初に浮かんできたのははじめての恋の記憶だった。最初の彼氏。最初のデート。最初の告白に、最初のメールやりとり。最初のダブルデート。長電話しすぎて親に怒られた最初の記憶。最初の自転車ニケツ……。

あと、ファーストキス。

ああ、そういえば。
ずいぶん前の苦い思い出がじんわりと、心の中に浮かんできた。
そういえば、最初の恋が終わったのは、キスが原因ではなかったか。
本人が見ていたら本当にしゃれにならないけれど、そうなのだった。

誰にでもおそらく初めて恋をした日というのがあるはずで、私も例外ではなかった。高校一年生の頃の話だ。

「えーっ、さき、彼氏できたの!?」

仲の良かった友達同士の間でいちばんめに彼氏ができたときの、あの謎の誇らしさ、優越感といったら、何にも代えがたいものだった。学年のイケイケグループの女子たちが中学の頃から次々に彼氏をつくり、やれデートしただのやれキスしただのやれお泊りしただのとあれこれ騒いでいるのを「ふん、彼氏できたくらいで騒いじゃってさー」と冷静ぶって批判しているように見せておいて、内心では彼氏がほしくてほしくてたまらなかった。高校生の頃の私の目標はもっぱら「恋愛経験が豊富な女になること」だったからだ。

ませガキとしか言いようがないが、そのときの私は「モテ」研究に余念がなかった。とにかくモテたい。浴びるほどモテたい。異常なほどモテたい。どうしたらモテるのか、どんな仕草が男受けするのか、メイクは、髪は、服は、話す内容は。ふんふん、男は褒めるのが良いのね、あー、なるほど、モテるのは話し上手よりも聞き上手ですか。ほお。とにかくつまらないことでも楽しそうに聞いてあげること。なるほどねぇ。

当時の私の熱意たるや、それはもうすごいものだった。今思い出すと顔から火が出そうになるが、高校生のくせにおしゃれをして土日に表参道や銀座に行って一日中歩き回っているほどだった。別に買い物をするわけでもなく、友達と遊ぶわけでもない。なぜ16かそこらの高校生が銀ブラをしていたのか。単純である。ナンパ待ちをしようと思ったからだ!

そのときの私の頭の中はとにかく①たくさんの男と出会うこと②デートをすること③相手に告白させること。この三つしかなくて、自分がいかに相手を好きになるかとかは二の次だった。女子会で話すことを想定すると、「自分がいかに相手を好きか」なんてネタは、まったく自慢にならないからだ。私はとにかく同級生たちに「いいなー」とか「さきは本当モテるんだね」という「モテ女王」の称号を手にいれることしか頭になかったので、「銀座で歩いていたら年上の男にナンパされた」とか「大学生と間違われた」とか「キャバクラのスカウトされた」とか、そういう自慢になるネタばかりを探していたのだ。

そんな努力が無事にみのり、初めての彼氏ができた。同じ年で背が高くて、鼻が高かった。周りの友達に見せたら「文房具屋で働いてそうな顔」と言われたのが癪だったが、とにかく彼氏は彼氏だ。私は浮かれていた。なにしろはじめての彼氏なのだから、今まで憧れていたことは全部やろうと思った。デートもしたいし、プリクラも撮りたかった。手作りのお菓子もあげたかった。

お互いに初めての彼氏、彼女だったためか、彼はとても純粋だった。私が実行するモテ本参照の超テンプレ・モテテクニックをぜんぶ素直に喜んでくれた。今考えると笑い話でしかないが、髪の毛にごみがついてるのをとってあげる流れでほっぺにキスをするという超上級テクニックがどっかのモテ本に書いてあって、それすらも純粋にときめいてくれていた。おそらく彼には「モテ本」や「モテテクニック」なるものがこの世に存在するという認識すらなかったのだろう。

そんなわけで、私が圧倒的にリードしている恋愛がスタートした。友達には彼氏と会うたびに昨日はどうだった、何した、どこまでいったと事細かに聞かれ、私はすっかりてんぐになった。男心をつかむのはどれほど簡単で、いかにして私は手のひらの上で彼を転がしているのかということを懇切丁寧に説明した。すべては本から得た知識を丸暗記していただけだったけれど。

私と彼は毎日寝る前メールをし、週に一回か二回デートをした。自転車でニケツもしたし、マックでずっとしゃべっていたこともあった。夕方、公園のベンチで手のひらを合わせあって、手大きいね、なんてド定番の会話をしたこともあった。

そうだ、ベンチ。公園のベンチ。

ファーストキスをしたのも、公園のベンチに座っている時だった。

しかもその日、たしか都合よく雪が降った翌日で、ものすごく寒かった。無理をしてスカートを膝上20センチくらいにまで短くしていた私は本気で寒気が止まらず、それを大義名分として私と彼はくっつけるだけくっついてベンチに座っていた。

いつも通りくだらない話をして笑っていたとき、彼がふいにこう言った。

「あのさ、付き合ったらやってみたいと思ってたことがあるんだけど」
「えー、何?」

あ、これは、と私は察しがついた。まさか、まさかまさかまさか!

「……目、とじて」

これはもう間違いないだろうと思った。心臓のドキドキは止まらなかった。それまで必死になって作り上げてきた「恋愛経験豊富な悪女」像はその瞬間、もろくも崩れ去り、隠していた初心な16歳の女子高生でしかいられなくなった。あ、やばい、くる!? 本当にくる!? やばい、死ぬ! 緊張しすぎて死ぬ!!!
恋愛というものに対する憧れが強かっただけに、いざ自分がキスをする瞬間がやってくると動揺を隠しきれなかったが、我慢して目を閉じた。彼の唇が私の唇に触れるのを待った。

……

……

……

そして、終わった。

あれ、と思った。え、終わった。終わった。終わったーーー! キス終わった! ファーストキス、終わったーーー!! 
目を開けると照れくさそうにしている彼の姿が見えた。耳まで真っ赤になっている彼はたしかに文房具屋で働いていそうな素朴さがあった。彼も私もファーストキスで、照れくさくて、えへへ、と笑い合うような、甘い空気が流れている……はずだった。想定では。

私の計画では。ファーストキスというのは、もうその瞬間すべてがはじけるように幸せな気分になるもので、した瞬間にアドレナリンだかオキシトシンだかがドバーっと流れ出るような何か、革命的なことが起こるのだと思っていた。

けれども、そのときの私の身に起きたのは、私の唇と彼の唇が物理的に触れ合ったというその事実だけだった。

その瞬間に、私の中で何かが一気に崩れ去ってしまって、初めての恋は一瞬で終わりを告げた。3ヶ月ももたなかった。

 

 

ファーストキスは、レモンの味なんて、嘘だよなあ、と思う。
そもそも、誰が言い出したんだろうか。キュンとするあの感じを、甘酸っぱい気持ちを、誰かが「レモン」と言い換えたのだろうか。

結局あの恋とも言えない恋は、私の心の奥底に封印されることとなり、それ以来、私の「モテ研究」は収束を迎えた。毒気が抜けたというのか、「モテ」に対するモチベーションが、落ち着いてしまったのだ。

とはいえ、あのときの熱量ほどではないけれど、高校を卒業しても、大学を卒業しても、社会人として働いていても、恋ってなんだろう、モテるってなんだろう、愛ってなんだろう、とつい考えてしまう習慣は続いている。

あの頃憧れていた「恋愛経験豊富な悪女」だと胸を張って言えるほどの経験はないけれど、人並みには恋愛をしてきた。片思いもした。失恋もした。長く一緒にいた人と別れる決断をしたこともある。馬鹿にしていたJ-POPの失恋ソングを大泣きしながら聞いていたこともあった。

一つ、思うのは、高校生の頃に憧れていた「恋愛経験豊富」な自分になんて到底なれていないし、いまだにモテテクニックは体得できていないけれど、それでも、これまでに恋をしてきた経験のすべてで、私は成り立っているということだった。

出会いを求めてふらつくのも、どうやったらモテるのか考えるのも、マックで待ち合わせをするのも、キスをするのも、すべてがはじめてだった。そして高校生の頃の私をそこまで突き動かしていたのは、「知りたい」という欲求だった。「体験してみたい」という、強烈な、欲。
もちろん性欲からくるものもあったけれど、それ以上に、私は「知らないことを知りたい」という気持ちが強くて、それで恋をしてきたのだ。みんなが経験していないことを経験したい。みんなが経験していることだって、もちろん経験したい。

一つの事柄を通して、自分がどんな気持ちになるのか、自分が何を感じるのか、心の奥からどんな欲が、感情が浮かんでくるのかにとても興味があって、だからこそ私は恋をしたいし、いろいろな人に会いたいし、いろいろな仕事をしたいと思っているのかもしれない。

恋だけでなくなにごとも、経験してみないことには判断できなくて、ファーストキスみたいにずっとずっと憧れていたことが、実際にやってみたら全然面白くなかったとか、感動しなかったということもあるし、反対に、絶対にやりたくないと思っていたことなのに、やってみたら意外と得意だったとか、そういうことも、おそらく、ある。

恋というのは自分が執着するものに対してどんな態度をとるかとか、手に入れるためにどんな行動をするかとか、そういうものが全部浮き彫りになるから、案外恋話をするというのは、写経をするとか、ビジネスの講座に通うとか、ヨガをするとか、文章を書くとかと同じくらい、これまでの人生と向き合う作業になるのかもしれない。

 

 

ということで、過去の恋愛を掘り起こし、恋したい気持ちを復活させるための飲み物「生レモネードスカッシュ」、福岡天狼院の新メニューに加わります。

過去の恋を思い出すための「自白剤」のようなものだと思ってください。
甘酸っぱくて切ないファーストキスを思い出して、はちみつとレモンのシロップを作りました。
ジャーにたっぷりいれた生のレモンと炭酸で、過去の苦い恋も淡い恋も恥ずかしい恋も、ぜんぶすっきり洗い流してしまいましょう。

まずは店長である私が白状しましたので、さあ、次は誰の恋話を聞こうかしらとわくわくしています。

恋話のお供に。
暑い夏の日、お疲れ様の気持ちで一杯。

理由はなんでも結構です。
キスと別れの味の「生レモネードスカッシュ」、どうぞ召し上がってください。

 

 

天狼院の生レモネードスカッシュ
520円+税

 

 

*この記事は、天狼院スタッフの川代が書いたものです。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになると、一般の方でも記事を寄稿していただき、編集部のOKが出ればWEB天狼院書店の記事として掲載することができます。

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❏ライタープロフィール
川代紗生(Kawashiro Saki)
東京都生まれ。早稲田大学卒。
天狼院書店 池袋駅前店店長。ライター。雑誌『READING LIFE』副編集長。WEB記事「国際教養学部という階級社会で生きるということ」をはじめ、大学時代からWEB天狼院書店で連載中のブログ「川代ノート」が人気を得る。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、ブックライター・WEBライターとしても活動中。
メディア出演:雑誌『Hanako』/雑誌『日経おとなのOFF』/2017年1月、福岡天狼院店長時代にNHK Eテレ『人生デザインU-29』に、「書店店長・ライター」の主人公として出演。
川代ノートは月〜金の22時更新!

 

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