チーム天狼院

【「出来る後輩」への嫉妬】AKB卒業前の篠田麻里子が考えていたであろうこと《川代ノート》


自分なんかより、なんて賢くて、快活で、思慮深い子なんだろう。
こんな素晴らしい子に、私の記事が、文章が好きだと言ってもらえて、なんて光栄なことだろう。
涙が出るほど嬉しい。

でも、何が。
何かが、心のおくのどこかが、苦しい。

どす黒い感情が、笑顔の裏で、ふつふつと沸いてくる。

ああ、私はこの感情をよく知っている。

猛烈な、嫉妬。

マイク

数日前。

「あ、さき、この子だよ。この前言ってた、さきのファンっていう京都の子!」

すらりとした、かわいらしい笑顔の、いかにも聡明そうな女の子が、そこにいた。

「はじめまして!川代さんの記事、いつも読んでます。お会いできて嬉しいです!」

この前私が不在の時に来てくれた、私の記事を好きだという京都大学の女の子。東京でインターンをするので、また天狼院に足を運んでくれたらしい。

あの三浦さんの記事を読んで、電車で号泣するほど感激した私。実際にその子と会える日が、こんなに早く来るなんて!

びっくりして嬉しくて、ひとまず座って話をする。

「いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。あの、きかせて欲しいんですけど、私の記事の何が面白かったですか?」

そんなことをいきなりきくのは不躾な気もしたが、私の文章を好きだという人が、わざわざ会いに来てくれた感動で、舞い上がってしまって、他人からの評価が気になって仕方ない私は、さっそくそんなことをきいてしまった。

「前になにかの本で読んだんですけど。大人が書く文章は、自分は問題をこう解決したよ、というもので、子供が書く文章は、問題を解決できない、苦しい状況にあるもの、っていう。でも川代さんの文章は、その問題が解決できるかできないかの微妙なラインにいて、私のほんの少し先を歩んでいるのが、ぐさっとくるんですよね」

微妙なライン。
そうか。

私は今、乗り越えられるか乗り越えられないか、ぎりぎりの苦しみの狭間にいて、心にくすぶるどろどろしたものを記事にしているから、だからいつも、ひとつの文章を書き終えたとき、なんとも言えずすっきりするのか、と、その子の分析をきいて、始めて気づく。まるで他人事のようである。

私自身も気づかなかった、心の核心に触れてくれる彼女にいきなりびっくりする。

そこから、どの記事に共感したか、それに関する彼女の分析をきかせてもらって、話はどんどん膨らむ。初対面にも関わらず、まるで昔から親しい友人のように、誰にも話せなかったことまで、彼女にはすんなり話せてしまう。お互いに、価値観がとても似ている。この子となら、わかり合える。きっととても良い友人になれるだろう。直感的に思った。

気が付けば、彼女と話して、3時間も経過していた。

彼女と話すのは本当に面白い。どんな話題を振っても、明瞭で無駄のない、けれど人がなかなか思いつかないような答えがぽんぽん出てくる。彼女の話をきけばきくほど、私自身の考えも深まる。素直で、誠実に答える、さわやかな声。わからないこと、理解できないことについては、知ったかぶりなんかせずに、どういうことなのかきいてくれる。彼女の考え方も、思慮深く、自分が解明したことについては気が済むまで研究するのだろうという事がわかる。

主に私が記事で書いていたトピック、「失恋」とか「コンプレックス」とか「プライド」について、とことんお互いの考えを話し、共有し合う。

横で別の作業をしていた三浦さんが、私たちが「失恋」を熱く語っているのを見て、ひと言。

「じゃあさ、今の話ぜんぶ、記事にしちゃえばいいじゃん!『失恋』なんて、生産性が下がるし、無駄に思えるのに、世の中にはどうしてここまで『失恋』コンテンツが生まれてしまうのか。これ、面白いよ!三宅さん、書いてみない?」

「えっ!私も記事を書かせていただいてもいいんですか?」

「うん、もちろん。てか、遠隔インターン、やる?記事を投稿するインターン!」

「本当ですか!ぜひ、やらせていただきたいです!」

こうして、とんとん拍子に、彼女は天狼院のインターンに決まった。

私はといえば。
おお、いいねいいね、面白いよ、やりなよー、と言いながらも、内心、ドキッとした。

優秀な子が、後輩になる。

自分に憧れてくれて、ファンだとまで言ってくれていた子が、この三浦さんのたったひと言で突然、ライバルになる。

胸の奥で、ぐつぐつ、何かがわき出てくる音がきこえた。

こんなに思慮深くて、私なんかより本もたくさん読んでいて、京大で頭が良くて、今から就活の準備をしているようなしっかりした子に、勝てるのだろうか。

この子が、とても面白い記事を書いてきたら。
私は、ずっと彼女がファンでいてくれるような、記事を書き続けられるのだろうか。

私よりもずっと快活で、
私よりも話がうまくて、
私よりもいろんな知識を持っていて、
私よりもずっと、コミュニケーション能力があって。

私よりも。

私よりも私よりも私よりも私よりも私よりも・・・。

嫉妬。

そのぐつぐつという音に、簡単に名前がつけられる。

記事を書くときは、自分の気持ちを吐露できるから、すごくすっきりする一方で、いつもいつも、不安で仕方がない。

誰にも受けなかったらどうしよう。
全然アクセス数が稼げなかったらどうしよう。
バッシングされたらどうしよう。
ネタがつきたらどうしよう。

どんな仕事もイベントもこなす、優秀な他のスタッフたちを、焦りながらも必死で追いかけて、やっぱり追いつけないこともたくさんあって、それでもようやく自分に出来る事を、自分のアイデンティティを見つけたと思ったのに、もし、天狼院に必要とされなくなったら。

にわかには、自分のこの感情を、認められなかった。

素直で謙虚なこの子が憧れてくれるような「川代さん」は、こんなに醜い嫉妬の感情なんて、持たないはずだ。

焦り。
苦しい。
怖い。

自分も憧れるような長所をたくさん持っている素敵な子が、私を好きだと言ってくれることは、本当に心の底から嬉しいのに、その子が天狼院で活躍できる場を見つけたことを、素直に喜べない自分が憎い。

なんて私は意地汚いんだろう。
嫌いだ。
こんな自分、やめてしまいたい。

怖い。

怖い。

そのとき突然、AKBの総選挙のときの、篠田麻里子の姿が浮かんだ。

スポットライトの下、大勢の観客の前で、背筋を伸ばし、凛とした声で、堂々と話す、彼女の姿が。

どうしてだろう。AKBのファンだったことも、篠田麻里子のファンだったことも、一度もないのに。あのときの総選挙も、なんとなくテレビで流れていたから、見ただけなのに。

AKBのファン以外にも、大いに話題になった、2012年の総選挙でのスピーチ。

こんなにも素敵な順位をありがとうございます。
こうやってみなさんの温かさやありがたみを本当に感じられるのもこの総選挙だと思います。
私はこの総選挙が嫌いではないです。
自信があるからではありません。自信は無いですし、今日まで、この日が来るまでは凄い不安でした。
眠れない日もありました。だけど、こうやってみなさんの温かい声援と温かい気持ちがぶつかる今日の日を、この緊張感を味わえる今日を、自分にとっても凄い成長できる日だと思っています。

「後輩に席を譲れ」と言う方もいるかもしれません。
でも、私は席を譲らないと上に上がれないメンバーはAKBでは勝てないと思います。
私はこうやってみなさんと一緒に作りあげるAKB48というグループが大好きです。

だからこそ 後輩には育って欲しいと思ってます。
悔しい気持ちすごくあると思います。
正直私も今びっくりして、少し悔しいです。
でも、そうやって悔しい力をどんどん先輩、私たちにぶつけてきてください。
潰すつもりで来てください。私は何時でも待っています。

そんな心強い後輩が出てきたならば、私は笑顔で卒業したいと思っています。
最後に、この票数は今日までの私の1年間の評価ではなく、今日から来年までの
篠田麻里子への期待だと思ってます。
この、来年はもっともっと期待されたいと思ってますけど、この期待を胸に今日から頑張っていきます。
よろしくお願いします。

こんなことを言っては、なんておこがましいんだと、思われそうだけれど。

放送したばかりのときは、強い人だなあ、とか、カッコイイ先輩だなあ、と思っただけだったのに。
ああ、あのときの篠田麻里子の気持ちが、今ならほんの少しだけわかる。

汗水垂らして、何度めげそうになっても、上に行ってやろうと、人気メンバーになってやる、と努力して。
かわいくなろうと、自分に似合うファッションも研究し、自分だけの個性とキャラを確立して。

上に行こうとただ必死だったのが、だんだんと、自分だけでなく、大好きなグループ全体のことも考えるようになって。

努力して努力して、ようやく上り詰めたと思ったら、あとからあとから、優秀で人気の出そうな後輩達が、続々とやってくる。
今は目立たなくても、努力して磨けば光りそうな、魅力的な後輩たちが。

焦り。自信のなさ。不安。努力しなきゃ。頑張らなきゃ。
負けたくない。
人気がほしい。
総選挙で、上に行きたい。
センターになりたい。

でも、私がAKBを支えなきゃ。

本音を言えば、後輩達に、自分が今まで必死で確立して、守ってきた地位を奪われたくもないし、いつまでも自分が人気でいられればいいのにと思う。
自分を尊敬してきた、ずっと後ろを走っていたはずの後輩たちが、突然足が速くなって、気づけば、自分の真後ろまで迫ってきている、恐怖。

けれど、そんなことを言っても、時の流れをとめることはできない。
いつまでも自分がこのままでいても、AKBはもとより、自分だって成長しない。
魅力的なグループに、魅力的な人物に、「変化」というのはつきものなのだ。

上に行こうともがいている後輩達がいるならば、もっともっとそのお尻をたたいて、そのぶん自分は努力しなければならない。
もし自分が今以上に苦労することが目に見えているとしても、自分はここであえて、後輩にカツを入れよう。

たとえどんなに、自分が後輩達に嫉妬することになってもだ。
それは、「篠田麻里子」にしかできない、立派な役目だ。

 

彼女は、あんなにしっかりとしていて、後輩に怖い顔を見せていたけれど、多くの未来の明るい後輩たちに、嫉妬していたに違いない。
あんなに明確に自分の地位を、細かな票数で知らされて、嫉妬しないはずがないのだ。
断言できる。AKBみたいな状況にいて、嫉妬しない女なんて、ひとりもいない。

 

それでもきっと篠田麻里子は、AKB48というグループを愛していたからこそ、その嫉妬を乗り越えられたのだろう。
優秀な後輩たちが頑張ってくれることで、自分ももっともっと成長できると、そう確信したからこそ、「潰すつもりで来てください」なんて言ったのだろう。

 

 

もちろん、これは憶測でしかないし、篠田麻里子が本当にそんなことを思っていたとは限らない。もしかしたら嫉妬なんて微塵もしていなかったかもしれない。

でも、醜い嫉妬にまみれた私の脳裏に、そんな彼女の姿が頭に浮かんできたとき、やっと私は、気づかされた。

 

この子が来て、私が必要とされなくなったら、どうしよう、だって?

 

違う。
さき、よく考えろ。
これは紛れもない、チャンスだ。

 

彼女の考え方は本当に面白いし、興味深い。
きっと彼女にしか書けない、魅力的な記事を投稿してくれるに違いない。

もしかすると私は、焦って、もやもやして、筆が進まなくなるかもしれない。
ネタがつきるかもしれない。
私の記事はつまらない、と言う人が今よりさらにもっと増えるかもしれない。

 

それでもこれは、チャンスだ。

 

篠田麻里子だって、「潰すつもりで来てください」と言ったその翌年も、5位の順位をキープしたまま、涙を潤ませながらも、清々しい顔で卒業したんだから。

その一年でカツを入れられた後輩たちは、もっと努力するようになって、若い世代も自分の魅力に、磨きをかけて、AKB自体も、勢いを落とすことなく、エンターテイメントを発信し続けているんだから。

 

彼女はきっと、こんな私では及ばないくらいの努力も、苦しみも、嫉妬も経験してきたんだろうと思う。
あの言葉は、達観したからこそ出てくる、彼女の思いやり溢れる「つよがり」だ。

 

「後輩に席を譲れ」と言う方もいるかもしれません。
でも、私は席を譲らないと上に上がれないメンバーはAKBでは勝てないと思います。
私はこうやってみなさんと一緒に作りあげるAKB48というグループが大好きです。

 

こう彼女は言った。

AKBだけじゃない。どこだってそうだ。
人気のある大学も、成功する会社も、優勝するスポーツ団体も、どのチームも、この社会にある限り、社会全体の「競争」の大きな流れに逆らうことはできない。

そのなかで一流になれるのは、お互いがお互いを認め合った上で、競え合える、大切な仲間であり、ライバルがいる場所だ。

それぞれに強い個性があって、役割があって、お互いを認め合うことが出来て、信頼し合える、そのうえで、刺激し合い、競い合えるチーム。
天狼院がそういう場所になったなら、天狼院じたいも、社会の大きな競争のなかで、堂々と勝負できる。
ビジネスの事はよくわからないけれど、そんな気がする。

 

篠田麻里子のスピーチが突然私に浮かんできたのは、実際に苦しんで、思い悩んだ経験がある彼女の心のこもった言葉が、今の嫉妬で苦しむ私に本当によくつきささったからだ。

彼女の言葉で、ずっと力をこめてひねっていた固いジャムの蓋が、突然ふっと開いたような感覚があった。

 

これでいい。きっと。
私の嫉妬心が、すぐに消えることはない。新しく来る彼女だけではない、天狼院のスタッフにも、三浦さんにすら、嫉妬してしまう自分をすぐに消し去ることは到底出来なさそうだ。
でも、このモヤモヤした気持ちも、天狼院が発展するための、自分が成長するための肥やしにできるなら、思い切り受け入れてみよう。
コンプレックスがある人間ほど、きっと大きく成長できる。

 

そう思ってしまえば、今は、優秀な彼女や、これからもっと増えるであろうインターン生たちが来るのが、楽しみで仕方ない。
出来ないうちは、嫉妬を乗り越えることが出来なくてもいいのだ。人間なんだから、仕方ない。
嫉妬さえも自分の一部として、エネルギーに変えてしまえばいい。

篠田麻里子と、AKBと、私に同じ部分がある、と言うなんて、本当に恐れ多いのだけれど。

きっと篠田麻里子も、そう思っていたんじゃないかなあ。

大切なことを教えてくれて、本当にありがとう。

 

AKBを、ただのアイドルで、オタクの人達が好きなだけ、と見下していた自分を恥じよう。
彼女らはアイドルで、男に媚びているだけみたいに見えるけれど、でも、毎日必死に苦しみを抱えながら生きている。
誰だって、一見嫌な奴だとしても、嫉妬しながら、もがきながら、それでもなんとか上に行きたいと、努力しているのだ。アイドルでも一般人でも変わらない、みんな同じだ。

 

人はどんなことからでも努力さえすれば何かを学べるってね。どんなに月並みで平凡なことからでも必ず何かを学べる。どんな髭剃りにも哲学はあるってね、どこかで読んだよ。実際、そうしなければ誰も生き残ってなんかいけないのさ。

 

村上春樹の「1973年のピンボール」にあった言葉が、今こそ、じんわりと、心地よく胸に響いてくる。

【三宅香帆のデビュー記事】

あなたが失恋したときも、わたしがまた失恋したときも、きっと世界中の表現者がその想いをすくってくれる。《三宅のはんなり京だより》

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2014-08-18 | Posted in チーム天狼院, 記事

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