チーム天狼院

大好きな従姉が結婚した。《川代ノート》


大好きな従姉が結婚した。

子供の頃から憧れてやまない従姉だった。一人っ子の私にとっては最も若い「大人」だった。いつも私の目の前には彼女がいて、私は何をするにも彼女の真似をしていたような気がする。

六つ上で、私を本当の妹のように可愛がってくれた従姉。彼女のウエディングドレス姿は、今までに見た誰よりも輝いていて、美しくて、私は涙が止まらなかった。
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埼玉に住んでいるから、私の家とは二時間くらいかかる距離だった。小学生の頃までは頻繁に会って一緒に遊んでいたけれど、最近では会えるのは盆と正月の二回のみ。毎回会うたびに、彼女の話をきくのが楽しみだった。

私にとって従姉妹というのは、不思議な関係で、近すぎもせず、遠すぎもせず、距離があったからこそ話せることもたくさんあった。
六歳の差は、冷静に考えてみると大したこともなく思えるけれど、幼い私にとっては、追いつきたくても追いつけない、どこかじれったいような長い階段を登り続けているような感覚があった。

彼女には人を惹きつける力があった。本人は自覚はなくてちっとも意識していないどころか、褒めようものなら「私なんて・・・」とすぐに謙遜するようなタイプ。でも妹分の私からすれば、彼女に憧れる要因は年齢のみならず、いたるところに表れていた。

人を楽しませる話をするのがとても上手なところ。
一度決めたことは徹底的にやり通すところ。
きちんと自分がやるべきことへの優先順位がつけられるところ。

 

根性と度胸がある私の最強の伯母の血が入っているだけあって、彼女は強くて賢く、しっかりしている従姉だった。おまけに面倒見がよく、いつも私に面白い話をしてくれたり、幼い私が知らないこともたくさん教えてくれた。両親が教えてくれないようなデリケートなことも、歳の近い彼女が教えてくれたこともたくさんあった。

いつも従姉は「しっかりしているから大丈夫ね」と言われていたのに、ぼーっとしている私は「あなたはちゃんと一人で生きていけるか心配」と両親や親戚達を不安にさせてしまっていた。

別に比べられていたわけではなかったのだろうけど、私にはそれが暗に「従姉よりもお前は駄目な子だ」と言われているような気がしてしまって、無意識のうちに従姉に追いつこうと張り合うようになっていた。

 

彼女に憧れて絵を描くことが好きになった。
彼女に憧れてダンスをやりたくなって、中学でダンス部に仮入部したけれど、あまりにリズム感がなさすぎて断念した。
彼女に憧れて恋愛をしたくなった。

 

けれどそのうちに、ただの「憧れ」は、「羨望」に変わり、「羨望」は「焦り」に変わり、「焦り」は嫉妬へと変わった。

 

自分が彼女と違うところにばかり目を向けるようになった。
彼女のようにうまくいかないことがあると、とてつもなく寂しい気持ちになった。

チアダンスの世界大会に出場して、親や祖父母、親戚一同を喜ばせている彼女の一方で、私に誇れるものなど何もなく、ひたすらに「どうして自分は彼女みたいになれないのか」と、変に憧れをこじらせた嫉妬に気付かぬふりをして。
彼女になくて、自分にあるものを探そうとした。でも見つからなかった。彼女には適わないような気がした。

 

運動が出来なかったので、なら勉強で、という単純な発想で、自分にとっては限界以上とも思えるレベルの大学受験に挑戦したのは、「自分にも従姉とは違う方法で頑張る力がある」ということを証明したかったからかも知れない。だから受験に合格してようやく私は、「従姉のコピー」ではなく「自分自身」になろうという決意が固まったのかも知れなかった。

 

私の目の前にはいつも従姉がいた。

私には従姉という追いかけるべき目標があった。

私が「どうしても彼女には適わない」という想いを抱いていたとしても、彼女は憧れるような人生の指標を、道程を、無意識にせよ私の目の前にいつもひいてくれていた。迷ってどうしようもなくなったとき、どっちに進めばいいかわからなくなったとき、目をこらして見えるのは、ずっと遠くを走っている彼女の背中だった。

 

本人も家族も親戚も、誰も気が付いていないと思うけれど、いつも彼女に猛烈に嫉妬していた。自分が追いつけないその分だけ、いらいらしたし、自信もなくなった。
別に周囲の人間は、私と従姉を比べているわけでは決してないのに、私自身は勝手に自分と従姉を比べて、追いつけないところばかり数えて。

 

でもそれでも、追いかけるべき背中があった。私には「真似をしたい」と思える人生があった。
それは「こうなりたい」と思える姿や人物がいない人生よりも、手探りのなか、自分一人で道を見つけていかなければならない人生よりも、ずっと先が見えない苦しみは少なかったはずだ。

 

私の周りには、憧れて、真似したくなるような人ばかりがいて。
目の前には、暗闇を光を照らしながら走ってくれる背中が、追いかけたい背中がたくさんある。

その事実に、私は気がつけていただろうか。充分に感謝できていただろうか。どれだけ私は、この階段を独りで上っているような驕りを抱いていたのだろう。

 

自分の周りに魅力的な人がたくさんいる事実。嫉妬も憧れも焦りも感じてしまうような人ばかりの環境。

それを「みんなに比べて自分はなんて駄目だ」と、卑屈になってばかりいる自分とそろそろ決別するべきときじゃないだろうか。
「みんなより劣っている自分」を嘆くよりも、「憧れる人が周りにたくさんいてくれる自分」に感謝する方が、よっぽど幸せだ。

 

私も、私が私だけの方法で幸せになることを、そろそろ許してもいいのかも知れない。

 

 

従姉がしゃんと姿勢を伸ばし、純白のウエディングドレスに身を包み、涙ぐんでしまうのをこらえながら、複雑そうな顔をした伯父の手を離して旦那様の待つ十字架の前に立とうとするその美しい姿を見て、ハンカチで目元を抑えながら私はそんなことを考えていた。

 

私が二十一になった今でも、憧れさせてくれる従姉の背中がそこにはあった。

 

「健やかなるときも、
病めるときも、
喜びのときも、
悲しみのときも、
富めるときも、
貧しいときも、
これを愛し、
これを敬い、
これを慰め、
これを助け、
その命ある限り、
真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「はい。誓います」

私は、あとからあとから溢れる涙に安心してしまっていた。

 

だってこの涙は、羨望も焦りも嫉妬も何もない、私から従姉への、純粋な感動と祝福の証だ。

 

きっと私はようやく、素直に「憧れている」と言うことが出来る。

 

努力家で、面白くて、面倒見のいい大好きなお姉ちゃん。

結婚、おめでとう。

 

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2014-10-06 | Posted in チーム天狼院, 記事

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