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川代ノート(READING LIFE)

【福岡天狼院の新メニュー】なぜこれほどの豚汁を作る女に彼氏がいないのか?《川代ノート》


 

記事:川代紗生(天狼院スタッフ)

 

福岡天狼院店長の川代です。

「福岡天狼院の豚汁って、めっちゃ美味しいよね?」

先日のことです。
店主の三浦がしみじみとそう言いました。

三浦は、嘘がつけない性格です。
思ったことははっきりと言うし、我慢できないことがあれば全部口に出るタイプです。

三浦はご飯の味にもわりとうるさい方で、常に池袋、福岡、京都を飛び回りながら働いているせいか、各地で美味しいご飯屋さんを発見しては、「あそこの肉は微妙だった」とか「あのうどん屋は絶対にまた行きたい」とか、あれこれ言っているのですが。

「美味しいですよね、普通に」

「いや、うまいんだよな、なんか最近、他の定食屋さんの豚汁食べても、物足りないと感じるようになってきて」

そう、言うのです。
三浦が。そう、言うのです!!

意外でした。私も美味しいと思ってはいたけれども、わりとどこの定食屋さんで食べる豚汁よりクオリティ高いよなと思ってはいたけれども! 我が店可愛さにそう感じているだけじゃなかったとは。

豚汁は、今年の夏から販売を開始しています。
福岡天狼院では、リニューアルに合わせてランチの販売を開始していて、バターチキンカレーを皮切りに、和食メニューもあったら嬉しいよねと、「豚汁とおにぎり」セットを出すことにしたのです。

とはいえ、福岡・天神は日本屈指のグルメタウン。
美味しい定食屋が軒を連ね、東京なら2,000円はくだらないような食事が1,000円以下で食べられるという恐ろしい街です。

そんな街で勝負をするのだから、一工夫あるメニューを出さないと、と思ってデビューさせたのが、バターチキンカレーでした。
これは、私が元彼を落とすために考案した一世一代の「得意料理」で、一般人ながら熱心な研究が身を結んで思いのほかハイクオリティなカレーができてしまったという代物なのですが。

ランチメニューとして、カレーの対抗馬となるメニューをひとつ、出してもいいのではないか? という話になったときのことです。

「でも、私カレー以外に店で出せるレベルのレシピないしなぁ……」
「うーん。そうですねぇ。じゃあ豚汁とかどうですかね?」
「豚汁?」

言ったのは、スタッフのくみこでした。生まれも育ちも福岡のくみこ。素直で純粋で、粘り強さがあり、私もよく頼りにしているのですが、のんびりしているくみこに、料理をしているイメージがわかない。まったくわかない。

「くみこ、豚汁作れるの?」
「あ、はい。うちで作ってるのでよければ」

大丈夫か? と半信半疑ながら、せっかくのスタッフの申し出を断るわけにもいきません。

かくして、くみこの「家の味」だという豚汁の試食会を行なったのですが。

 

「……え、ちょっと待って。多くない?」

そう。
そうなのです。
多いのです。
圧倒的に。

「え? 何がですか?」

「いやいやいやこれ多いでしょ! 肉も!! 野菜も!!」

驚いてツッコミを入れる私にくみこは何を言っているのかという顔で見てきます。どうやらふざけてやっているわけではなさそうです。

いや、でも、おかしいでしょ。
あきらかにおかしい。

多すぎる。とにかく多すぎる!

私は盛り盛りになった鍋を見て動けなくなりました。
とにかく、すべての量が多すぎるのです。
これでもかとばかりに盛られた肉の山はぐつぐつと煮えたぎる鍋のなかで必死に自己主張をしています。大根と人参の間から、そこかしこから顔を出しています。あれ? 豚汁ってこんなに豚肉の主張激しかったっけ?

「しかも、これ、なんで白菜入ってるの!?」

「えっ、入れませんか? 白菜」

東京出身の我が家では白菜を豚汁に入れるイメージなど微塵もなかったのですが、くみこ式豚汁には白菜が山盛りに。白菜がしなしなに、柔らかくなるまで煮詰めてあります。こぼれんばかりの白菜。これ豚汁じゃなくてもはや味噌味のしゃぶしゃぶじゃないの?

しかも! 入っている豆腐ときたら、木綿豆腐でも絹ごし豆腐でもない、厚揚げ豆腐なのです。厚揚げ豆腐ってそんなスペシャルなものをあんた……と考えている間に、くみこはおだしを入れ、白味噌を入れ、豚汁を完成させました。

「どうですかね〜、豚汁〜」

どうですかね、もなにも。
器いっぱいに盛られた豚汁。もうこれ「具沢山豚汁」とか言えないレベルだろ。「具沢山豚」だろ。野菜と肉が主張しすぎてて「汁」の行き場がなくて居心地悪そうだもん。

くみこから出された豚汁からは、ふんわりと柔らかな白味噌とおだしのにおいがします。あ、これ忘れてました、と柚子胡椒を持ってくるくみこ。柚子胡椒を豚汁に少し入れると、まろやかな中にスパイシーな香りがして、食欲をそそります。

「いただきます」

ずず、と汁をすすろうとするも、いかんせん具が多いので、なかなか汁が口の中に入ってきません。おい、がんばれ。がんばれ汁! もうちょっとこっちにこれるはずだ、肉に、大根に、白菜に、人参に、厚揚げに負けるな、負けるなって。ああ、と思いつつも、やはり、あまりにも多い肉と野菜が私の口の中をかき乱します。豚肉よ、お前はどこまでくるのか。もう我慢できず、豚汁の中でも一番大きい肉片を食らいます。ああ、美味しい。美味しいんだって。だから。美味しいんだってば。どうしたことでしょう、東京の定食屋や牛丼屋やファミレスやコンビニで食べる豚汁と言ったら、豚汁と言いながらも小さなお肉が3枚、よくもこんなお情け程度の肉で「豚汁」なんて言えたもんだなと怒りたくなるほどの代物が出てくるのが常ですが、これは違う。食べても食べても肉。豚肉。白菜。とうふ。白菜。大根。豚肉。柚子胡椒。豚肉。とうふ。
あー、もう、なんだよこれ。なんだよ、なんなんだよ! やりすぎなんだよ! しかも当のくみこときたら、これを当たり前だと思っている。当たり前だと思っていやがる。これだけたっぷりの!! 肉と野菜を!! てんこ盛りにすることが!! 当たり前だと思っているのですよこの子は!!

恐ろしい!! そのとき私は気がつきました。これが博多美人の恐ろしさなのです。博多に来ていろいろな人に出会いました。いろいろな人と恋話をしました。そして博多美人たちの多くが、恋がうまくいかないと悩んでいました。彼氏ができないのだと。高望みしてないのに。

いや、もしや博多美人の恐ろしさというのはこれなのでは!? 自分の価値に気がついていないことこそが最大の弱点なのでは!? だってそうですよ。東京の女なら肉たった3枚しか入っていないくせに目一杯「超高い女」に見せようとマウンティングするのに、博多の女子というのはポテンシャルは超高級のくせに自分はそこらへんの屋台のラーメンと同じくらいの価値しかないと思って「私なんて全然……」つって500円で出しちゃったりするんですよ!

「え? これって普通じゃないですかね〜?」

のんびり言うくみこも彼氏がおらず(まあ本人もそこまで気にしていないのですが)、顔もお人形さんみたいに整ってるし、色白だし、三浦に「顔がコンテンツ」と言わしめたくらいなのです。東京にいたら確実に引く手数多なのに!

わかってくれ! 自分の価値をわかってくれ! じゃないとなんか悲しくなる! 福岡離れたくなくなる! このスーパー待遇から逃れたくない! 肉てんこ盛り生活から肉3枚の生活に戻ったら私の精神が持たない……!

ああ、わかりました。
私は気がつきました。

これが福岡ブラックホールなのね。

東京から来た男が東京に戻れなくなると言う噂の「福岡ブラックホール」とは、こういうことなのね。

そう、福岡という街は、博多女子は、やりすぎなのです。
そしてそのやりすぎが心地よいのです。

まるで桃源郷のように、疲れた心を癒してくれ、「もう〜〜やりすぎだよ〜〜そこまでやらなくていいよ〜〜」とニヤニヤしながら言いたくなるほどに、てんこ盛りのサービスを、愛情を注いでくれる。それも天然で。無自覚に。

 

「これ、めっちゃ美味しいわ。出そう」

「え〜ほんとですか〜? やった〜」

さて、こうして私の心の中の葛藤をのりこえ、福岡天狼院の土日限定メニューになった豚汁でしたが。

なんとこの度、大人気につき、常駐メニューの仲間入りをはたしました。

理由は簡単です。私が毎日食べたいからです(超不純な動機)。

ああ、なんて罪深き福岡。
なんて罪深き豚汁。

なんだか妙な罪悪感を、背徳感を覚えているのはなぜなんでしょうか。

ここまで東京をディスってしまったからでしょうか。

まさか、女でありながら、まるで現地妻にどっぷりハマった不倫男のような気持ちになるとは、思ってもみませんでした。

はあ……。なんかもう怖いよ、福岡。

 

 

えー、はい。ということで、明日から、福岡天狼院にて、「やりすぎ豚汁」が常駐メニューとなります。

博多女子・くみこ作。まさかの美味しさ、まさかの満足度です。

とにかく「やりすぎ」な豚汁、東京から来た男性陣には、とくに食べていただきたいと思います。

寒くて凍えそうなこの冬、おためしあれ!

 

やりすぎ豚汁(安すぎる!! まったくもう!!)

豚汁単品:600円/豚汁おにぎりセット:800円/ドリンクセット1,000円

 

❏ライタープロフィール
川代紗生(Kawashiro Saki)
東京都生まれ。早稲田大学卒。
天狼院書店 池袋駅前店店長。ライター。雑誌『READING LIFE』副編集長。WEB記事「国際教養学部という階級社会で生きるということ」をはじめ、大学時代からWEB天狼院書店で連載中のブログ「川代ノート」が人気を得る。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、ブックライター・WEBライターとしても活動中。
メディア出演:雑誌『Hanako』/雑誌『日経おとなのOFF』/2017年1月、福岡天狼院店長時代にNHK Eテレ『人生デザインU-29』に、「書店店長・ライター」の主人公として出演。

 

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」木曜コース講師、川代が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2018-11-05 | Posted in 川代ノート(READING LIFE)

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