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ライティング・ラボ

【私的福岡】 福岡の登山事情


私的福岡

記事:Ryosuke Koike(ライティング・ラボ)

心が病んでくると、山の緑、そして風に癒されたくなる。

私は緑を求めて、「山」のふもとにいた。
鉄のゲートをくぐり、緑の回廊へと入る。
背丈ほどの高さの植物たちに囲まれた道を、ジグザグに行ったり来たりしながら、徐々に登っていく。一足、一足、ゆっくりと。
登山道は人ひとり通れる幅の場所もあれば、カップルが手を繋いで歩ける広さの部分もある。
都会の喧噪は遥か遠く、緑の壁が私を包み込む。通る傍の滝から流れる水の音、住人である虫たちの声、そして私の息遣いが混じり合って耳に流れこんでくる。
コの字型に折り返すたび木々の間から漏れる風景は変わっていく。

しばらくして緑色の道を抜けると、急に視界が開け、色彩が緑色から青色へと変化した。登り終えた空間に心地よい風が吹き抜ける。これなら途中でかいた汗もすぐに乾きそうだ。
登ったのはこれで3回目だろうか。前回登ったのは、いつの頃だったか……

福岡市はコンパクトシティといわれる。地下鉄や都市高速など交通機関は整備され、空港も都心部から近い一方、海や山といった自然も意外と近い。イギリスの雑誌の「世界で最も住みやすい都市」ランキングで10位にランクインしているのも、このような住みやすい環境が評価されているのかもしれない。

山の話をするなら、福岡市の南部には「油山」がある。気候のいい季節には油山の「も~も~らんど」で、取れたての牛乳を飲むのもよし、ソフトクリームを食べるのもよし、ビール片手にバーベキューするのもよし、動物と触れ合うのもよし。都会で過ごすものとは異なる時間を過ごすことができる。

しかし、油山よりももっと近く、都心部である天神に、緑に囲まれた「山」がある。
地下鉄天神駅の出口から歩いてなんと「0」分。山の「内部」にはコンサートホールや会議場もある。パスポートの発給所さえある。

福岡市役所の斜め前と言えば、市民であれば誰でも知っている。だから名称は伏せる。
関東圏から来た人には、機会があれば一度登ってほしい。ただし、雨の日のほか登れない日があるので注意が必要である。

思い出した。
15年前、高校の卒業旅行の帰りに登った時のことを。
11年前、就職したときに出会ったばかりの同僚と登った時のことを。

大学受験に就職活動。ひたすら塾や試験に打ち込む日々を通ってきた。
大学生に社会人。これまでとは違った生活が待ち受けていた。
今になって考えると、不思議と人生の節目に登っている気がしてきた。
これまでの環境では見えなかった世界、出会えなかった人達、味わえなかった感情。

登り終えた私は北の方角を向いてみた。空はどこまでも澄み渡り、海の中道まで眺めることができる。反対側は都市の街並みがどこまでも続いていた。

太陽の光が照り付ける。けれど、吹き抜ける風のせいかそれほど暑くはない。
辺りを見回しても、私のほかには誰もいなかった。
立ったまま目を閉じてみる。
風だけが通り過ぎる時間に身を委ねてみる。そうすると頭の中の得体のしれないもやが少しずつ晴れていった。

一歩一歩足を前に出して登るのも、日々の課題に少しずつでも取り組むのも、同じだ。
そして登り切ったとき、新しいステージが待っている。
今日登ったのも、苦難を乗り越え人生の次なる節目が訪れたからに違いない。
新しい環境。新しい仲間。新しい仕事。ストレスを感じているし、大いに不安だ。けれど、それ以上に素晴らしい景色や出会い、体験が待っているはずだ。

急に体感温度が下がる。同時に轟音が頭の中に飛び込んできて我に返る。頭上を今にも着陸しようとする飛行機が通り過ぎていった。

ふもとからイベントの開始を告げるアナウンスが聞こえてきた。
北海道展? B級グルメ? 今日は何のイベントだったか。

私は「山」を下りた。
ふもとから見上げると、階段状の「山」が私を囲むように見下ろしている。

人生であと何回「登る」ことがあるだろうか。

食欲を誘う香りが鼻にどっと攻め込んでくる。
考えるのは、やめた。

***

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2015-06-12 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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