ライティング・ラボ

フランスのレストランで英語を話してはいけない理由


 

記事:楠田誠一(ライティング・ラボ)

 

「フランスのレストランで不愉快な思いをした」

 

なんだか、そんな記事をここのところ、いくつか私は見かけた。

 

ひとつは、ある芸能人の女性だ。
ややおばさんのタレントで、そこそこかなり有名な方だ。

 

なんでも、彼女がフランスのレストランに入ったときに、30分以上も注文のオーダーをウェイターが聞きにきてくれず、待ちぼうけを食らったというものだ。

 

もう、ひとつは、これもまた有名な男性タレントである。
彼は、フランス語もしゃべれるという。
なのに、レストランに入ったときに、窓際を希望したにもかかわらず、奥の席に追いやられたという不満。

 

私は、この二つを聞いて、少し怪訝に感じた。

 

私は、何度もフランスには行っているし、25年以上前の話にはなるが、学生時代にパリに1カ月間、留学ならぬ遊学として、パリの大学学生寮に滞在した経験を持つが、いままでにフランスで嫌な思いをしたことはない。

 

だからなおさら、彼らの方にいくらかの落ち度があったのではないかと感じてしまうのだ。

 

いくつか想像できることがある。

 

私は、外国人の短期ホームステイを受けていて、164人の受け入れ経験があるが、その中でもダントツ、フランス人38人を泊めている。

 

フランス人の特性をほかの人よりは、いくぶん理解しているかもしれない。

 

まず、日本人には理解しがたいかもしれないが、自分の国をとても誇りに思っている。

 

日本人の多くは、あまりわが国に誇りを持って生きているとは言いがたい。

 

であるから、フランス人は、自国の言語であるフランス語をとても愛しているのだ。

 

そこをまず理解していなければならない。

 

どういうことかと言うと、フランス人に会ったら、まずフランス語!なのだ。

 

「ボン・ジュール!」(こんにちは)
もう、これを第一声に発するだけで、相手のフランス人の対応は、まったく変わってくる。

 

日本人だって、外国人の方が一所懸命に挨拶で「コ・ン・ニ・チ・ワ!」と片言で言ってきたら、素直に嬉しいものではないか。

 

少なくとも、レストランやカフェに入るときに、ウェイターさんに、「ボン・ジュール! ムッシュー!」と言って声をかけて嫌な顔をされることはないはずである。

 

お、このアジア人は、好感が持てるなぁと思ってもらえるはずである。

 

日本のレストランやカフェでは、店員さんの中で気がついた人が、注文を取りにきたり、料理を運んだり、会計をしたりするものだが、フランスでは、ひとりひとりの担当テーブルが決まっているので、最初に顔を合わせたウェイターさん以外の人が、何かをするというのはありえないのだ。

 

彼が注文を受け、料理を運び、会計をする。

 

そこを間違ってはいけない。

 

彼らは担当するテーブルのチップの上がりも飯の種にしている。

 

できれば、全部ではなくていいから、英語だけで注文をするのではなく、知っているフランス語は、話しまくったほうがいい。

 

なにか頑張ってフランス語を使おうとする姿勢が大切なのだ。

 

それを全部英語で済ませようとすると反感を買う。

 

彼らは内心こう思っている。

 

「ここは、フランスですよ。お客様。なるべく英語は辞めてくださいね」と。

 

私も、昨年フランスの観光地にいって、これをやってしまっていた。
観光地だから、観光客慣れしているだろうと、英語で注文を進めてしまっていた。

 

なんだか、ウェイターさんの態度が、冷たいというか、つっけんどんだなと
感じていて、途中からフランス語に切り替えた。

 

そうしたら、掌を返したように、親しみを込めて話してきた。

 

まったく態度ががらりと変わって、急に親切になったのだった。

 

あぁ、そういうものかと思った。

 

「ウィ(はい)」でも、「ノン(いいえ)」でも、
「シルブ・プレ(お願いします)」でも、可能な限りフランス語を
話したほうがいいのだ。

 

あとは、日本人がよくやってしまいがちなのが、「すいませーーーん!」と、店員さんを大声で呼んでしまうこと。

 

これは、マナー違反になる。

 

ウェイターと目を合わせたら、軽く手を上げて彼を呼び寄せればよい。

 

食事を楽しむ人々にとって、周りに聞こえるように大声を張り上げるほど、みっともないものはないのだ。

 

例の女性の芸能人が、なかなか注文を取りに来なかったと不満を述べた。

 

フランスでは、メニューに日本のように写真が載っていない。

 

食前酒を楽しみながら、パートナーとメニューをああだこうだと決めていくのも楽しみの一つなので、入店してから注文まで20分以上なんてザラにある。

 

メニューを決めていくのも食事の時間のうち。

ファストフードではないのだから時間に追われて食事するということであってはならない。

 

いつまでも、注文を聞きにこなかったのは、メニューの本を閉じていなかったからかもしれない。メニューを開いていたら、まだ考え中と思われたのかもしれない。

 

店の奥に追いやられてしまった彼も、入店前に交渉すればよかったのだ。
交渉が成立しなかったら、その店を辞めて他に行けばよい。

 

その店に対して、あとから不満を述べるのも、なんだかなぁと思う。

 

会計のときのサインは、日本のようにバッテンではない。
手で何かを書くしぐさ。
「ラ・ダシオン・シルブプレ!」と言えば完璧。

 

「ラ・ダシオン・シルブプレ」はね、「カイケイ、オネガイシマス!」だよ!と、私はフランス人と一緒に日本で食事にいくときに教えている。

 

おぉ、とよく言われる。

 

よくその言葉を知っていますねと感心される。

 

自国の言葉をなるべく話す人を悪く思う人はいない。

 

フランスに行ったら、なるべく英語を話さないように。

 

これが、フランスを楽しむ第一歩である。

 

 

***

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2015-07-22 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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