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メディアグランプリ

自分の気持ち。大切にしていますか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福井貴久子(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「えー、かわいそう・・・」
いつからだったか。悲惨なクジラの写真がSNSのタイムラインに、流れるようになった。
切り裂かれた胃袋にはプラスチックごみが溢れんばかりに詰まっていた。
次の写真は、鼻の穴にプラスチックのストローが刺さったウミガメ。
そのまた次は、レジ袋をクラゲと間違えて食べて死んでしまったイルカ…。
 
 
「もう、たくさんだ」
飽き飽きしてお昼を買いにコンビニに行くと、サンドイッチとジュースとストローがレジ袋に慣れた手つきで入れられる。変わらない日常風景には、疑問を挟み込む余地もない。そのプラたちの行く末がどうなっているのか知らないのだろうか。さっき見たクジラの写真の残像との違和感。世界は変わっているのに、人間たちの変わらない習慣…。
 
 
もやもやした気持ちを抱えたまま、私は海の話が聞けるというとイベントに行ってみることにした。
 
 
そこで冬にもかかわらず日焼けした、ニコニコ顔のおじさんと出会った。
武本匡弘さん。プロダイバー歴40年のベテランだ。ご近所にいそうで親切そうなおじさんは、ゆっくりとかみ砕くように会場の若者たちに語りかける。お得意の笑いも取り混ぜながら。
 
 
しだいに、語りに熱を帯びてくる。
「この20年で、海がすっかり変わってしまった」
「世界のサンゴは7割前後が、すでになくなったんですよ…」
会場はしんと静まり返り、武本さんはがっくりと肩を落とした。プロダイバーとして海からサンゴ礁が失われることは、何を失うより耐えがたいことにちがいない。
 
 
次に2枚の写真を比べて見せた。1枚は、色鮮やかな熱帯魚が戯れる40年前の美しいサンゴ礁の写真。もう1枚は今のサンゴ礁。いや元サンゴのあった海底だ。魚もいなければ、サンゴ礁もない。白化した残骸の映像がスクリーンに映し出される。
 
 
「あぁ。やっぱり…」。期待通りの無残さにため息が広がった。
ことさら海を愛する訳でもない私でさえ、命が失われたことの喪失感というか罪悪感で胸がぎゅっとなる光景。これが世界各地の海底で起きているとしたら…。私たち人間が生き続けていけなくなる日も来るに違いないと、薄気味悪ささえ感じるのだった。
 
 
途中、20代くらいの女性が質問をした。就職したけれども体調を崩し、今は休職しているという。「プラを使わない暮らし方を模索して頑張っているのですが、1人で焦っても孤立している感じで。何から始めたらいいのでしょう」。ちょっと線の細い感じのその女性は、海のゴミ問題に心痛めていろいろ努力しているけれど、周りの人たちと共感できずに孤立しているようだ。
 
 
そう、私も身に覚えたある。1人で「環境を守ろう!」と言ったところで、自分を孤独に追い込む結果となる。「それいいねー」とか「ここはこうじゃない?」といった会話を期待しても、「へー」という返事がいいところ。たいていは無言。悪くするとその友達は去っていく。
 
 
違う考え方を互いに受け入れて、新しいアイデアを生み出すような会話がほしい。「あの人は変わっている」というレッテルはほしくない。何度、私もそう思ったことか。
 
 
でも今は、SNSやインターネットのある時代だ。世界中の同じ考えの人とつながれる。何よりこのイベントの同じテーブルの人たちと交流できる。聞けば、みんなSNSの情報をたよりに一人でこの会場にやってきていた。お互いに欲しい共感が得られるはずだ。私もテーブルの複数の人と、「このイベントはなぜ来ようと思ったのですか?」など、同じもやもやした思いを共有して救われたと感じた。「あぁ仲間がいた」と。
 
 
武本のおじさんは続ける。
「ニュージーランドとかにある『ヌードストア』、皆さん知ってますか? 別に店員さんが裸で立ってる訳ではありませんよ(笑)。プラスチックの包装のないお店のことです」
 
 
武本さんは、太平洋を航海して海の危機を伝えるだけでは飽き足らず、代替案としてのビジネスを自ら始めてしまったというから、このおじさんはただ者ではない。
 
 
藤沢に日本初のバルクストア(量り売りのお店)を昨年、立ち上げた。せっけんベースのシャンプーやナッツなどの量り売りのほか、プラスチックフリーの商品を販売している。おすすめは、ラップの代わりに何度でも洗って使える「みつろうラップ」だそうだ。
 
 
それでいて、海岸の漂流プラの製造元を調べるイベントや、沖に出てマイクロプラスチックを調べる海洋調査体験会なども並行して行うなど精力的だ。なにより、楽しそうにやっているところがいい。
 
 
武本さんは言う。
「誰でも環境活動家になれる」と。
 
 
周りの人に安易に共感などしてもらわなくてもいいじゃないか。海の異変を知って伝えて、自分の生活習慣を変えることも、立派な環境活動だ。それをSNSで発信すれば心に響く人たちと必ずつながれる。
 
 
自分の気持ちを素直に認め育てていこう。周囲から浮いていることを自分のせいにして苦しまないでほしい。武本おじさんのように、楽しそうに取り組んでいれば、いつか人は自然と興味をもってくれるかもしれない。何せ海の状況は一刻を争うほどなのだ。
 
 
はじめは奇異の目で見られていたことが、あるとき共感の波が膨らみ「クリティカルマス」に達すると社会を動かすといわれる現象だってある。「百匹目の猿」とも言われるものだ。
 
 
気付くと、その線の細い休職中の彼女に、昔の孤独を感じた自分を重ね合わせていた。
「大丈夫、あなたは一人じゃない。みんなでつながろう」
細い背中に向かって、ありったけの応援の念を送った。

 
 
 
 
***
 
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2020-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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