メディアグランプリ

副音声は心の灯だ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:関口 早穂(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
紅白歌合戦に副音声があるのは、ご存じだろうか。
「裏トークチャンネル」として、テレビの音声切り替えを行うことで聞くことができる。副音声を使って、ちょっとゆるめの実況トークを繰り広げるというコンテンツである。歌手やゲストが乱入してくることもある。
 
 
これが、実にうるさい。
 
 
2019年、令和最初の紅白の副音声担当は、南海キャンディーズの山里さん、渡辺直美さん、そして杉浦友紀アナウンサーである。
この3人の実況コメントは、芸能人とNHKアナウンサーなのに、ミーハーな中学生である。ゲストと共に、本当に好き勝手言って盛り上がる。
 
 
「私この歌手のファンクラブ入ってたんです!だから楽しみなんです!」
と意気揚々に言うアナウンサー。
実況をサポートする立場ではないのか、と思わずツッコミを入れたくなる。
 
 
アイドルが出れば、キャーキャー言ったり、奇抜な衣装をいじってみたり。歌手が歌っている中でへんな合いの手を入れて盛り上がる。視聴者はついて行っているのか、と最初のうちは心配になった。だが、さすがだ。もうめちゃくちゃだが、ミーハー具合が丁度よく、親近感が湧く。どんどんその調子に飲み込まれていく。
 
 
「今の面白かった!やっぱあのグループは裏切らないわ。俺大好き」
 
 
「Liveって出てないってことは録画なのかな」
 
 
「わ、この人は野外で歌うんだ、寒そう」
「これどこ?どこどこ?夜景やばいね」
「え、渋谷?渋谷も新しくなったよね」
「いやー寒そうだけど、ピンクのダウン似合ってる」
「この人しか着こなせないね」
 
 
こんな調子で、歌そのものや司会者やアーティスト達の話す言葉が聞こえないくらい副音声が盛り上がる。何なら、一緒に歌ってしまって本家の歌が聞こえない。
 
 
実にうるさい。
 
 

「ちょっと!次聴きたいんだからだまっててよ!」
と言うのに、全くお構いなしで好き勝手言ってくる家族と同じだ。
 
 
副音声では「このアーティストはさぁ……」と突然豆知識が披露されることもある。逆に、とっても引き込まれる歌の時には、副音声チームも固唾をのんで見守っているらしい。実況トークなのに全然しゃべらない。
これも家族でいきなり1番芸能には疎いお父さんがいきなり知識を披露してくるのとか、同じ曲を聴いて同じ時を共有して、各々が感動している、あの瞬間と同じだ。
 
 
いつもは実家に戻り、普段はバラバラに暮らしている家族が、その時ばかりは集まっている。机や座布団は足りるのかとか、お風呂の順番がどうとか、先に神棚にお参りは済ませたのか、とか少々面倒なやり取りを超えて、夜の7時15分を迎える。
なんとかやっと……年夜のごちそうを食べながら見始める紅白。
衣装がどうとか、今の若いのはこんなんが好きなのか、とか実に好き勝手な会話が飛び交う紅白。
 
 
今年はいろいろあって一人暮らしの部屋で、一人で年を越すことにした。
部屋を暖め、自分の好きな位置に準備をし、お風呂は事前に済ませておく。簡単に自分の好きなものを机に並べる。
実に気楽だ。
 
 
とてもライトな気持ちで年が越せそうだ。
 
 
紅白を見始める。
なぜだろう、音が聞こえすぎる。
 
 
ここであの副音声の案内があった。
案内に従って試しに切り替えてみる。
 
 

じわりじわりと、その良さに巻き込まれていく。
実にうるさくてサイコーだ。
 
 
2019年「グッときた出来事」おさめをした。
 
 
私は年末年始に入院していたことがある。
こんなに世間のみんなは楽しそうで、盛り上がっていて、おめでたそう。
……なのに私は。
カーテンに囲まれた無機質な病室。
言いようのないさみしさ、苦しさ、この先の不安。
涙を流していた。
そんなことを今回の一人年越しで思い出すこととなった。
 
 
世の中には、いろんな理由で紅白を一人で見ている人がいるのかもしれない。
自分で望んでそうしている人もいれば、仕方がなくそうなってしまっている場合もあると思う。
 
 
仕事があって
仕方がなく
なんとなく
 
 
都市圏へ労働力が流失する、高齢化が進む、離婚は昔よりは難しいものではなくなっている、核家族や限界集落が増えている……と現代においては、ちょっとニュースで話題になるキーワードを挙げるだけで理由になりそうだ。日本全体でどうしようもない大きさの話なのかもしれない。
だが、「誰が悪い」そういう話ではない。
 
 
みんないろいろ抱えている。
けれど誰だって新しい年を楽しみにしたい。
やっぱり、暖かい部屋でひと笑いもふた笑いもしたい。
未来をいいものにしていきたい。
この大晦日に願うことは同じなのではないだろうか。
 
 
一人で過ごす大晦日を、ほっと暖めてくれたのは、好き勝手。言いたい放題。
アーティストの声も遮るほどうるさい副音声なのであった。
1年が終わろうとしていて、新しい年がやってくるまでの時間を一緒に楽しめるというのはとても暖かい。
 
 
副音声は心の灯だ。
 
 

歯に衣着せぬ物言い。よくもまぁ公共の電波を使って、こんなに言いたい放題できるなぁと声を出して笑ってしまう。
私もそれ思った、とテレビのあっち側とこっち側で心の距離が縮まっていく。
紅白歌合戦で言いたい放題を共有した後は、子どもみたいに素直な気持ちで満たされているのだった。
 
 
今年もいい年になりますように。

 
 
 
 
***
 
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2020-01-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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