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メディアグランプリ

本の面白さは国境を超える


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森 由貴(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「フライトがキャンセルってどういうこと?」
ドイツ・ベルリンのテーゲル空港、ヘルシンキ行きのフライトチェックイン手続きを待っていた私を含む乗客たちが騒ぎ出した。
「チェックインの機械が故障してしまったので、これ以上の手続きができません。すでにチェックインされた方はそのまま搭乗できますが、残りのお客様は振替便となります」
3分の1の乗客を置いて出発するらしい。海外でトラブルはよくあるが、ここまでひどい対応は初めてだった。その後、2時間以上待たされて提示された振替便はドーハ経由。しかも出発は22時。あと7時間、どうする?
 
私は1週間の出張を終えて帰国するところだった。さすがに疲れが溜まり早く帰りたい一心であったが、ドーハまで約6時間、それからまた日本行きの便に乗り換えなければならない。当初の予定よりも1日遅れの帰国になる。時差があるため職場にメールで事情を説明した後、私は空港内をブラブラし始めた。しかしヨーロッパ最大の空港と言われるフランクフルト空港に比べると圧倒的に小さいテーゲル空港ではあっという間にお店も見終わってしまう。あと6時間半、どうする?
 
その時、空港入口近くにある小さな本屋が目に入った。そうだ、本を買おう。カフェで本を読んでいれば少しは時間が潰せるはず。若い女性の店員と挨拶を交わし、本棚を見始めてすぐ気が付いた。ここはドイツの小さな空港だ。必然的に約70~80%の本はドイツ語であるため読めない。そこで私は英語の本が並べてある棚を見つけ、その中から読めそうなものを探す。すると「スティーブン・キング」という文字に視線が行く。中学生の頃から私が一番好きな作家だ。棚にはキングの作品が数冊ある。私はその中の1冊を手に取った。「ペット・セマタリー」だ。文量も多く、あらすじも知っているのでこれなら出発までの時間に読むことができるだろう。レジに行くと、店員が「この本、面白いよね」と声をかけてくれた。
「どこから来たの?」
「日本。フライトが急にキャンセルになってしまったから、空港での時間潰しに本を買いに来たの」
「それは大変。日本か、いいね。いつか行ってみたい国だわ。日本でもキングは有名なの?」
「有名だよ。私は大好き。ドイツではどうなの?」
「ドイツ人もキングは結構好きな人が多いわ。私も好きだし」
たわいもない会話であるが、キングが好きというだけで一気に親近感が湧くのが不思議だ。次のお客さんがいたため会話を切り上げ、私は買った本を小脇に抱えて店を出る。あと6時間、ゆっくり本が読めるカフェを探そう。
 
私は空港2階のスターバックスへ向かった。店員に事情を話し、長時間の滞在を許してもらう。店員は
「大変だね、ゆっくりしていきなよ。ちなみにそれキング?」
と私の持っていた本を指さす。「そうだよ」と答えると、
「俺、キング好きなんだよね。君も? 俺、全作品読んだよ。その本もお薦めだ」
と言って、カフェラテを渡してくれた。本当に好きなのか、話を合わせてくれたのかは分からなかったが、それでもキング好きに会うとなぜか嬉しい。私はソファに座り、本を開く。あと5時間半、よし、じっくり読もう。
 
時間になり、出発ゲートへ向かう。すでにほとんどの乗客はセキュリティチェックを終えていた。私は列の最後尾に並ぶ。リュックを下ろし、パスポートとチケット、キングの本などをプラスチックの箱に入れる。無愛想な空港職員が淡々と荷物をチェックしていく。すると、一人の強面の男性職員が突然声を上げた。
「これキングの本じゃないか! 誰のだい?」
「……私のです。ここの空港で買いました」
私はおずおずと手を挙げる。何かまずいことでもあるのだろうか? 心配そうな顔をする私に隣にいた女性職員が笑顔で語りかけた。
「心配しなくても大丈夫。彼、キングの大ファンなの。ここにいる職員たちもみんなキングが好きなのよ」
男性職員は嬉しそうに本を手に取り、話始める。
「これ、最高に怖いけど面白いんだよ! 俺、何度も読んだし。キングの作品の中でも印象に残る作品だよ」
すると周りにいた職員たちもキングについて話し始め、私も質問攻めにあう。
「日本人もキングを読むのかい?」
「日本ではどの作品が人気なの?」
「君の一番好きな作品は?」
セキュリティチェックの仕事が終わったため余裕になったのか、みんな饒舌で楽しそうだった。
 
ドイツの小さな空港でたった1冊の本を持っていただけなのに、私はこの6時間半でいったい何人の見ず知らずの他人とキングについて話したのだろう。私は改めて本の持つ力を知った。本の面白さは国境を簡単に超えるのだ。国や人種関係なく、いつでも誰とでもその面白さや魅力について語り合うことができるのだ。そのことをキングの本は教えてくれた。
 
時間となり、搭乗ゲートに向かう。振り向くと、先程の職員たちが手を振ってくれた。
きっとトラブルがなかったら彼らのようなキング好きの人たちと出会わなかっただろう。そう思えば今回のトラブルも悪くなかったかもしれない。
 
ちなみに今回の経験でもう一つ分かったのは、ドイツではキングの本を持っていれば話しかけられる確率は高いということ。ただし、英語かドイツ語の本に限られるけれども。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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