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死ねばいいのに

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Tak(ライティング・ゼミ 冬休み集中コース)
 
 
私が率いていたプロジェクトチームが進めていた新規事業の提案が、正式に見送りになった。全力で取り組んだ案件が見送りになり、さすがに打ちひしがれていた。
 
 
その日の夜、私は社外の友人のSさんと飲んだ。
 
 
「はじめは社長も絶賛していたのに、結局見送りだよ」
 
 
険しい表情の私に彼女が問う。
 
 
「あら、社長さんが絶賛していたのに?」
 
 
「真意はわからないけど、急に日和って。既存事業の担当役員が人材を引きぬかれるのを嫌がっていたから反対したのかも。総論では、新規事業の必要性は皆が理解しているのに、各論はちっとも進まない。やっぱりうちの会社は変われないのかもしれないな」
 
 
愚痴を言うつもりはなかったのだが、話をしだすと、つい不満が出てしまう。
 
 
すると、彼女が驚くことを聞いてきた。
 
 
「ねえ、奥さんなんか死ねばいいのに、って思ったことある?」
 
 

はぁ? いったい何の話だ。
 
 
因みに彼女は、社外の同士的存在だが、お互い恋愛感情は全くなく、そういった類の危うい関係ではない。
 
 
「無いよ。喧嘩すれば、ふざけるなとか思うことはあるけど、死ねばいいのに、って余程の話だよ。なんでそんなこと聞くの?」
 
 
にやっと笑って彼女が答える。
 
 
「そうよね。でもね、この質問すると一定数の人が、Yes、って答えるのよ。特に女性の方が多いけど。あなたの奥さんはどうかしら?」……恐ろしいことを聞く。
 
 
「うちの妻だって思ったこと無いよ」
 
 
と言いかけたが、色々と記憶がよみがえる。
 
 
出産直後に家事育児を妻一人に任せて、彼女が軽い育児ノイローゼになったこと。子供が大きくなってからも会社の状況が厳しくて、残業や休日出勤ばかりの毎日だったこと。子供の教育方針が真逆でことごとく意見が合わず、最後は私が我を通すことが多かったこと。
 
 
思い当たり過ぎる。
 
 
「あるかも……」
 
 
すると彼女がにっこり笑って言う。
 
 
「相手がどうしてそう思ったのか、気づくことが大事なのかもしれないわね」
 
 
そういう目的で聞いたのか?
 
 
そう言えば、確か彼女は2度離婚して今は3人目のご主人。きっと何度も「死ねばいいのに」の修羅場を乗り越えてきたに違いない。
 
 
「で、Sさんは?」
 
 
「あたしは一度もないわ」
 
 
即答で言いきられる。
 
 
いやいや、それはないだろう。ここで自分だけいい格好してどうする。そう思った時に彼女が微笑みながら静かに続けた。
 
 
「だって、そう思う前に自分で別れるって決めたから」
 
 

やられた。かっこよすぎだ。

 
 
「死ねばいいのに」は相当強い負の感情だ。我慢に我慢を重ね、感情がねじくれて発酵して腐臭を放つ。それくらいにならないとなかなかそこまで強い気持ちにならない。
当たり前だが、一旦結婚し、それなりの時間を過ごせば、そう簡単には別れられない。経済的な理由、子供がいるから、世間体、親との関係云々。そういう諸々を明確に見つめることなく、「別れられない」「自分ではどうしようもない」、そう思ってしまうと、負の強い感情が発生する。
 
 
Sさんはそういう気持ちを曖昧にしてごまかしたり放置したりしなかった。しっかり二人の関係を見つめなおしたうえで、自分で別れるという決断をしたから「死ねばいいのに」とは思わなかったのだ。
 
 
不満があったら、迷わずパートナーと別れろ、という話ではない。続けるにしても別れるにしても、自分の人生は自分で決めよう、ということだ。
 
 

そこまで考えてようやく彼女の真意に気が付いた。これは、会社と社員の関係も同じだ。
 
 
経営陣が優柔不断、古い勝ちパターンばかりに拘る、本部が小役人ばかり、現場はわかっていない、中間管理職が抵抗する、総論賛成各論反対云々。
 
 
そんな時に、ただ鬱屈を抱え、ガード下の赤提灯でくだを巻くように愚痴や悪口を言い続けるのは危険だ。それが正論に基づいている時は特に。正論には誰も表立っては反論できない。そうなると、「やっぱり自分が正しく相手が悪い」となり、自分の中に怒りや怨念を抱え込むことになる。心が蝕まれダークサイドに落ちる。
 
 
そうなる前にすぐに辞めろ、という話ではないのはパートナーの時と同じだ。
 
 
会社に対して「死ねばいいのに」状態になっていないか、状況と自分の内面を見つめなおせ、ということだ。
 
 
経営陣が却下した真意は何か、その原因はアプローチの仕方を変えたら排除できるのか、粘り強く障害を乗り越えようとしているか、別のやり方や分野で挑戦しようとしているか。やれることをやりつくして、それでもどうしてもうまくいかなければ、その時には進退を考えればいい。
 
 
辞めるにしても残るにしても、納得いくまでやってみて、その上で「自分で決める」のが大事なのだ。
 
 
顔を上げると、彼女がまたにやりと笑って、こう聞いた。
 
 
「で、あなたはどうするの?」

 
 
 
 
***
 
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2020-01-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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