メディアグランプリ

ユキエ先生と藤波辰爾が教えてくれた、革命の起こし方


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記事:タカシクワハタ(スピードライティング・ゼミ)
 
 
「お支払いは?」
「す、す、Suicaでお願いします」
「はい?」
まただ。
また聞き返された。
なぜだろう?
確かに僕の声は小さい。
加えて滑舌が悪くてサ行がうまく言えない。
さらに悪いことに少し吃音気味でもある。
いわば聞き取りにくさの三冠王だ。
そんな調子なので、話すときに変なプレッシャーがかかってしまい
早口になってしまう。そして余計に聞き取りづらくなってしまう。
 
「聞き返されるくらいどうってことないじゃん」
その通り。確かにそれは正論だ。
でもその「はい?」
という言葉の中に
「ちっ、はっきりと喋れよ、わかりにくいんだよ」
という心の中の舌打ちが聞こえてしまう。
さらに、自分というのはそれほど話を真剣に聞いてもらえない、とるに足りない存在なのかと
どんどん落ち込んでしまう。
 
単純に聞き取りにくいだけの人なら
もっと上手の存在がいる。
たとえば「飛龍革命」という動画に出てくる
プロレスラーの藤波辰爾がそうだ。
 
「飛龍革命」これは40年ほど前に新日本プロレス沖縄興行での控え室であった出来事である。
当時新日本プロレスのエースだったアントニオ猪木に対し、
自身の処遇に不満を抱いた藤波辰爾が直訴をしたのだ。
この行動が後に、新日本プロレスの2番手的存在だった藤波が
アントニオ猪木越えを果たし、
新日本プロレスを代表するレスラーになっていくきっかけとなったものである。
 
この動画は大変人気を博している。
その理由は藤波と猪木が一触即発の言い合いをしている
非常にシリアルな状況であることもさることながら、
もう一つ大きな理由がある。
それは藤波辰爾が終始なにを喋っているのか全くわからないのだ。
 
まず冒頭に
「ベイダーとやらしてください!」
藤波はそう喋っているはずなのが、
「ベイダーとわしゃわしゃわしゃわしゃ!」
としか聞こえない。
「ああ?」
画面の中の猪木は怪訝そうな表情をしている。
「わしゃわしゃわしゃわしゃ、わしゃわしゃわしゃわしゃ!」
続けて藤波が速射砲のように言葉を投げかける。
やはり何を言っているのか全くわからない。
そして猪木が藤波に張り手をかます。しかし藤波は猪木に張り手を返す。
そして藤波はおもむろにハサミを取り出すと
自分の前髪を切り始める。
もうわけがわからない。
このシュールさが受け、どちらかと言うと面白動画として
人気を博しているのであった。
 
しかし不思議なのはこの動画の中で、猪木は怪訝そうな顔をしながらも
しっかり藤波の言葉を理解して、適切な言葉を返している。
あんなに何を言っているのかわからないのに、なぜ伝わっているのだろう?
そしてなぜ僕の言葉は誰にも伝わらないのだろう。
藤波と僕の違いはいったいなんなのだろうか?
 
「あー、私も声が通りにくいんですよね」
ユキエ先生はにこやかにそう言った。
昨年の12月、僕は「演じる英語」という講座に参加し、
英語劇にチャレンジすることになった。
「演劇なら多少ははっきり聞こえやすい声になるだろう」
そんな単純な理由からだった。
その英語劇の演技指導担当が、ユキエ先生である。
ユキエ先生は、どこか漫画の世界から出てきたような
ユーモラスかつ親しみやすいキャラクターで、
すごくハキハキと喋り、
誰とでもすぐに友達になれそうな人だった。
 
だから冒頭の言葉はすごく意外であった。
「くわたんの声もそんなに通らないとは思わないけどな」
くわたんと言う名で呼ばれる私の演技を見て
ユキエ先生はそう話した。
 
「でも、なんていうか。声が相手に届く前に落ちる感じなのよね」
どういうことだろう。
「声って相手に向かってしっかり投げないと伝わらないにくいんですよね。たとえば不特定の誰かに向かって大きな声で喋っても伝わらないけど、小さな声でも相手に向かって届かせようとするとちゃんと伝わるんですよ。気持ちの問題かもしれないけど、ちゃんと相手に届くように話しかけることが大切なの」
 
僕はハッとした。
いままで自分の話が伝わらなかったのはこのせいではないだろうか。
上司に仕事の進捗を報告するとき、
子供たちに片付けをさせるとき、
コンビニの店員さんにSuicaで払うことを伝えるとき
しっかり相手の顔を見て伝える努力をしていただろうか?
「聞いてくれて当然」
そんな気持ちで言葉を適当に発していたのではないだろうか。
僕の言葉は伝わらないのではなくて
伝えようとしていなかっただけだったのだ。
 
「飛龍革命」の藤波は目の前の猪木に対して、
感情が先走りながらも必死に、必死に伝えようとした。
だから伝わった。
そして師であるアントニオ猪木を動かし、
ついには倒すことができた。
「言葉を相手に届かせる」その気持ちが起こした、見事な革命だった。
 
僕にだってきっと革命は起こせる。
今日から相手の顔を見て
手を抜かずに必死に伝えてみる。
僕の声が伝わるまで、
どんなに早口になって噛み倒しても
伝える気持ちをあきらめない。そう僕は心に誓った。
いつの日か僕の「飛龍革命」が成就するように。
 
 
 
 
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2020-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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