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トイレの神様《週刊READING LIFE Vol.64 日本史マニアック!》


記事:長島綾子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

昔から不思議なことがあります。週に3回は「お花摘み」の夢を見るのです。
「花を摘む」とは女性の登山用語です。男性は「キジ撃ち」と言うそうです。
そう、「トイレに行くこと」です。
 
あまりによく見るので、手帳にどれくらいの頻度で夢を見るのか書き留めたことがありました。すると、2週間で6回。ならすと週3回ペースです。他の人に確認したことはありませんが、頻繁ではないかと思うのです。
一応いい大人なので断っておきます。正夢になったことは、ありません。
 
確かに昔から、トイレとは縁があるように思えてなりません。前職で海外のホテルに泊まることが多かったのですが、複数の部屋のトイレで紙を詰まらせ、部屋を替えてもらったりこっそりそのままチェックアウトしたりしておりました。水洗事情のあまりよくないアジアなどでは常連でした。
本当に申し訳ないことをしました。ごめんなさい。
 
一方、日本のトイレは本当に素晴らしいです。最近詰まらせることは皆無でした。ですが先日、古い建物のトイレで詰まらせてしまったのです。私はその時思いました。ああ、このトイレは絶対詰まらせてはならない、ここで詰まらせたらきっと「トイレの神様」を怒らせてしまうだろう、と。
しかるべき手段で必死にトイレの詰まりをなおしました。流れる水を見て心底ホッとしました。
 
トイレを詰まらせてばかりいるくせに、トイレという場所が好きで仕方ないのです。
新しい建物に入ったらまずトイレの場所を確認し、鏡を覗き自分の様子を確認します。面接や商談の時にはトイレに入って気合いを入れます。トイレとは本来の用途以外にも、私にとっては心を落ち着かせる場所、緊張を解く場所、決心する場所なのです。
 
それなのにトイレを詰まらせてばかりいて、「トイレの神様」がもっとトイレを大切に使ってくれと週に3回も私の夢に登場しているのでは、と思いたちました。そもそも「トイレの神様」って本当に存在するのでしょうか。なんで「トイレ」などというあまりきれいではなさそうな場所に、神様が存在するといわれているのでしょうか?
 
今や日本は「トイレ大国」とも言われ、海外のガイドブックにも興味深く紹介されているほどです。
日本人は「トイレ」や「排泄」にまつわる話を欧米人に比べてオープンに話すと言われています。確かに、子供たちは「〇〇ち」などの話が大好き。可愛いキャラクターもたくさん出回っています。これらが欧米人からしては考えにくいようで、欧米ではこれらの話はタブー視されています。
 
日本人はトイレや排泄を欧米人より汚いと思っていないのでしょうか。同じモノなのに、捉え方や考え方が全く違うのかもしれません。
 
日本では古来より「万の神」と称して、神羅万象に八百万(やおよろず)の神が宿ると信じられていました。
「トイレの神様」の先祖である「厠神」(かわやがみ)もその中の重要な神様と言われていたそうです。
日本最古の歴史書である『日本書紀』や『古事記』にも、トイレや排泄に関わる記述が驚くほど多くされています。詳しく書くことは避けますが、排出されたモノから神様が生まれたとか、トイレで神様同士が結ばれた話だとか……。
 
そして神道の考えの他に、仏教の神様、中国由来の神様など様々な「トイレの神様」が混在していたようなのです。仏教ではトイレ掃除も修行の一環とされ、不浄を清めることで心を清らかにするといわれてきました。
また中国由来の神様というのが「トイレの花子さん」という学校の怪談話の元祖だというのです。
「今から1300年ほど前、唐の時代の中国。ある美しく賢い女性が実力者の妾となった。その女性は非常に愛されたが、嫉妬した本妻によって虐げられ、厠で悲惨な死を迎えてしまう。それを哀れに思い、厠の神“柴姑神”として祀られた」のだそうだとか。
 
神道の考え、仏教の考え、中国由来の考えと、日本では昔から様々な考えが混じりあって「トイレの神様」というのが形成されていたのかもしれません。クリスマスやお正月、神社にもお寺にもお参りに行く我々日本人らしいといえばそうなのかもしれませんね。
 
我々日本人が古くから、トイレには神様が存在する、トイレは神聖な場所であり、少し怖い場所なのだと捉えていたことは分かってきました。では欧米人はどのように捉えていたのでしょうか。
 
ここでも詳細は避けますが、ヴェルサイユ宮殿のトイレ事情は最悪であり、お城の中はかなり悪臭が漂っていたそうです。窓からモノを投げる習慣もあり、日傘・ハイヒール・ふんわりとした足が見えないドレスやシルクハット・マントはそれらから身を守るために生まれたとか! お洒落の目的だけではなかったようです。日本の「トイレの神様」とは全く異なる発想です。そう、西欧では「トイレ」や「排泄」とは、忌み嫌う存在だったそうなのです。
 
そう考えると、日本が「トイレ大国」と呼ばれるようになったことも頷けます。日本は神様が存在するトイレを昔から大切にし、怖れながらも美しく掃除し、神様と共存しながらより快適に過ごせるように開発を続けてきました。それは日本の勤勉さだけでなく、神様への思い、感謝の気持ちの現れであり、だからこそ「トイレ大国」になったのだと。日本の八百万の神という考え方は美しく、礼儀正しい日本人の原点なのかもしれません。
 
2020は世界から日本中に人々が押し寄せます。今から「トイレの神様」は警戒しているかもしれません。トイレの使用方法は国によって様々ですから、神様もびっくりな一年になるかもしれません。
 
ですが私は日本人。もう「トイレの神様」の顔を曇らせるようなことはしない、ペーパーは使い過ぎないと決心しました。日本のトイレの素晴らしさを一人でも多くの外国人に知ってもらいたいなと願い、新しい時代を迎えたいと思います。今夜も「トイレの神様」が夢に出て来るでしょうか。
 
 
 

◽︎長島綾子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
18年日系航空会社でCAを経験。令和元年5月に退社。
接遇・コミュニケーション講師として活動を開始。
好きな食べ物は餃子。一女の母。

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