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メディアグランプリ

パチンコ屋で鍛える〇〇力


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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末本晴(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「合計で140玉いただきます! ありがとうございました!」
私は遊技場でバイトをしている。
遊戯と言えど、もちろん子供向けのテーマパークなどではない。
タバコが煙る中ギラついた目で金をかける大人の遊び場だ。
でもここはただの憂さ晴らしや、一攫千金に望みを託すだけの場所ではない。今の社会で暮らす力を試す場所でもあるのだ。
 
最初は最悪だった。
時給とシフトの都合の良さだけで選び、初日は騒音で耳がもげるかと思った。店を出た後は、プールから上がった時のような耳の通りの悪さを感じ辞めてやると決意したはずだった。
それも慣れてしまえばなんのその。すっかり馴染んでしまった。
私の仕事はドリンク販売で、メニューを持ってひたすら通路を歩き回る地味にしんどい仕事。日によっては1時間歩き回って1杯しか売れない時もあり暇といえば暇だ。
暇すぎて営業スマイルも危うくなってきたので「自分の場所は自分で楽しく」というモットーのもと、歩き回りながら人間観察をすることにした。
 
そして気づいた。
ここ環境として最高じゃん!
中国の大気を凌ぐであろうタバコの煙で満たされ、時には視界も曇る館内。奪われる嗅覚。
目に入るのはカラフルに光るパチンコ台にスロットマシン。猛烈なスピードで点滅するライト、当たれば変形しあり得ない速度で振動する飾り物。ネオンが眩しいなんてものじゃない。HPを削られる視覚。
一台一台が歌い、叫び、当たれば緊急地震速報かと思うほどの音を出す。それら何百台の音が反響し鳴り止むことはない。殺される聴覚。
 
「今ウォーカーが来たら絶対ここに来る……。私ならまずトイレに避難して……」
ウォーキング・デッドに夢中の私はウォーカー(ゾンビ)が来た時の妄想に精を出していた。音、光、人が集まっている、という三大ゾンビフラグが揃っているのだ。さらに人間にとっては感覚が奪われやすい環境だ。これはもう盛り上がるシーンになるだろう。
そんなことを想像しながら歩き回る。
 
だが最高なのはウォーキング・デッドの世界としてだけではなかった。
 
人が一人通れる幅の通路、お客さんとすれ違うことはしょっちゅうだ。お客さんを最優先に通すよう言われているので、通路で対面になった時は自分が避けて道を譲っている。背後を歩くことになった場合は、メニューを軽く振りながら通る人がいることに気づいてもらう。パチンコ台をよく見たい人はこちらに道を譲ってくれることも多いからだ。
 
それでも気づかない。
対面であってもだ。
「このおじさん、一番にウォーカーに噛みつかれそう」
「そんな周り見てなくてどうすんの! 死ぬよ!」
すっかり衰廃した世界にいる私は、心の中で叱責する。
 
あまりにも同じ状況が多く、あえて何も声をかけず気づくまで通路の端に寄り待っていた。
すると、ぶつかる寸前で幽霊を見たかのように驚く人、ぶつかってやっと存在に気づく人がほとんどだった。止むを得ずお客さんの横を通るときはきちんとメニュー表で存在をアピールした後に「後ろ失礼します」と声をかけて通るのだが、それでも同じ結果だった。
 
どこかで見たことある景色……
思い出した。
電車の中、なぜか入り口付近に溜まる人。乗車する人が多いのにも関わらず、気づかないのか知らないふりかスマホを手にしたまま止まり続ける。私が中に詰めようと「すみません、通ります」と人の間を縫って通れば、初めて存在に気づいたように私を見るだけ。
スーパーの生鮮売り場、カートを押したおばちゃんは刺身に夢中で車輪が私の足に当たっていることを知らない。
下りエスカレーター、私の後ろの高校生はそのまた後ろの彼氏を見て、私の頭にリュックがぶつかっていることは見ていない。
 
思い返せば私にもあった。
本屋の雑誌売り場、好きな俳優の表紙に目を奪われ自分が棚に立ちはだかっていることなんて気付かなかった。恐る恐る雑誌に伸びる手が目に入ってやっと体をどかした。
 
人は何かに感覚を集中させてる時、何かに夢中になっている時、どうしても周りが見えづらくなる。自分以外に人はいるのはわかっていても、意識としてそこに向かないのだ。それは、スマホだったり、イヤホンから聞こえる音楽だったり、刺身や彼氏もそうだろう。パチンコ屋のお客も気になっていた台を見ていただけなのだ。
夢中になっていたところに、急に人が見えてびっくりして会釈も出ない。ぶつかってしまったからふてぶてしい人に見えてしまう。そんなところだろう。
それでも、ぶつかられた人は気持ちのいいものではないし、痛い。
そしてそれ以上に自分の存在が認識されてないようで惨めな気分になる。
 
日常生活で起こる些細な出来事かもしれないが、もしお互い気づけるようになったらちょっと優しい日常になる気がする。
リュックがぶつかったって車輪がぶつかったってしょうがない、気付かなかったことは誰にでもある。でもその後、気づいて一言「ごめんなさい」が言えたら同じ状況でも気持ちはもっと安らかだと思う。私に気づいてくれたということがわかるから。
 
そんな「気づく力」を試せるのがパチンコ屋だろう。
五感のうち3つを奪われる場所だからこそ「気づく力」を養う練習には最高なのだ。
人が近く足音も、気配すら感じにくい環境で一度歩いてみるのもいいかもしれない。人に気づくには情報が五感から勝手に入ってくるだけじゃなく、自分から周りを見てみるという行為も大切が大切だ。
時折後ろを向くと通りたい人が待っているかもしれない。
 
そして鍛えられたあなたは、世紀末にウォーカーと戦える偵察力を備えているだろう。
 
 
 
 
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2020-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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