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メディアグランプリ

ひろげた風呂敷をみんなで畳む気持ちよさ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:杉本 知隆(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「これから今月末の新規イベントはみんなで分担して取り組みます」
新年早々、上司からグループの招集を受け、説明をうけた私たちは唖然とした。
「え、今からですか?」
役割分担の説明を受けるものの頭に入ってこない。何せイベントは今月末というのに、営業の許可も、会場設営の仕様も、これからだ。
 
私は、これまでそのプロジェクトにはほとんどノータッチだった。今回SOSのように召集がかかった原因はおそらく、イベントに詰め込まれたアイデア・企画の数々。会場だけで4つの会場に分かれていた。ステージイベントは、初めから最後まで隙間なく詰まっている。誰がこれをこなすのか。これまでの進捗管理はどうなっていたのか。おそらく新しい企画の立ち上げや関係各所との調整で、本来のメンバーはそれで手一杯だったのだろう。
 
仕事は風呂敷に例えられる。
誰かがひろげた風呂敷は誰かがたたまなければならない。その風呂敷が大きければ大きいほどたたむのは大変だ。
 
今回のイベントの企画者はアイデアマンであった。コンテンツの質を高めるために思い付いたことはどんどんと、現場におろしてくる。現場からは、もうそんなの対応できないよといつも愚痴がきこえるが、悔しいことにいつも彼のアイデアは的を射ている。確かに理想であるから、反論が難しく渋々と受け入れるしかない。
 
もう、そこからは必死な作業であった。
私の役目はイベントへの出店者に頭を下げることだった。主にイベントへの出店団体との調整を担当したのだ。幸い、それまでのイベント運営の経験からノウハウを持っていた。(だから声がかかったのだと思うが)出店者向けのフォーマットを作成し、集約用のエクセルシートを作り上げた。短い期間の締切となることに、頭を下げて出店者に、出店の詳細、写真の提出をお願いする。頭を下げながら脳裏に浮かぶのはアイデアマンの姿。どうして私がこんなことで頭を下げないといけないのか。こんな途方もない企画と進捗管理できないなかったことにいら立ちを覚えた。
 
いら立ちを覚えているのは、私だけではない、同僚の彼女もそうだ。でもステージイベント担当の彼女は持ち前の仕切りでどんどんと詳細を詰めていく。例のアイデアマンがギチギチに詰めたステージ企画。講演会、パフォーマンス、クイズ大会。音響はどうしよう。控室の場所は? リハーサルは? 3週間を切った段階ですべて未解決の課題を解決していった。
 
火事場の馬鹿力と言うべきか。
本当に炎上案件であった本プロジェクトも、まさに全員作業で消火にかかっていた。追い込まれれば追い込まれるほど集中力があがっていく感覚があった。チームの連帯感も上がっていたと思う。いつのまにか、その忙しさに心地よさすら感じていた。
 
イベントが近づいてくると別の部署の社員が言う。
「最近大変そうだね」
 
おそらく仕事が降られた当時であれば、
「そうなんだよ、愚痴を聞いてくれ!」
という話になった。
実際、愚痴を聞いてくれ、と表向きには言っている。
でも心の中はちょっと違った。無理だと思っていたことが一つずつ解決に向かっていき、少し満ち足りた気分になっていたのだ。
 
イベント当日は、雪のちらつく寒さであった。
寒さの中で早朝から会場が設営されていく。1か月前の中身の詰まっていない状態からここまで形になったこと自体に感動を覚える。前日も遅くまで準備に明け暮れていたが、不思議と眠気はない。アドレナリンが出ているのだろう。順調に予定していたプログラムが進み、無事イベントも終了を迎えた。正直、内容はアドレナリンの反動か、あんまり覚えていない。
 
後日、地下鉄の運営側から連絡があったらしい。
「このイベントの日だけ乗降客が飛び抜けて多かったので、詳しく聞かせてもらえませんか?」
そこで初めて成功を実感した。グループみんなで祝った。
 
ひろげた風呂敷をたたむ。この言葉は、決してポジティブにはとらえられない。今回のアイデアマンのように、恨みつらみの対象になる。
 
しかし、すべてたたみ終えた後に私の中で、その意味はひっくり返った。
誰か一人が大きく広げた風呂敷を、みんなで必死になってたたむとこんなにも気持ちの良いものなのか。
 
そんなとき、スタジオジブリの映画製作のドキュメンタリーを思い出した。
あのアイデアマンの上司は、さながら宮崎駿だ。
 
宮崎駿監督は、映画をつくるとき、脳内イメージを一枚の絵として描きだす。
そうして作られたシーンごとの絵から無限の可能性が拡がる。拡がったイマジネーションを2時間という映像作品に詰め込んでいくのである。
もちろんその作業は監督だけでない、スタジオジブリのスタッフが総出でアニメーションとして、イマジネーションに息を吹き込んでいくのである。そして誰もが魅了する国民的映画が生まれる。
 
上司のことを宮崎駿だなんてのは、監督に失礼だ。そこには月とすっぽん以上の差がある。
 
でも言いたいのは、宮崎監督や上司がすごいということでもない。
ジブリと今回のイベントは程度の差はあれど、同じプロセスだと思った。一人で広げた風呂敷をみんなでたたむことで良いものができるということだ。
 
風呂敷をひろげた人、炎上させた人、イマジネーションを爆発させる人。
彼らだけでは良いものは生まれない。
たたむ人、消火する人、作品に落とし込む人たちがいて初めて人を魅了するものが出来るのだ。
 
私には、大きな風呂敷をひろげることは出来ない。ひろげる前にたたみ方を考えてしまうからだ。
だから今は大きな風呂敷をひろげる人を批判出来ないそこには大きな可能性を秘めているからだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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