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メディアグランプリ

5人組の中学生に教わった、「心臓のドラマ」への向き合いかた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:タカシクワハタ(スピード・ライティングゼミ)
 
 
「療養中のIさんですが、12月末日づけで退社することになりました」
メールを開いた僕は、それを見てしばらく呆然とした。
 
10月半ばのことだっただろうか、次の日がオフィスの引っ越しということで
皆、各々の荷物をまとめていた。
そんな中、後輩のI君はみんなより一足早く荷物をまとめ終わっていた。
「え、もう荷物まとめ終わったの?ちょっとフライング気味じゃね?」
僕はいつものように軽くいじるような感じで彼に声をかけた。
「実は……クワハタさんにだけはお伝えするのですが、ちょっと体調を崩してしまい明日から休職するんです」
え?
しまった。遅かったか。
僕は後悔していた。
彼が直属の上司と折り合いが悪いことは知っていた。
その上司はすごく仕事のできる女性ではあったが、正論で相手を追い詰める所があった。そして事あるごとにI君は怒られていた。
I君は少し不器用だが真面目で良い子だった。いつも叱られながらも前向きに仕事に取り組んでいた。僕が心配になっていつ様子を伺っても、
「ハイ、大丈夫です!」
と返事をしていた。
そのせいか、まだ大丈夫、まだ大丈夫と思っていた。
もう少ししたら課長に相談してみよう。そう思っていた矢先のことだった。
僕は自分の読みの甘さを悔いた。そんな予感は感じていたのに。
 
同じ頃だった。アイドルグループ、「エビ中」こと
私立恵比寿中学のライブから安本彩花が姿を消した。
「療養のため、しばらくの間活動を中止します」
ホームページの説明はごくごく簡単なものだった。
何があったのかわからないが、おそらく精神的になにか限界が来てしまったことだけは読み取れた。
もともと大人しくて引っ込み思案の彼女。それでも最近は堂々とグループを引っ張っていた。そんな最中のことだった。
I君のことがあったせいか、僕はもう彼女は帰ってこないのではないかと思った。
さらにはエビ中も終わってしまうのではないだろうか。
そんなことまで頭をよぎってしまうくらい、僕はネガティブな気持ちになっていた。
 
冒頭のメールが来た次の日、
その日はちょうど「エビ中」こと私立恵比寿中学の今年最後のコンサートの日であった。
この日のエビ中は生バンドをバックにいつも以上の素晴らしいパフォーマンスを見せていた。ひとつだけ残念なのはやはりそこに安本彩花がいないことだ。
彼女がいればもっともっと楽しいのに。
頭では素晴らしいと感じつつも何か乗り切れない。
そんな気持ちのまま、彼女たちのステージは進んでいった。
 
ステージも中盤に入り、一旦メンバーがはけてスクリーンに映像が流れた。
そこにはレッスンに励むエビ中の姿があった。
彼女たちはいつも通り明るく、ひたむきに歌い、踊っていた。
しばらくすると、一人の女性が公園を歩く姿が映し出された。
顔が写っていないので誰なのかはわからない。
その女性の姿とエビ中の姿が交互に映し出される。
「あっ!」
幕張メッセの観衆が一斉に声を上げた。
安本彩花だ。
少しほっそりとしているがいつもの安本が元気に歩いている姿がそこにあった。
みんな喜んでいる。近くからすすり泣きの音が聴こえる。
うれしい。会場がそんな気持ちで一杯になった瞬間、彼女たちが再びステージに現れた。
 
「私たちが10年間刻み続けてきた『心臓のドラマ』をこの曲に込めました」
星名美怜がそう告げると、最後の曲「ジャンプ」が始まった。
ステージの5人の顔が、今までになく真剣なものになった。
いままでのエビ中の曲には無かった緊張感のあるメロディーライン。
それが彼女たちの力強い歌声とともに切々と進んでいく。
そして曲の中盤。
「今だああああああああああ!」
いつもコミカルでムードメーカーの中山莉子が絶叫した。
その瞬間、ステージの上でなにか大きなエネルギーが爆発したような衝撃が
僕を襲った。
なるほど。「心臓のドラマ」だ。
エビ中が結成されてから10年間の鼓動、
エビ中が歩んできた景色がすべてこの曲に詰まっている。
順風満帆だったメジャーデビュー。
最年少でのさいたまスーパーアリーナ公演。
3人同時のグループ脱退。そして小林歌穂と中山莉子の加入。
ミュージックステーションへの登場。
松野莉奈の突然の死。そこからの再起。
うれしいこと、悲しいこと。
エビ中にはたくさんのことがありすぎた。
そのエビ中の「心臓のドラマ」がこの曲を生んだのだ。
見えない闇の中を一筋の光が力強く進んでいく。
そんな印象を与えるこの曲。
私たちの「心臓のドラマ」はこれからも続いていく。
多少のことでは終わらない。私たちも、安本も、みんなも大丈夫だ。
彼女たちはステージの上からそう語りかけてくれているようであった。
 
ふと、I君のことが頭をよぎった。
彼もまた「心臓のドラマ」を演じていたのだ。
僕は彼のことをどこかで「かわいそう」と思っていた。
そしてどうにかしたいと思っていた。
でもそれは、他人の「心臓のドラマ」を書き換えようとしていただけではないだろうか。
今回のことは彼にとって大きな挫折となったかもしれないが、
それは彼のこれからの人生のために必要な挫折なのかもしれない。
彼の「心臓のドラマ」の筋書きにはこれから逆転のサクセスストーリーが
待っているのかもしれない。
それを書き換える権利なんて誰にもない。
僕にできることは彼の「心臓のドラマ」を見守ること、
そして彼のこれからの「心臓のドラマ」を信じることだ。
 
きっとI君も大丈夫だ。
エビ中は僕にそう教えてくれたのかもしれない。
僕も前を向いて自分の「心臓のドラマ」を続けていこう。
そして祈り続けたい。
同じ空の下のどこかでI君の「心臓のドラマ」がハッピーエンドを迎えることを。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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