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最後の晩餐、からしそば


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:近藤泰志(ライティングゼミ平日コース)
 
もし明日で人生が終わるとしたらみなさんは最後の晩餐に何を頼むだろうか。
 
僕には心に決めた1品がある。
 
その料理の名前は『からしそば』という。からしそばは大正13年に京都で初めて中華料理店を開いた『ハマムラ』さんの名物料理だ。からしそばにはその愛しい女神のような外見の裏にとんでもない悪魔が潜んでいる。そしてこの料理に魅了されたら、月に1度は食べないと具合が悪くなってしまうかもしれないという恐ろしい料理なのだ。
 
今日は僕がこの悪魔が潜む女神のような料理に魅了されて、最後の晩餐にしたいとまで心に決めた話をしようと思う。
 
僕がからしそばを初めて食べたのは今から3年前の冬、京都旅行の帰りだった。
東京行きの新幹線に乗るまで数時間あったので、僕は早めの夕食をとろうと思い、京都駅のレストラン街を歩いていた。おばんざい、お寿司、洋食……どのお店も魅力的な料理ばかり。その中で『京都中華』という看板を掲げているお店が目に入った。
 
「京都中華ハマムラ? 普通の中華料理店と何が違うのだろうか」
 
僕は一抹の疑問を抱きながら店内に入っていった。
 
席に座りメニューに目を通す。ラーメン、チャーハン、餃子……他の中華料理店のメニューとなんら代わりはない。その後もパラパラとメニューを捲っていくとまるまる1ページを使った写真の載った『ハマムラ特撰からしそば』というページにたどり着いた。
 
「からしそば? 聞いたことないな……」
 
僕はそう思いながらも、興味本位でそのからしそばなる料理を注文した。
……待つこと数分、からしそばが運ばれてきた。
運ばれてきたからしそばは、見るからにとても美味しそうなあんかけ焼きそばだった。
 
「食べる前によく混ぜてからお召し上がりください」
 
確か、店員さんにそう言われたと思うのだが、僕は軽く聞き流していた。
なぜならからしそば……というわりにはあんかけも黄色くないし、何よりもからしが料理のどこにも見当たらない。お皿の縁にからしが付いているのかなと思ったのだが、それすらもない。いったいこの料理のどこが『からしそば』なのだろう。僕は料理を前に拍子抜けしてしまった。
 
「からしそばなんて御大層な名前を付けているが、そこまで辛くないだろう」
 
僕はそう思いながら、からしそばを口に入れた。
 
「……」
 
まさに一撃必殺。蜂の一刺しとはこのことだ。僕はあまりの衝撃で声もだせなくなっていた。
鼻の頭をまるで鋭い刃物で刺されたような痛みに襲われ、目から涙があふれ出た。
どのぐらいの時間が過ぎただろうか。大量の涙と鼻を襲う地獄のような痛みが少し和らぎ、僕は周囲を見渡した。
 
「せやからよう混ぜろいうたやん……」
 
目が合った店員さんの心の声が聞こえたような気がした。
 
僕はもう一度からしそばを見たが、やはりからしはどこにも見当たらない。
恐る恐るもう一口食べてみると、先ほどの地獄の痛みがまたやってきた。
今度は先ほど刃物で刺された鼻の頭に釘を打たれたような痛みだ。痛みが倍増したのだ。
 
どうやらあんかけに尋常じゃない量のからしがはいっていることがわかった。おそらくからしそば一人前にチューブ入りのからしが半分くらい入っていたと思う。そしてあろうことか麺にもからしが練りこんであるようだ。まさに悪魔の仕業といっても過言ではない。
 
僕は店員さんの忠告を聞き流してよく混ぜないで食べたため、自ら地獄の扉を開いてしまい、阿鼻叫喚にのたうち回ることになってしまった。自業自得もいいところだ。僕は己の愚かさを悔いながら贖罪の意味も込めてからしそばを丹念によく混ぜてから口に入れた。
 
すると奇跡が起きた。
 
先ほどまであれほど辛かったからしそばが、なんと絶品料理に早変わりしたのだ。
 
からしとあんかけが絶妙に混ざり合い、独特の味わいを醸し出している。あの地獄のような辛さはいったいどこに消えたのだろうか。こんなに美味しいあんかけ焼きそばは今まで食べたことがない。僕は無我夢中で食べてしまった。
 
悪魔から女神へ早変わり……まさにそんな料理だった。
 
その後、僕は東京でもからしそばが食べられるお店がないかと色々調べてみたが、残念ながら1店も見当たらなかった。ならばと自作のからしそばを作って食べてみたりもしたが、やはり京都で食べたものとは決定的になにかが違っていた。それからというもの僕は1日1回はからしそばのことを考えるようになっていた。
 
からしそばを好きな時に食べられないかと思案していたら、なんと昨年の秋に関西に転勤する辞令がでた。そして今では月に3度はからしそばを食べている。
 
きっとからしそばが僕を京都に呼んでくれたのではないかと密かに思っている。
 
出逢いこそ最悪だったが今では僕にとってなくてはならない最愛の一品となった。
 
我が愛しのからしそば……僕の最後の晩餐のメニューにふさわしい1品である。
 
 
 
 
***
 
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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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