fbpx
メディアグランプリ

煩悩クッキング 外食だってクッキング編


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
 
記事:谷中田 千恵(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
健康診断の結果に、「注意」の文字を発見したのは、3年前だ。
 
「コレステロールって、あのコレステロール?」
 
ペラっとした心もとない診断結果を、何度も見返すが、確かに私のコレステロール値は正常域を、はみ出していた。
 
健康的な毎日ですと、胸を張ることができないことは知っている。
深夜のコンビニ食は、毎日のことだし、睡眠時間も十分ではない。
 
私は、大丈夫。
体重だって、20代の頃に比べれば増えてはいるけど、健康基準からは外れない。体に不調はないし、十分元気。
ただの注意喚起だ。問題ない、問題ない。
 
でも、コレステロールの言葉が頭から離れない。
勝手に、連想ゲームが進み出す。
コレステロール、血液ドロドロ、生活習慣病、成人病、病院、入院……。
 
診断結果の隅に描かれたゆるキャラが、にっこり笑って追い討ちをかける。
「野菜と、魚、お肉、バランスの良い食事に気をつけよう」
 
一念発起し、スーパーに出かけたのは、次の連休のこと。
カゴいっぱいの野菜を抱え、レシピサイトにかじりついた。
慣れない包丁に振り回されながら、1日かけて日持ちするおかずをたっぷりと冷蔵庫につめた。
 
野菜もたくさん。酸っぱいものから、味噌味、醤油味と味のバランスもいい。
私もやればできる。休みに作りためて、普段は、それをレンジで温めればいい。
簡単、簡単。さよなら、私のコレステロール。短い付き合いでした。
 
ところが、長年の生活習慣には、そうなる理由があるようで、数週間後にやってきた繁忙期は、あっという間に元の生活を連れてきた。
休みがない。あっても、疲れすぎて何もしたくない。
私の代わりに、ご飯を用意してくれるコンビニは、神様だった。
今まで通り、毎食、毎食、ファストフードやコンビニのお世話になり始めた。
 
それでも、小さな変化が現れた。
 
メニューを選ぶ、耳元で、もう一人の自分が、ささやく。
「バランス、バランス」
 
副菜と呼ばれるコーナーに体がおもむく。
かつ丼を左手に抱え、もやしのナムルに手を伸ばす。
 
カレーに、コーンサラダ。
牛丼に、とん汁。
クリームパンに、野菜ジュース。
 
徐々に、メイン料理が引きずられる。
 
しらすご飯に、けんちん汁。
あさりのパスタに、ミネストローネ。
梅のおにぎりに、鶏団子鍋。
 
栄養のことなんて、ちっともわからない。
食べ合わせは、なんとなく、実家の母のご飯を思い描いた。
 
バランスのささやきが、聞こえ始めて、半年後。
まず、肌が変わった。
それまで、吹き出物まではいかないけれど、ザラザラとした凹凸に、いつも背中や顔をおおわれていた。
それが、ない。なんだか肌が柔らかい。
ファンデーションの量も明らかに減った。
 
そして、体が、どことなく軽い。
生活リズムが変わったわけではないので、相変わらず疲れている。
それでも、休みの日に、散歩に出てみようかと思う。
仕事の後に、洗濯をしてみようかと思う。
 
何より、大きな変化は、罪悪感が減ったことだった。
 
自炊ができないことは、私にとって、大きな引け目だった。
年齢は十分大人なのに、きちんとした家事ができない。
料理もまともに作れない。
栄養のバランスを考えることもできない。
自分の体調を管理することができない。
小さな頃、思い描いた大人になれていないことが、悲しかった。
 
食べ合わせを考えるようになってから、それでも、いいかと思えるようになった。
確かに、私は、自炊ができない。
でも、それは、努力が足りないわけではない。
疲れるほど、仕事をしている。
それで、ご飯を食べている。
充分じゃないか。
 
あれから、3年がたち、私は勤めていた会社を辞めた。
 
今は、自炊をする時間がある。
相変わらず、料理の腕は上がらない。
レシピ本なしでは、キッチンに立てないし、作れるメニューも限られる。
 
仕事もないくせに、疲れたと言って、コンビニに駆け込むのも変わらない。
冷凍庫には、あふれるほどの冷凍食品があり、缶詰などのレトルト食品も、ぎっしりと買い込んである。
スナック菓子をおかずに、白米をかきこむなんて暴挙に出ることもある。
 
それでも、いいのだ。
 
外食であれ、自炊であれ、自分の食事の面倒を自分で見られること、その全てがクッキングなのだと思う。
無理をして、見栄を張る必要など、どこにもない。
これは、私のためだけの時間だ。
 
家族のために料理をする人だって、きっと同じだと信じている。
食事がおいしいという意味の中には、作った人が心地いいということまで含まれているに違いない。
 
欲望や、煩悩のまま、思うがままに、食事の準備を楽しめばいい。
その方法に、間違いなどない。
 
きっと、料理にも、人生にも、正解や不正解は存在しないのだから。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

【2020年2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《1/26(日)までの早期特典あり!》


 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事