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あそこ社長の口車に乗るな!《週刊READING LIFE Vol.66 買ってよかった! 2020年おすすめツール》


記事:吉田健介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「iPad Pro、買った方がいいですよ」
 
忘れもしない。
あれは、僕がまだ天狼院を知って間もない頃のこと。
ライティング・ゼミ第5講。
 
「別にAppleの回し者ではないんですが」
そう続けながら、iPad ProとApple Pencilの魅力を語る人がいた。
 
「Apple Pencil、これ鉛筆以上ですよ」
「大手の出版社が続々とこれに変えています」
「漫画家の人も、最近はこれで描いてますよね」
 
新手の詐欺か。いや違う。
あくまで講義の一例として、iPad Proを挙げているだけ。
iPad Proの性能と言うよりも、どういう利点があるのか、効用があるのか、メリットがあるのか、まさに気持ち良くツボを刺激してくる。
押し売りをしているわけではない。あくまで淡々と事実を述べ、自身がどのように得をしたのかを語っているだけ。決して「さあ買うの? 買わないの?」と迫ってくるわけではない。
あくまで授業の教材。一例。例え話。授業で必要な素材。
 
ただ、どうやらあの社長の周りには、同じ手口でiPad Proに惹かれ、購入した人が続出しているそうな。どんどんと感染している者がいるそうだ。
「僕、1円ももらってませんから」
そう言い放つものの、そのコメントすらセールストークに聞こえる。
「Appleの回し者ではないですから」
微笑みながら語る。
 
「ふーん、そんなもんか……」
その当時、僕はやや淡白に聞いていた。
無印で買ったB5のメモ帳がある。どこで入手したか分からないボールペンもある。このボールペン、滑り心地がちょうど良いし気に入っている。書籍『メモの魔力』で学んだメモ術を実践中。だから手書きで十分事足りていた。このタイミングでiPad Proを買う予定もないし、買う気もないし、欲しいとも思わなかった。
その手には騙されない。毎回そうだ。この社長が言うことについつい乗ってしまう。彼がおすすめする本をどんどん読んできた。
「時間術ゼミ良いですよ」と社長が何気なく口にした一言。気になって受講もした。
他にも色々な講義に参加。
確かにどれも僕を満足させてくれた。月々の出費を計算しながら、「これは投資だ」と思い、本を購入し、講義に参加した。ここ1年、妙に出費が絶えないな…… と疑問を抱きながらも、奥さんには若干内緒にしつつ、社長の言葉に乗っかってきた。
 
iPad Pro…… 高い買い物だ。
「買ってから元を取れば良いんですよ」と言う。
いやいや三浦さん。僕は公務員。副業禁止。
今回ばかりはその言葉に賛同出来ない。その手には乗らない。簡単には抱かれない。
ガードを固めている自分がいた。
確かに惹かれるものはあったが、自分には関係ないや、という距離感。
気にはなったが、必要ないな、と最終的にジャッジした。
ただ、変な種が植えられたような気分。

 

 

 

「あれ、動かない…… 参ったなー」
 
時にトラブルというものは何の前触れもなくやってくる。
タイミングも僕のペースとはお構いなし。だからこそ、ごくごく小さな問題でも、大きな問題へと発展する。タイミングを外されるからだ。心理的なストレスが相乗効果として自分の体を汚染するのである。
 
そしてそれは突然にやってきた。
 
「あれ、動かない…… 参ったなー」
もともとパソコン上で絵を描くことは滅多になかった。
ただ、たまに簡単な図やイラストを描いて、文章の資料として使用していた。
マウスでは描きづらいようなものを、ペンタブで描いていたのだ。
年に数回程度の頻度。
なかったらなかったで、他の方法を探れる程度のイラスト。
 
7、8年前に購入したペンタブは、度重なるPCのバージョンアップで、ついに作動しなくなった。どこかで予想はしていた。いつかこの時がくるのかも、と予期はしていた。
前もって知らせてくれたら良いものの、そう都合良くはいかないもの。
ある日突然、僕のペンタブは動かなくなっていた。血液が通わなくなっていた。
繋げても沈黙を貫いているのだ。
必要だったものは、本当にごく簡単なイラスト。
ペンタブがあれば、数分で描いてしまえるような手軽なもの。薬味を添える程度。
ちょっと棚の上にあるものを、小さな梯子を持ってきて「よいしょっ」と取るくらいの労力。
梯子を持ってくる手間さえ惜しまなければ、簡単にクリアできる問題、だったはずなのに。
肝心のペンタブが動かないのだ。
ケーブルをどう繋ぎ直しても、口を固く閉ざした石像のように、止まり続けている。
ほんの数分だけでいいのだ。ほんのちょっとだけ動いて欲しい。
そんな願いも虚しく、僕のペンタブが作動することはなかった。
 
このギャップ……
ごく簡単な作業にも関わらず、妙に遠回りしているこの感覚。
ちょこっと動いてくれれば、すぐに終わるはずの用件。それが出来ない歯痒さ。
まさにストレス……
それは妙な違和感として僕にストレスを与えていた。
 
「……」
 
どこかから声が聞こえてくる。
 
「……良いですよ……」
 
遠くの方から聞こえてくる。
同じセリフを繰り返している。エコーが効いている。
大きさは増し、言葉の輪郭がはっきりとしてくる。
 
「iPad Pro、買った方がいいですよ!」
 
「出た……!」
そう、それは三浦さんの声だった。記憶と妄想の。
何とも絶妙なタイミングで僕に語りかけてきた。
ポンポンと肩を叩き、近くで話しかける。
「iPad Pro、買った方がいいですよ」
 
植えられた種が、いつの間にか芽を出し、絶妙なタイミングで花を咲かせる。
 
「いや待て。冷静に考えるんだ。僕にはメモ帳があるじゃないか」
そう、僕には無印で買ったメモ帳があるのだ。書き心地がちょうど良いボールペンも添えられている。
「必要ないない。僕にはiPad Proは必要ない。大げさだ。値段も高いし」
心の中でそう呟く。
 
「いやいや、買ってから元を取ればいいですよ。その分の仕事をしたらいいんですよ」
三浦さん(妄想)が語りかける。
 
「だって僕は公務員ですよ。副業も出来ないし、買ってから元を取るなんて出来ないんですよ。だから別の方法を考えます」
僕は冷静に答えた。そう、僕は中学校で働いている。だから、購入してからパフォーマンスで元を取る手段はないのだ。
 
「元を取るっていうのは、お金だけじゃないですよ。作業効率が上がって、時間の節約にもなりますし、何よりストレスが減りますよ」
 
妄想三浦社長が優しく語りかけてきた。iPad Proを広げ、Apple Pencilで何やら作業をしながら。
押し売りする感じではない。アップル社からは1円ももらってないのだ。あくまで彼が体感している事実を告げているだけなのだ。

 

 

 

そのやりとりは、あらゆるタイミングでリピートされた。
トイレをしている時、車を運転している時、街を歩いている時。
毎回同じ掛け合い。
僕の反論に対して、妄想三浦は淡々と事実を述べる。決して僕を説得しようとか、言いくるめようとか、そういう切り口ではない。あくまで事実を述べる。
 
そんなある日、こともあろうか、ヨドバシカメラのアップルコーナーを通り過ぎた。
 
「見るだけなら……」
そう見るだけならタダだ。
 
「これがiPad Proか。サイズは大きいほうが良いよな。あ、これがprocreateというアプリね…… 確かに描き心地は良い」
 
「そのアプリ、筆の種類や色数も豊富ですよ」(妄想三浦)
 
「かなり直感的に使えるな」
「でしょでしょ!」(妄想三浦)
 
いや、ダメだ。その手には乗らないぞ。僕は簡単には抱かれない。そう僕には妻と子供がいるのだ。これ以上出費を重ねるわけにもいかない。確かに使い勝手は良さそうだ。どう活用するかは買ってから考えると良いのかもしれない。Apple Pencil…… こりゃあ大したものだ。非常にストレスなく描ける。何はともあれアップル製品。持っているだけでテンションが上がる。お洒落だ。これを中学校の授業で活用したら、みんなからの注目が集まること間違いなし。いや、ダメだ。若干上着を脱いでしまっているではないか。暑い暑い。ついつい気持ちが昂ってしまった。しかし…… ちょっと欲しい…… あれば間違いなく便利だ。間違いなく仕事のパフォーマンスは上がる気がする。作業効率が上がる可能性を秘めている。どうしよう…… っていうか、迷ってる? まあー、どうでしょうか。手をつなぐくらいならいいかな…… 良いよね?
 
2020年1月。
iPad ProとApple Pencilを携えて、僕は様々な作業を行っている。
日常生活での活用もさることながら、仕事でもどんどん活躍中。
あらゆるものをiPad Pro1台に詰め込んでいる。
しかも、まだまだ効率を図る可能を秘めている。
何よりもお洒落だ。これぞアップル製品、という感じ。
使いながら、あれもできる、これも出来そうだ、とアイデアが枝分かれに広がっている。
それに伴って、新しいアイデアや新しい価値を生み出す相棒になりつつある。
 
「今回も乗ってしまった……」
そう、結果的に今回も社長の言葉に乗っかってしまった。
毎回そうだ。いつもこうなる。
ただ、必ず満足させてくれる。
間違いなく、効果を生み出してくれる。
 
この本、読んで良かった。
この講義、受けて良かった。
iPad Pro、買って良かった。
 
結局の所、僕は社長自身に最初から乗っかっているのだ。
惜しげもなく色々教えてくる三浦さん自身に僕は惹かれているのだ。
基本的に信用しきっているのだ。
ベースとして、あの社長に対する信頼があるのだ。
相応以上のものをもらっているのだから。
 
2020年、僕はiPad Proを新たに携え、学びを深めていく年になるだろう。
2020年、三浦さんを活用して、自分を高めていく年になるだろう。

 
 
 
 

◽︎吉田健介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
1981 .7.22 生まれ。兵庫県西宮市育ち。現在は京都府亀岡市在住。
関西大学卒業、京都造形芸術大学(通信)卒業、佛教大学(通信)卒業。
現役の中学教師。美術と数学の二刀流。
趣味はパーカッション(ダラブッカ、フレームドラム、カホン)。
油絵と写真の2本柱で制作活動。
写真 kensukeyoshida89311.myportfolio.com

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