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メディアグランプリ

愛情の断捨離


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
 
記事:村野友美(ライティング・平日コース)
 
十年以上前、健康診断で肺に影が見つかった。
その後精密検査をし病院から出たら、世界に色がなくて驚いた。
 
肺かぁ。もう死ぬんだな。
 
そう思いながら街に出たら色が無くなっていたのだ。
 
頭が真っ白になって、白黒の世界を家とは逆の方向に歩いていると、
小さな女の子と手をつないでほほ笑んで歩いている若いお母さんがいた。
 
二人の姿があまりに美しくて、色が戻った。
そして勝手に涙がポロポロと流れ落ちた。
 
母になんて言おう。
夫になんて言おう。
子どもには言えるだろうか。
 
私は今、
何をしたいんだろう。
何をすべきなんだろう。
仕事はどうする?
最期の日々をどうすごしたいんだろう。
 
これで良かったと言える人生だったろうか。
短かすぎはしないか?
まだ何も成しえてない。
夢もある。
子どもはまだ小学生なのだ。
あの子は私の死を受け入れられるのだろうか。
 
いろいろなことが頭をよぎるがまとまらない。
 
「停止」状態だった。
 
家に帰って私がすぐに取り掛かったことは
古い自分のアルバムの整理だった。
 
自分の赤ちゃんの時からのアルバム。
段ボール箱3箱分の昔の分厚い表紙のアルバムだ。
 
何度も見た、幼い頃の写真。家族みんなで見て大笑いした懐かしいアルバム。
それらを整理して、ゴミの日に捨てた。
 
子どもが大きくなってから、母親の赤ん坊のころからのアルバムを
処分するのは辛いだろうと勝手に思って捨ててしまったのだ。
 
結婚後、母からアルバムを持っていきなさいと言われた時は、
とても寂しかったのを覚えている。
 
「えっ? アルバムって親が老後に子供の幼い日を懐かしむものじゃないの?」
 
と心の中で思った。
母は私がかわいくないのか? とさえ思った。
なんだか、親業はもう卒業と宣言されたようで哀しかったのだ。
 
つとめて明るく母に電話した。
 
「まだ、結果は出てないけど、先生の様子からはあまりいい感じではないのよ」
 
「そんな、まだわからないんでしょ」
 
「まぁ、しょうがないし。最悪を想定してるけど。
あ、大丈夫だからね!
心配かけたくないんだけど、やっぱり言っとかなきゃと思ったから。
でね、アルバム全部処分しちゃったー! ハハハ」
 
「えっ?」
 
軽く笑い飛ばしたつもりが、母の反応に戸惑った。
電話の向こうで絶句している。
 
この時自分の浅はかな行動にやっと気付いた。
母を傷つけてしまったということにも。
 
幼い日のアルバムを結婚を機に持たせてくれたのは、
母が私の幼い日をもう見ないからじゃなくて、
私が両親にどんなに愛されていたかを知ってほしかったからだったんだ、と分かった。
 
逆だったんだ。
 
「一生懸命育てたんだよ」
 
っていうメッセージだったんだ。
 
はだかんぼの赤ちゃんの写真の横には、生年月日と身長、体重。足形、手形。
 
祖母や両親に抱かれたお宮参りの着物姿。
七五三、遊園地、よそ行きの服を着ておすまししている姿、
プール、海、どこだかわからないけれど大泣きしている顔、
大笑いしている顔、ふくれてにらみつけている顔、入園式に卒園式……。
 
親になってみて分かる。
子供のどんな瞬間も愛おしく、残しておきたいという気持ち。
ここまで大きくなったという安心感や、感謝の気持ち。
 
母はそれを伝えたかったからこそアルバムを持たせてくれたんだ。
 
アルバムを捨ててしまったことについていつか謝りたいと思っていたけれど。
 
皮肉にももうすぐ死ぬんだと覚悟を決めた私の検査結果は白で、
その後すぐ母に余命宣告が出た。
 
親より先に逝く親不孝だけはまぬがれたが、
アルバムの件は謝れないまま、お別れしてしまった。
 
今となっては母には悪いがあの時アルバムを処分できて良かったと思っている。
断捨離を進める中で、形あるものに執着したくないと思うことが増えてきた。
 
両親、特に母の愛情はいやというほどわかっているし、
何度も見たアルバムは、私の中の記憶に残っている。形はなくても。
 
結果的には早とちりのおバカだったけど、
死を本気で覚悟したことで、ある程度の心の断捨離ができたことは幸いだった。
 
本当に大切なものが見えて、
どうでもいいものへの執着が無くなった。
 
お葬式もお墓もいらないと心から思うようになった。
本当に要らない。
逆に必要だと思うことは夢ではなく、すぐに現実にしようと思うようにもなった。
 
会いたい人にはすぐに会おうと思う。
やりたいことは今すぐやろうと思う。
執着せずに今を楽しむために。
 
アルバムを捨てたことで、
いろいろなことから身軽になれたような気がする。
母への愛は私の中でより強固なものにもなった。
 
母を傷つけてしまったけれど、
結果的にはあれで良かったんだ。
 
さあ、今度は私の番だ。
 
24年前からの大量のフィルム写真とアルバムを整理しなくては。
 
母と違ってまめではなく、仕事もずっとしていた私は、
息子の写真を撮り貯めし、いつかきれいに整理すると思ったまま、
段ボールに大量に保管したままだ。
 
キレイにアルバムに整理して、
結婚することになったら持たせてやりたい。、
 
アルバム整理を通して、
心の中で本当に子離れしなくては。
 
子供に執着せずに、その幸せだけを願えるだろうか。
本当に親になれるだろうか。
ゆっくりアルバムを片付けながら自問してみよう。
 
でも、将来のお嫁さんに嫌がられそうだなぁ。
「邪魔になるから実家で保管してください」とか(笑)
 
 
 
 
***
 
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2020-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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