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メディアグランプリ

バレンタインデーの広告を見た瞬間、決心がついた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ユイ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
8年前の2月。当時、私は大学2年生。
日が暮れて街灯がきらめき、人がわんさかいる大阪梅田の街でひとり、途方に暮れていた。
「バレンタインデー、どうしよう……」
 
この「どうしよう」とは「どんなチョコをあげようかな?」という意味ではない。
“好きな人にチョコをあげる?あげない?”の「どうしよう」だ。
なぜそこから悩んでいるかというと、その好きな人と私の関係が、少し微妙なものだったから。
もう時効にしたいのでカミングアウトするが、その人は私が通う大学の事務職員だったのだ。
 
当時、私は学園祭の実行委員会に所属していて、それがきっかけで知り合った。
5つほど年が離れているけど、学生相手に仕事をしているからか、見た目が若々しくて、楽しそうに学生と話しているのが印象的だった。
当時の私にとっては、とてもとても魅力的な大人の男性に見えた。
 
その人も学生時代は学園祭実行委員をしていたという。
当時の話を楽しそうに話してくれたり、真面目な話のときは真剣に聞いてくれる、頼りになるお兄さん。
周りの男友達からは出てこないようなアドバイスや言葉をくれた。さすが大人。
あっけなく好きになった。
 
ただ、思い返してみると、“恋人になりたいから、チョコレートを渡して告白する”のではなくて、なにか口実をつくって1回でも多く会いたかったんだと思う。(いや、あわよくば恋人になりたかったけど)
同じ大学内にいるはずだけどいわゆるマンモス校だったため、ばったり会うなんてことはほとんどなかった。
だからこそ、バレンタインを口実にして、どうにか会ってその人との時間を過ごしたかった。
 
「私は学生で、あの人はその大学の職員さんだし」
「あげたい……。でも、これは好意の押し付けかも」
 
買う決心もできないから、お店に入る勇気もない。
目的もなくふらふらと歩く。
 
ふと、たまたま、視界に入ってきたのは、茶屋町のLOFTの入り口に貼られた広告。
 
「告白しなかった恋は、どこに行くんだろう。」
 
私はハッとした。
見た瞬間「チョコを渡さないと」と強い使命感が沸いてきた。
今、振り返ると「いやいや、さっきまでめっちゃ悩んでたやん。好意、押し付けてない?一旦落ち着こ?」と冷静に突っ込める。
しかし、相手は恋するJDだ。
ある意味無敵だ。
言葉ひとつで大胆に動くことだってできちゃうのだ。
 
心が決まったら、あとは早かった。
歳上の男性に渡すんだし、ここは百貨店一択。
時計を見ると19時を指していた。閉店まで時間はあるが、1秒でも、早く買わなきゃ。駆け足で向かう。
 
有名ブランドからネタ系まで、あらゆるチョコレートが揃っているバレンタインの催事場で、あの人が喜んでくれそうなものを探す。
どこにどんなチョコレートが売っているのか、店内MAPとにらめっこしながら実物を確認し、狙いを定める。
悩んだ末、黒の箱に銀色のロゴがシックな6粒1,600円のチョコレートを買った。
 
バレンタインデー当日。
待ち合わせをして、チョコレートを渡した。
なにを話したか、もう覚えてないけど「ありがとう」は言ってもらえたと思う。
 
一旦、ミッションコンプリート。あとはホワイトデーあたりに来るはずの、連絡を待つだけ。答えがどうであれ、リアクションは来るだろうと思っていたし、バレンタインとホワイトデーで2回は会えると思っていた。
でも、なんの連絡もこなかった。
スマホが震える度に「もしかして?」と期待したけど、あの人からではなかった。何をしても気持ちは沈んだまま。でも、丸1カ月が経ったとき「本当にもう来ないんだな」と、諦めることにした。
 
なんの実りもない恋愛だった。
むしろチョコレート代がマイナスだった。
しかし、私はタダで転ぶオンナじゃない。
 
ひとつ、すごいことに気付いた。
 
“広告で、言葉で、人は動く”
 
毎日見ているのに、ことごとくスルーしてきた広告。
“広告はだれかの背中を押してくれるもの”だと認識した初めての出来事だった。
 
「告白しなかった恋は、どこに行くんだろう。」という、たった一言の言葉を見て、チョコレートを買った。好きな人に渡すことができた。
仲のいい友だちからの応援でもなく、誰が書いたのかも知らない言葉の力で。
 
返事のない失恋になったのは悲しかったけど、後悔はしていない。
想いが迷子にならず、届けたいところに届けることができたのは、あのコピーのおかげだ。
 
就活が始まった3年生の冬。
この衝撃が忘れられず、「私も人の心を動かし、背中を押せるようなコピーを書きたい」と思うようになった。
お金がなくて無料体験版しか行けなかったけど「少しでもコピーライターに近づきたい」と思い、宣伝会議のコピーライター養成講座にも参加した。
この失恋話はエントリーシートにも書いたし、面接でも話した。
その結果、私の熱量を汲み取ってくれた会社と奇跡的に出会い、運良く新卒でコピーライターの肩書きを手に入れた。
入社してからは先輩たちが丁寧に、ときに厳しく“コピーとは”を教えてくれた。
「この言葉を見た人の背中を押せますように」と想いを込めながら書いた。
年数を重ねるにつれ、クライアントに褒めてもらうことも増えた。もっと大きな世界で挑戦してみたいと思い、転職活動を始めた。
 
ある制作会社から内定をいただいた。
その会社のメインクライアントは梅田にある百貨店。
そう、8年前の冬、チョコレートを買いに走った百貨店。
「こういう縁もあるんだなぁ」と少し他人事みたいに考えてしまう。
お客さんとして利用していた分、つくる側にいるのが少し不思議な感じ。でも、嬉しさで胸がいっぱいになった。
 
面接でもこの話をしたから、早速チャンスを与えてくれたのかもしれない。
嬉しいことに、入社して間もなくバレンタインのWEBサイトを作る案件に携わらせてもらえることになった。
 
バレンタインの広告に背中を押された私が、巡り巡って、背中を押す側になった。
「8年前の私が知ったら、驚くかなぁ。こんな未来が待ってるよ」と、大学生だった頃の自分を思い出す。
 
大学職員さんを好きになって、悩みまくって、ふと目に留まったのが広告であり、言葉だった。
この出来事が私の人生を大きく動かした。
失恋はしたけど、その出来事たちが今の私をつくっているし、通るべき道だったんだと思う。
 
もうかれこれ、コピーライターを名乗って5年が経つ。
「告白しなかった恋は、どこに行くんだろう。」のような名コピーはなかなか書けないし、まだまだ道は険しい。
心が折れそうになるときもある。
そんなときは、あのコピーを思い出すようにしている。
「チョコレート、渡さなきゃ」と心が動いた瞬間を思い出す。
すると「よし、もう少し粘ろう」と背筋が伸びる。やっぱり言葉ってすごい。
 
早くあのコピーに追いつけるように、一人でも多くの心を動かせるように。
私は今日も言葉を紡いでいる。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2020-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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